553 オーガキラー25
「状況を! どうなっているか早く言いなさい!」
ワルイーネが通信端末に呼びかける。
[わ、ワルイーネ様、クルマです。クルマの襲撃を受けています!]
「どこの奴らが……ッ! クルマにはクルマです。スドレを呼び寄せなさい!」
ワルイーネはそこまで言い、キッとした瞳でゴズたちを見る。
「これは端末のエラーでは無いということね。まさか、クルマなんて伏兵を用意しているとは思わなかったわ」
[ワルイーネ様、このままだと包囲網を破られます。く、クルマが……ぎにゃあぁ]
ワルイーネが持つ通信端末からの声が途切れる。
「応答しなさい。聞こえている? 聞こえているなら応答しなさい!」
通信端末からは何の返事も無い。
「それで?」
ゴズが指をちょいちょいと動かしワルイーネを挑発する。
「やってくれたわね。だけど、この程度の時間稼ぎでどうにかなると思っているのかしら。時間はお前たちの味方ではない。お前たちに賞金がかけられたことを覚えているかしら? 凄腕のクロウズたちの動きは早いわ。もうすぐお前たちの賞金を狙ったクロウズたちが……」
「本当にそうかな?」
ゴズがニヤリと不敵に笑う。その言葉を聞き、ワルイーネが焦ったように情報端末を操作する。
「賞金が……消えている? どういうこと! お前たちを賞金首として登録するように申請したはず。一度登録されたものが消えた? 何故、こんなことが……」
ワルイーネの言葉を聞き、ゴズが肩を竦める。
「嘆かわしいな。ビーストやマシーンではなく、人を賞金首として申請した場合、それが受理されるのは大変だったはずだ。それがちょっと言っただけで通ってしまう? いつから、レイクタウンは、そんな不正がはびこる街になったんだ? マザーが消え、オーツーが消え、管理するものがいなくなった弊害か。機械連中の方が不正をせず、規律正しく運営していたというのはずいぶんと大きな皮肉だな。そうだろう?」
「お前は何を言っているの! お前は何をした!」
ワルイーネが叫ぶ。
ゴズは右目に手をあて、大きなため息を吐く。
「これだけ騒いでいるのに、宿の人間が誰一人としてやって来ない。なるほどなるほど。すでに買収済みだったワケか。俺たちはまんまと誘い込まれた訳だ。そして、凄腕? のクロウズでインパクトのある襲撃、逃げられた時のための包囲網も敷いて、さらにそれでも失敗した時のために賞金までかける。何ともまぁ、手間がかかっている。ワルイーネ、お前の頭脳を認めよう。だが、それだけだ。お前では届かないよ。俺とお嬢――俺たちには届かない」
「クルマを持った仲間を隠していたこと、オフィスに私たち以上のコネを持っていたこと――お前が何か通信を行なった様子はなかった、つまり、今の状況を予測していた。どれも私の想定外。でもね……」
ワルイーネがそこまで喋った時だった。
ワルイーネの体が何か強いものによって叩き飛ばされる。
「ふむ」
オウカだ。ゴズとワルイーネのやり取りに参加していなかったオウカが、無骨な刀の平でワルイーネを叩き飛ばしていた。
「シールドが、な、なぜ……」
叩き飛ばされたワルイーネは目を回し、そのまま気絶する。
「お嬢!」
「うむ」
ゴズの言葉にオウカは得意気な笑みを返す。それを見て、ゴズは大きなため息を吐く。
「お嬢、やってくれましたね。情報を引き出そうとしていたのに……それはお嬢も分かっていたでしょう? それに、ですよ。下手に手を出したら傷害事件としてオフィスから狙われる可能性もあるんですよ」
「大丈夫だ。殺していない。それに情報を得るだけなら、それこそ監禁でもして好きにしたら良い」
「監禁って、お嬢も怖いことを言いますね。ですが、その方が手っ取り早いかもしれませんね」
ゴズが倒れ気を失っているワルイーネの元まで歩いていく。そして、通信端末を取り上げ、腕を縛る。
「お嬢、さて、どうしましょうか?」
ゴズとオウカにかけられるはずだった賞金は無くなった。クロウズたちが襲撃してくることは無いだろう。だが、包囲網が消えた訳ではない。ゴズが遠隔操作したクルマで数を減らそうとしているが、機銃しか積んでいないクルマでは限界がある。逆に大破させられるかもしれない。
逃げるのか、ワルイーネを人質に交渉をするのか。このまま戦うという手もある。
ゴズはオウカを見、そして――オリハを見る。
オリハは周囲の喧騒を無視し、カレーを食べていた。皿の中のカレーが一気に無くならないように、ゆっくりと味わい、噛みしめながら食べている。
オリハの瞳の中に椎茸が輝く。オリハの中に宇宙が生まれ、星々がきらめき、切り込みが入った焼き椎茸のように世界を輝かせている。
オリハはカレーと出会い、正気を取り戻した。




