556 オーガキラー28
「ゴズ、カレーは?」
「お嬢、カレーなら昨日食べたでしょ」
外から聞こえるオウカの声にゴズが応える。
「カレー!?」
カレーという単語を聞いたオリハが反応する。ゴズは大きくため息を吐き、運転を自動運転に切り替え、ハッチから顔を覗かせる。
「うむ。カレーだな」
「カレー!」
砲塔に寄りかかったオウカが喋り、その横に座っているオリハが追従する。それを見たゴズが大きなため息を吐く。
「はぁ、カレーなら昨日食べたでしょ」
ハッチから顔を覗かせたゴズは、そのまま肩を竦め、そう答える。
「カレーなら毎日でも良いのだが?」
「良いのだが!」
オウカが喋り、それを真似して小さな少女のオリハが喋る。
「お嬢、オリハが真似をするので止めてください。はぁ、カレーなら日持ちしないからと昨日食べましたよね。食べきりましたよね。しっかりとこの目で見ましたよ。この日差し、暑さですよ。間違いなく腐りますよ。昨日、食べずに残していたら腐っていましたよ。だから、食べきるのが正解だったんですよ。そして、食べきりましたよね。しっかりとこの目で見ましたよ。というかですね、これが一番重要なんですが、次のカレーを作るには材料がありません。スパイスが足りませんよ。お嬢、分かりましたか?」
「ゴズ、うるさい」
「うるさい」
オウカが牙を見せながら豪快に笑って、口癖のような言葉を喋り、オリハがそれを真似をする。
「オリハ、幼子というような年齢でも無いでしょう? そんな風にお嬢の真似をしていては駄目だ。このままでは脳の中まで筋肉というウィルスにやられてしまうだろう。それはとっても怖いことだ。怖いことなのだ。良いか、分かったな?」
「分かりません」
ゴズの言葉にオリハはとびっきりの笑顔で首を横に振る。
ゴズは大きなため息を吐き、肩を竦める。
「お嬢にオリハ、そろそろ街が見えてきますよ」
「ゴズ、それさっきも聞いたぞ」
「聞いたぞ」
ゴズはもう一度、大きなため息を吐く。
「そういえば、お嬢、このクルマの名前は決めたんですか?」
「ふむ。深き黒の闇たる熾天使というのはどうだ?」
ゴズは大きなため息を吐く。
「お嬢、本気で考えていますか? それ、文字数オーバーですよ」
「ゴズ、好きに名前をつけて、好きに呼べば良いだろう? 文字数? ふむ。それを気にする必要がどこにある?」
「お嬢、あります。それはとっても重要ですよ」
「ふむ。オリハ、どう思う?」
「名前? ネズミさん? 黒ネズミさん?」
オリハはきょとんとした顔で首を傾げている。
「はっはっは、ネズミ、ネズミか。確かに小さくてすばしこい、このクルマにはぴったりだ」
オウカが大きな声で笑う。
「お嬢、ぴったりだ、じゃあないんですよ。それでクルマの名前は何にするんですか? その……シンプルに『ネズミ』にするんですか?」
「ふむ。ゴズの意見は?」
ゴズは肩を竦める。
「このクルマはお嬢の力で手に入れたものです。お嬢に任せますよ」
「ふむ。運転しているのはゴズなんだがなぁ」
「それでもお嬢が決めるべきですよ」
「ふむ。ならば間を取ってダークラットにしよう」
「なんの間なんですかねぇ。まぁ、了解です。これから、このクルマはダークラットです。ちゃーんと登録しましたよ」
「うむ」
オウカが得意気に腕を組み、胸を張る。
「うむ」
オリハもオウカを真似して得意気に腕を組み、胸を張る。
「はぁ、そろそろオリハは車内に戻ってください。クルマの運転の練習ですよ」
「うむ」
「うむ」
オウカとオリハが頷き合っている。ゴズは大きなため息を吐き、肩を竦める。
オリハが車内に戻り、運転をする。ゴズがそれを見守る。オウカは砲塔に寄りかかったまま口笛を吹く。
砂漠をクルマが進み、オウカの口笛が砂に流れていく。
ゆったりとした時間が流れる。
……。
……。
……。
そして、大きな壁が見えてくる。
「お嬢、見えてきましたよ。あの壁の向こうが例の街です。自分も今は壁の向こうがどうなっているのか知りません。分かりません。お嬢も知っているようですが、噂ではならず者たちが集まっているとか。お嬢なら大丈夫だとは思いますが、一応、気を付けてくださいよ」
「うむ」
「うむ」
オウカとオリハの返事を聞き、ゴズは何度目になるか分からない大きなため息を吐く。
壁にある大きな扉の前でクルマ――ダークラットを停車させる。
「ふむ」
「お嬢、待ちましょう」
「うむ」
「うむ」
しばらくそのまま待っていると壁の上に男たちが現れる。
「お前らは何者で何の用だぁ」
「何ノ用ダ」
「何の用だって聞いてんだよ」
現れた男たち全員が髪を真っ赤に染め、逆立たせていた。
「お嬢、よろしくお願いします」
ゴズの言葉にオウカが頷く。
「うむ。門を開けよ!」
オウカが空気を揺らすほど響く声で喋る。
「おいおいおいおいおーい! 言葉が分かんねえのかよ」
「俺たちはよぉ、お前が何者で何の用か聞いてんだよぉ!」
「言葉、ワカルゥ?」
オウカの言葉を聞き、赤髪の逆毛たちが騒ぎ出す。
「ふむ。愉快な連中がお出迎えか」
オウカは口角を上げ、それを楽しそうに見ていた。




