557 オーガキラー29
「さて、どうしたものか」
オウカは砲塔に寄りかかったまま腕を組む。
「おいおいおい、聞いているか? 俺たちが何の用かって聞いてるってぇのが分からねえのかよ」
「俺たちレッドサイクロンを舐めてるのか。かぁー、はぁー、俺たちが当番の時に限ってこんな奴らが来やがってよぉ!」
「言葉分カルゥ? ワカリマセェェェン」
真っ赤に染めた髪を逆立てた連中が騒いでいる。
「お嬢……、なんだかバンディットみたいな連中が出てきましたね。どうやら噂は本当だったようです」
「ふむ」
オウカは腕を組んだまま、顎に手を当てる。
「お嬢? お嬢、聞いてますか? こちらの声が聞こえていますか? 届いていますか? いくらバンディットみたいな連中だといってもバンディットじゃあないですからね。ただのクズでならず者ですよ。一緒にしては駄目ですからね。まずは対話ですよ、対話。自分たちはここに襲撃をかけに来た訳じゃあありませんからね。分かってますか、分かってますよね? お嬢、お嬢、聞こえてますよね?」
「ふむ」
オウカは無骨な刀を手に持ち、寄りかかっていた砲塔からゆらりと離れる。
「お嬢、お嬢! 聞こえてますよね! なんでもかんでも斬れば良いって訳じゃあないんですよ。まずは話をすることです。向こうも、ほら、あんな見た目ですが、こちらに話しかけてきているでしょう? 人として最低限の礼儀はあるってことですよ。だから、こう、こちらも人としての最低限の礼儀は返しましょう。お嬢、分かりますよね? お嬢、お嬢! あー、クソ!」
ゴズは大きく舌打ちし、外部スピーカーのスイッチを入れる。
[おい! そこの連中、聞こえているな。門をすぐに開けろ! 俺たちの目的は補給と買い物だ。争いに来た訳じゃあない。門が斬り飛ぶ前に早く開けろ! って、おい、オリハ、クルマを勝手に動かすんじゃあ無い!]
[分かったー。お嬢と一緒に行くー]
[違う、そうじゃない。そうじゃあない。オリハ、お前までお嬢のことをお嬢と呼ぶ必要は無いだろう……ではなく、あー、クソ、なんで手のかかるのが二人に増えてるんだ!]
クルマ――ダークラットの外部スピーカーからずいぶんと賑やかな声が聞こえ、ダークラットの無限軌道がゆっくりと動き出す。
「うむ。オリハ、まずは私からだ。うちに任せろ。分かったな?」
「分かったー」
オウカが口角を上げ、ニヤリと笑い、無骨な刀を肩に乗せ、とんっとダークラットから飛び降りる。
「分かったじゃあないんですよ。分かってない。お嬢、ここに、戦うために来た訳じゃあないでしょ。補給と買い物です。それが目的です。なんでもかんでも斬って解決する訳じゃあないですよ。お嬢、聞こえていますか? 聞こえていますよね」
「ゴズ、うるさい」
ダークラットから飛び降りたオウカが無骨な刀に巻き付けた紐をはぎ取る。
「ゴズ、分かっていないのはゴズだ。こういう連中は最初にどちらが上か上下関係を叩き込むべきだ。うちの連中がそうだった。ここも同じ、そうだろう?」
オウカは楽しそうに口角を上げニヤリと笑ったまま、ゆっくりと防壁にある扉まで歩く。
「おいおいおいおいーい、って、は!? いつの間に門の前に!」
「兄弟、ぼーっとしてんなよ。補給? 買い物? 理由は分かったぜ。だが、出すもんを出さなきゃここは通せねぇなぁ。分かるだろうが。通行料は百万コイルだ! うっひゃっひゃっひゃっひゃひゃー。それならお前らでも分かるだろ!」
「コイル必要。コイル、ダセ」
防壁の上で三人の赤髪逆毛たちがやいのやいのと騒いでいる。
オウカはそれを無視して無骨な刀を構える。
「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい! 無駄だってぇ、無駄だってぇの! その門のシールドはなぁ、大型の主砲による一撃すら防ぐんだぜ」
「えーっと、確かサンライスの技術の……技術? 良く分からないが、ソレだ! 無駄無駄無駄ァ!」
「地下アル、ライフジェネレーター稼働デ、フルタイム稼働。壊スナラ、百パーセク以上ノ、力ガ必要ダ!」
「おいおいおい、兄弟、詳しいな」
「理系デスカラ」
防壁の上で三人の赤髪逆毛たちが下品に笑っている。
「何が理系で、何がパーセクなんだ? 何を訳の分からないことを。パーセクは距離の単位だろう? やはり、こいつらはバンディットなのか? これはお嬢の方が正しかったかもしれないな」
ゴズはクルマの中で大きく肩を竦め、首を横に振る。
大きな門の前に立つオウカが腰だめに構えた無骨な刀を滑らせる。
閃光がきらめく。
オウカが無骨な刀を引き戻し、構えを解く。
「は! 何したんだ? そんな棍棒みたいなのを振り回しても駄目だろ。踊ってんのか? 聞こえなかったのか? ここの! シールドは! クルマの主砲すら防ぐ! 生身でどうにか出来るもんじゃあねえんだよ!」
「それ振り回して、どうしたよ。門に叩き付けもしねぇのか。無駄だって分かったのか? ひゃっはー、通りたければ大人しくコイルを出すんだな。今なら普段の通行料の十倍で良いぜ! たった百万コイルだぁ!」
「ヒャッハー」
防壁の上の三人が踊るようにきゃっきゃと騒いでいる。
「ふむ」
オウカは無骨な刀の刃を肩に乗せ、顎に手を当てる。
次の瞬間、扉に無数の線が走り――大きな扉の下部が崩れ落ちる。
「へ?」
「え?」
「ハ?」
防壁の上で騒いでいた三人の、その笑い声が止まる。
「はぁ、さすがはお嬢。なんでアレで斬れるんですかねぇ。斬れる理由は分かるが、何故、それが出来るのかが分からない。ホント、無茶苦茶だろう」
「お嬢、凄い!」
ゴズが肩を竦め、オリハが興奮した様子で喜んでいる。
「うむ。では、行くぞ」
オウカがゆらりとダークラットの方へと戻って来る。
「おぱおぱおぱ、おーい、なじぇぇ!?」
「なんで、俺たちレッドサイクロンが当番の時に限ってこんな連中が!?」
「斬レル? ウソ!」
三人の赤髪逆毛たちが顎が外れそうなほどの勢いで驚き騒いでいる。
「ゴズ、巻き直してくれ」
ダークラットの車体に飛び乗ったオウカが、ハッチの中に無骨な刀を突っ込む。
「はぁ、さすがお嬢」
ゴズがため息を吐きながら無骨な刀を受け取る。
「お嬢、凄い!」
「うむ」
オウカは得意気だ。
この小説とは全然関係が無いけど、Withering Roomsが非常に面白い。魔女ビルドで真EDを見るくらいまでやったけど、とても1520円の内容じゃない。やり込めます。2Dの横スクロールアクションとかダークソウルとかアクションRPGやエターナルダークネスとかが好きな人なら是非。オススメです。




