563 オーガキラー35
「オリハ、運転を代われ」
ゴズがハッチから車内へと滑り込み、オリハと運転を代わる。
赤ん坊のような体型の巨人たちは、手に悪臭のする泥団子を持ちながら、ダークラットへと走ってきている。巨人たちは人型だが、植毛すること忘れたかのようなつるりとした頭、サングラスのように大きく黒い目――人を模した機械のようにも見える。
「一、二……沢山だな」
「赤いの九十四個」
ゴズが表示されたレーダーを見て大きなため息を吐き、オリハがそこに灯った赤い点を数える。
「ゴズ」
オウカが無骨な刀を構えながらゴズを呼ぶ。
「お嬢、分かっていますよ。お嬢を汚物まみれにするような運転はしませんぜ。とはいえ、お嬢も気を付けてくださいよ」
「ゴズ、うむ。分かった」
「さあ、突っ込みますよ」
ゴズがダークラットを急発進させ、赤ん坊のような体型の巨人たちへと突っ込む。
赤ん坊のような体型の巨人たちが手に持った悪臭を放つ泥団子を次々に投げてくる。ゴズが残像が残るような急旋回を繰り返し、無限軌道を横滑りさせながら、飛んできた泥団子を回避していく。
「はぁ、まったく。こいつが小回りの利くクルマで良かったよ。だが、それでもッ!」
だが、全てを避けきることは出来ない。飛んでくる悪臭を放つ泥団子の数が多すぎた。悪臭を放つ泥団子は四方八方から飛んでくる。
「汚物まみれは……外に居るお嬢のためにも避けないと、な」
ゴズはとっさにダークラットの周囲を覆っているシールドの形を変える。飛んできた悪臭を放つ泥団子がシールドの上を滑り、跳ね返る。跳ね返った悪臭を放つ泥団子は、そのまま赤ん坊のような体型の巨人の方へと突っ込んだ。
跳ね返った悪臭を放つ泥団子は――赤ん坊のような体型の巨人、その巨人の頭部分にある口のような器官に命中する。運悪く口に泥団子が入った巨人が、くるくるとその場で回り、倒れる。サングラスのような黒い目で分からないが、どうやら悪臭に目を回し、倒れたようだ。
ダークラットが突っ込み、赤ん坊のような体型の巨人の足元を抜ける。走り抜けていく。
赤ん坊のような体型の巨人の一人が、ダークラットへぬっと手を伸ばす。ぬるりとした動作でありながら非常に素早い。ダークラットが掴まれる――そう思われた瞬間、その腕が宙を舞っていた。
オウカが振り抜いた刀を引き戻し、自分の肩に乗せる。
「ふむ。愚鈍で鈍重そうな見た目の割に、なかなかに素早い」
赤ん坊のような体型の巨人たちが、悪臭を放つ泥団子を持っていた汚物まみれの手を、次々とダークラットへ伸ばす。
「うえ。ゴズ、さすがにアレを斬るのは……」
「お嬢、しっかりと掴まっていてください」
「む。うむ」
「オリハも衝撃に備えろ」
ゴズがダークラットのシールドを操作する。地面に当て、その反発を利用して、ピンボールの球になったかのように、跳ね返り、ジグザクに走行していく。赤ん坊のような体型の巨人の足を、迫る手を――シールドを犠牲にし、多くのパンドラを消費しながら駆け抜ける。
「見えた。お嬢、突っ込みますよ!」
そして、そのまま大きく口を開けた倉庫のような建物の一つへと突っ込む。
ゴズはただ闇雲に動いていた訳では無い。レーダーで周辺の地形、建物を確認していた。そして、避難が出来そうな建物――目的である遺跡を探し出し、逃げながらもそちらへと動いていた。
「ふぅ、お嬢、大丈夫ですか」
「うむ。危うかったが、一滴も付着してない」
「それは良かったです」
ゴズがレーダーを確認し、オウカが突っ込んできた入口側を見る。
「お嬢、どうやら連中、この中に入って来られないようです。建物、あー、この遺跡ですか、ここに攻撃を仕掛ける様子も無し、と。奴ら、この周辺を守る守護者みたいなものなのかもしれませんね」
「ふむ」
オウカは無骨な刀を脇に抱え、ダークラットの砲塔に寄りかかりながら腕を組む。
「お嬢、偶然だと思いますか? 自分たちが来るのが分かっていたかのように待ち伏せをされていた――とも思えますが、一個しか無い出入り口を常に見張っていたとも考えられます」
「ふむ。偶然? いや、偶然だけでは無い?」
オウカは腕を組み、ブツブツと呟いている。
「とりあえず、お嬢、偶然、必然、なんにせよ、食い破りましたね。自分たちを、この遺跡群へと誘い込もうとしていた奴らの思惑は分かりませんが、無事に遺跡の一つに到着です。ここに使える武器があれば上々。それを使って何かを企んでいる奴らを倒してしまいましょう」
「む。ゴズ、ここが遺跡なのか?」
考え込んでいたオウカが腕を解き、ゴズへ聞く。
「ええ。ここも――この建物も遺跡です。周辺情報を確認しましたが、未開拓地域だけあって遺跡だらけですよ。ここも中規模の遺跡、その入り口ですね。ただ、北部からの、開通した洞窟に近いところなので、あまり良いものが残っていないかもしれません。そうなると次の遺跡に向かうべきなんですが……」
ゴズはそう言いながら建物の入り口の方を見る。
「ふむ。外には、あの臭い連中か」
「ええ。またあの中を抜けていくのは大変です。ここで何か見つかれば良いのですが」
ゴズは大きなため息を吐き、肩を竦める。
「むぅ」
オウカも大きなため息を吐いていた。




