554 オーガキラー26
「ふむ」
オウカはゴズの言葉を聞き、腕を組み考え込む。即断即決、何も考えていないオウカにしては珍しいことだった。
「お嬢、そこに転がっているワルイーネは、このレイクタウンを牛耳っている奴らの、そこそこ上の立場のようですから、間違いなく面倒なことになりますよ。このワルイーネが馬鹿でなければ、役に立たない護衛二人と、ここを取り囲んでいる有象無象の雑兵を連れてきただけで満足して次善の策を用意していないとは思えません。大事なことなので、もう一度言いますが、ここを抜けたとしても面倒なことになると思いますよ。また、このワルイーネを人質にしたとして、こいつらの組織がこのワルイーネとやらにどれだけの価値を見出すか不明です。情報もオフィスをハッキングして得たものがあるので、それほど重要じゃあありません。分からないのは、こいつらが何故、オリハを探しているのか、必要としているのか、ということくらいでしょうか」
「ゴズ、うるさい」
オウカが腕を組んだままゴズを睨み付ける。
「お嬢、それでどうするつもりですか?」
「ゴズ、こいつらの組織とやり合うというのはどうだ?」
ゴズがオウカの言葉に肩を竦める。
「難しいでしょうね。まともな主砲のあるクルマでもあれば別ですが、生身では厳しいと思いますよ。オリハを見捨てるというなら、それも選択肢になるでしょうね」
オウカはオリハの方を見る。そして美味しそうにカレーを食べたオリハの存在に微笑む。そして、ゴズを見る。
「ふむ。ゴズ、お前でも、か?」
ゴズはオウカの言葉に何も答えず、ただ肩を竦める。
「ふむ」
オウカが組んでいた腕を解く。
「ゴズ!」
オウカがゴズを呼ぶ。
「へい、お嬢」
ゴズが悪乗りした心底楽しいという顔で頷く。
「まずはカレーだ」
オウカの言葉にゴズは思わず倒れそうになる。
「お嬢、主砲の積んでいないようなオンボロクルマでは、いくら雑兵でも相手するのは厳しいんですよ。時間稼ぎもそろそろ限界です。せっかく手に入れたクルマがスクラップになってしまいますよ」
「ふむ。仕方ない。ゴズ、カレーを回収だ」
「了解です」
ゴズがカレーの回収に走る。
「オリハ、オリハはどうする?」
オウカがオリハに呼びかける。オリハは輝く瞳で首を傾げ、困ったという意思表示を示す表情を作る。
「オリハ、お前がどうしたいかだ。うちはお前の意志を尊重する。強制することはない。守って欲しいなら言え。うちの力なら、お前一人余裕で守ってやれる。力が欲しいなら言え。オリハが戦えるようになるまで鍛えてやる。守ってやる。戦ってやる。全てお前次第だ」
オリハは困った表情のままだ。
「オリハ、お前はどうしたい? 選択できないというなら、どうだ、一緒に来るか? 一緒に来て、オリハが、どうしたいかを考えても良いだろう。さあ、どうだ?」
「困る?」
オリハが囁くような、小さな小さな声で喋る。
「困らぬよ」
オウカが笑う。それに釣られたようにオリハも笑う。
「一緒に……行きたい」
「うむ」
オウカが力強く頷く。
「お嬢、カレーを持ってきましたよ」
「うむ」
「それで、お嬢、どうするつもりですか? もし、逃げるということであれば追われるようになりますよ。あのワルイーネという女が言ったように、何処までも追われ、今後は施設の利用なども難しくなるかもしれません」
ゴズがカレー鍋を持ったまま、オウカとオリハを見る。
……。
オウカは考える。
考え、答えを出す。
「確か、ここから南に犯罪者の街があったはずだ」
「おー、お嬢、その通りです。それを、あのお嬢が知っているなんて! よく勉強しましたね」
ゴズが感動したとむせび泣く。
「ゴズ、うるさい。大げさな!」
「それで、どうするつもりですか?」
「ゴズ、問題はクルマの武器が足りないということだろう? それならば、そこで手に入れる。いくら追われる身になったとしても、犯罪者の街なら、手に入る。違うだろうか? ゴズ、お前は言ったよな? まともなクルマがあれば、なんとかなる、と」
ゴズはオウカの言葉に肩を竦める。オウカはニヤリと笑い、そして、次にオリハを見る。オリハがオウカに見られているのに、気付き、ゆっくりと頷く。
「ゴズ、カレーは持ったな」
「持ちましたよ」
「うむ。では行くぞ」
「お嬢、行くぞって、歩いていくつもりですか?」
「ゴズ、呼んでいるのだろう?」
オウカがゴズにそう告げる。ゴズが肩を竦める。
そして、ワルイーネたちが開けた穴からクルマが飛び出す。戦車タイプのクルマが無限軌道を滑らせ、残像を残しながら、オウカたちの前で止まる。
「さ、逃げますよ」
ゴズがオリハを抱え、一緒にハッチからクルマの中に乗り込む。
「うむ」
オウカが後を追う。だが、そのオウカに待ったがかかる。
「お嬢は外でお願いします」
「む?」
「中の狭いこのクルマだと、お嬢まで入られるとぎゅうぎゅうです。クルマの運転に支障をきたします」
「むむ?」
「クルマを運転出来る人が中です。お嬢も真面目に勉強していれば違ったんでしょうね。ですが、クルマの技術と知識を覚えようとしなかったお嬢は外です」
「むむむ」
……。
……。
「とまぁ、それもあるんですが、お嬢には街を抜けるまでの見張りをお願いしたいです。頼れるのはお嬢の力だけです」
「うむ。任せるが良い」
オウカが得意気に胸を張る。




