558 オーガキラー30
ダークラットが無限軌道をキュルキュルと響かせ、オウカが斬り開けた扉を抜ける。
そして――すぐに取り囲まれる。赤髪逆毛たちだけではない。無駄に尖った肩パッドの奴ら、頭に落書きが描かれたモヒカン、ドクロの眼帯をした奴ら――などなど一癖も二癖もありそうな、見るからに頭の悪そうな連中が並んでいる。
「おい、こら、何しやがーる!」
「そうであーる」
「おいおいおいおい、洒落になってねぇ、洒落になってねぇよ」
「夢見テル? コレ、夢?」
「有りえぇねぇ、マジ、有りえぇねぇよ」
「ぶっちゃけ、どうなんだ、これ?」
「おい、説明しやがれ! ふざけんな、こら!」
「いっぺん、死ヌか?」
「お前ら、死ンだよ、死!」
一癖も二癖もありそうな見るからに悪党という連中がわぁわぁと騒いでいる。
「こいつらは漫画の世界から飛び出してきたのか?」
ゴズはダークラットの車内で大きなため息を吐き、外部スピーカーのスイッチを入れる。
[俺たちは、この街に補給と買い物に来た]
ゴズの言葉にダークラットを取り囲んでいた連中が反応する。
「買い物だぁぁ! これだけのことをしでかしてよー、よー言えーる」
「ざけンな、こら」
「デカブツ!」
「死にてぇようだな」
「死ネ、死ネ、死ネェ」
騒々しい連中にゴズはもう一度大きなため息を吐く。
[それで? どうなんだ?]
ゴズの言葉に連中がすぐに反応する。
「それで? じゃねえよ」
「弁償しろ、弁償!」
「ざけンな! どうすんだよ、これ」
「コイルだ! とりあえず俺に百コイルで勘弁してやる!」
「ンだァ! 俺にも百コイルだ!」
「買い物? こいつ買い物って言ったぞ!」
「買い物がしてぇなら、最初からそう言えよ、ボケ、アホ、おたんこなす!」
いかにも、という悪党の格好とは違い、言っていることが非常にしみったれている連中だった。
[最初から? 最初からそう言ったが? それで通さなかったのはそちらだろう。だから道を開けたまでだが?]
ゴズの言葉に再び連中がざわざわと反応する。
「言った?」
「今日の当番はどこのどいつだ?」
「レッドサイクロンだぞ。こんなやべぇ奴らを通すなんて何してる!」
肩パッドやモヒカン、眼帯などの連中が一斉に赤髪逆毛たちを見る。
「おいおいおいおい、ンだよ! 俺らのせえぇかよぉ! 俺らのせいだって言うのかよぉ!」
「俺らは、ちょっと通行料を取ろうとしただけだろーが。お前らだってやってるだろ。なんで俺らの時だけ、こんなやべぇのが来るんだよ!」
「俺タチ、悪クナイ」
ダークラットを取り囲んでいた連中がざわざわと言い争いを始める。
ゴズはどう反応したら良いのか分からず、大きなため息を吐く。
収拾がつかない。このままでは収拾がつかないとゴズが思い始めた時だった。
ガツンと大きな音が響く。大きな音に反応し、騒いでいた連中の口が止まる。静寂が訪れる。
それはオウカが手に持った無骨な刀を叩きつけた音だった。
「静まれ」
オウカが言い争っていた連中を見回す。
「お嬢、またですか。クルマを壊さないようにしてください」
「大丈夫だ。うむ、壊れないように手加減している」
オウカがゴズに答え、再び連中を見回す。
「静まったな。ふむ。それで、補給は出来るのか? 買い物は?」
オウカが告げる。
だが、連中は答えない。
「どうすんだよ」
「き、斬られたくねぇ」
「怖えよ、なんだあの悪党」
「アレが伝説の鬼ってヤツじゃあないのか」
「死ヌ、死ゾ」
怯えた様子でヒソヒソとなにやら話し合いを始める。
「ふむ。どうなんだ? 見せしめに一人か二人斬れば答えてくれるのか?」
オウカの言葉を聞き、ダークラットを取り囲んでいた連中が再びヒソヒソと話し合い始める。
「おい、どうすんだよ。本物が来たぞ」
「本物の悪党だ」
「やべぇのが来たよ」
「レッドサイクロンの奴らが通行料とか欲張るから……」
「おいおいおいおい、ンだよ、俺らのせいにするのかよ。通行料はお前らだって取ってるだろ」
「ソウダ」
「この格好は旧時代の由緒正しき悪党の格好だろ? それが通じないのか? 怯えて、恐れをなすんじゃあないのか」
「時代考証が甘いンだよ」
ヒソヒソ話が続く。
何も答えが返ってこないことにオウカが苛立ちを募らせ、再び無骨な刀でダークラットを叩き、大きな音を響かせる。
「ふむ。それで? 早う言え。どうなんだ? 出来るのか、出来ないのか?」
オウカの威圧にダークラットを取り囲んでいた連中が静かになる。どうやら、この連中は見かけだけの奴らだったようだ。
このまま膠着状態が続くかと思われた時だった。
「待ちなされ」
悪党の格好を真似していた連中を割り、一人の老人が現れる。
長い顎髭の老人は、ムキっムキっと擬音が聞こえてきそうな筋骨隆々の体をしており、着ている服がはち切れそうだ。筋肉の塊のような体によぼよぼの老人頭がくっついた不格好なその人物が無駄に尖った肩パッドを怒らせながらこちらへと歩いてくる。
「小姐、どうやら誤解があったようだ。そちらの要望は出来る限り聞こう。私らは静かに暮らしたいのだよ。争いごとは求めていない」
老人が筋肉を見せびらかせながらそんなことを言っている。
「ふむ。だから?」
オウカは無骨な刀を肩に乗せたまま威圧するように老人を見ている。
「小姐、ここらで手打ちにしないかね。望みは補給であろう? それが出来なくなるのは、そちらも困るのではないかな? 全ては誤解。ここらで無かったことにしようと言っているのだよ。平和的な解決だ」
「ふむ。だから? そちらが始めたことだろう。それを始めた側が不利になったからと手打ちと言い出すのか。ふむふむ、面白い」
オウカは無骨な刀を構え直し、牙を見せるように笑う。
「愚かな。分からぬのか。このままでは双方、傷を負うことになるだけ。何故、それが分からぬ」
「ふむ。分からんな。ゴズ、どうだ?」
オウカはゴズに振る。
「お嬢、ここらで手打ちにする方が損も無く、この後の交渉もスムーズになるでしょう。それが賢い選択でしょうね」
「ふむ。で、ゴズ。うちはどうするべきだと思う?」
「それはもう、お嬢のなさりたいようにするべきかと」
「うむ」
オウカは無骨な刀を構えたまま大きく笑う。
「あ、お嬢、出来る限り、殺しはしないでくださいね」
「うむ」




