561 オーガキラー33
チャーハン作るよ!
常備していた鉄鍋、そこに油をたっぷりと入れて熱し、充分に温まったところで適当な具材を入れる。炒める。そして、米のようなものを入れ、適度に水分が飛んでカラッとなるまで炒める。最後に砕いたカレーのルーを入れて混ぜれば、ゴズ特製のカレーチャーハンが完成だ。
「お嬢、完成です。炒めている時、ご飯を火に通すのがチャーハンを上手く作るコツだと言っている人も居ましたが、火加減だけ気を付ければ充分なんですよ。格好をつけて鉄鍋を振るう必要はありません。米が油にコーティングされるように混ぜれば良いんですよ。コツ、コツですか? しいて言えばカレーの匂いが飛ばないように、カレーは最後にさっと混ぜるのがコツでしょうか。どうです、あのしょぼくれたカレールーで作ったとは思えないチャーハンでしょう。チャーハンは作り方にこだわりがある人も多い料理です。具材を入れる順番や火加減、その人その人の方法が有り、正解が有り、どれが正解と言うのが難しいのですが、自分は美味しく出来たら、それが正解だと思っていますよ。簡単で奥が深い、それがチャーハンです」
「もしゃもしゃ」
「もぐもぐ」
ゴズが何やら色々と語っているが、オウカとオリハはそれを無視してゴズの作ったカレーチャーハンを食べている。
オウカとオリハは勝手におかわりをし、カレーチャーハンをペロリと食べきる。
「ゴズ」
綺麗にカレーチャーハンを食べきったオウカがゴズに呼びかける。
「なんでしょう、お嬢」
「カレーはカレーライスが至高だ」
オウカの言葉にゴズが大きなため息を吐く。
「お嬢……」
「うむ」
オウカは美味かったとも不味かったとも言わなかった。だが、ゴズはそれだけで察してしまう。
「やれやれ、仕方ありませんね。あり合わせでは無理がありましたか。分かりました。今回の件が解決したら、本当のカレーチャーハンをお見せしますよ」
「む。カレーはライスこそが至高だと思うのだが」
「お嬢は知らないようですね。カレーとライス。確かにカレーはライスと合います。美味しいです。だが、そこにこだわる必要はありません。ナンでもラーメンでもうどんでも、そうなんでも! カレーと合わせることによって美味さの可能性が開けるのですよ」
「ふむ。確かに、一考の余地が……」
オウカが腕を組み、何か考え込む。
「カレーは飲み物ー!」
カレーチャーハンを食べきったオリハが楽しそうにそんなことを言っている。
「そうだ。オリハ、カレーは飲み物だ、という言葉もある。よく知っているな。いや、辿り着いた……のか」
……。
食べたものに何か変な成分でも混じっていたのではないかと心配になるくらいに、ゴズとオウカ、オリハは異様な高揚状態になっていた。これから待ち受けるものを前にして気分が高揚しているのかもしれない。
……。
もしかするとオウカとオリハが、ただ単にカレー中毒者なだけかもしれない。
そして、夜が明けた。
「お嬢、それにオリハ、衛生管理キットです。今は仕方ありませんが、宿がある場所に着いたら体を洗ってくださいよ」
「む」
オウカがゴズからスプレー缶のようなものを受け取り、体に振りかける。オリハもそれを真似る。
「お嬢、野生動物じゃあないんですから、身だしなみには気を付けてください。いくら、ここが砂漠で、命のやり取りが日常茶飯事で、お嬢が戦いを生業とするクロウズだとしても、です。真に身だしなみに気を遣えるのは余裕があるものだけです。つまり、それは、それが上位者として、上に立つ者としての矜持になるんですよ」
「ゴズ、うるさい」
オウカが顔をしかめる。そんなオウカを見てゴズは肩を竦める。
「やれやれ。はい、お嬢もオリハも準備は出来ましたね。では行きましょうか」
ゴズがダークラットを動かし、洞窟の中へと進む。
「む。薄暗い」
洞窟の中には明りとなるようなものが設置されておらず、完全な闇に支配されていた。
「そうですね。クルマのライトを点けます」
ダークラットのライトが暗闇を照らす。
「ここを通るのは初めてですが、明りとなるものが何も無いとは……人の行き来が全くないとは思えないんですが、どうなっている?」
ゴズの言葉の最後の方は独り言のように呟くものになっていた。
「お嬢」
ゴズがオウカに呼びかける。
「む? むぅ、なんだ?」
オウカから返事が返ってくる。それは普段通りの言葉のように聞こえた。だが、ゴズにはそうでは無かったようだ。ゴズが大きなため息を吐く。
「オリハ、運転は任せた。狭いから、柱にぶつけるなよ。洞窟を支えているものだ最悪生き埋めになる」
「ゴズ、分かったー」
「お前まで俺をゴズ呼びか。まぁ、いい」
ゴズとオリハが運転を代わる。
「お嬢、自分が外に出ます。お嬢はどうぞ、クルマの中に」
「む」
オウカから困惑したような声が聞こえる。ゴズはもう一度大きなため息を吐く。
「お嬢、適材適所というヤツですよ。お嬢は中、自分は外、オリハが運転。それが今、一番、マシです」
「む。分かった」
ゴズがダークラットのハッチから外に出、代わりにオウカがクルマに入る。
ゴズは、オウカがクルマの中に入ったのを見届けると、すぐに洞窟の先を――正面へと顔を向ける。
真っ暗だ。
闇の中、ダークラットのライトだけが洞窟を照らしている。
狭く、長い洞窟。
誰かが開けた、通り抜けるだけの洞窟。
暗闇の中、ゴズは大きなため息を吐き、肩を竦める。




