551 オーガキラー23
「あら? 頭が悪いのかしら、私はその子を渡しなさいって言ってるの」
目つきの鋭いキツい性格をしていそうな顔のワルイーネがオリハを見る。見ている。その目は、品定めをするような不快な代物だった。
「それで?」
ゴズはワルイーネたち三人を観察する。目立つのは、両腕を丸太のような大きな鉄の塊に機械化させた男だ。その男の顔は半分ほど鉄の塊で補強されており、無残に潰れた形状の頭を隠している。大きな両腕、ムキムキと筋肉を盛った胸板――そんな上半身を支えることが出来るのか不安なくらい貧弱な下半身、どうにもちぐはぐな姿で、目立とうとしているようにしか見えない。
もう一人の男は、この世界ではありふれたモヒカン頭の背の高い男だ。ひょろっと細長く、それを誤魔化すように無駄に大きな肩パッドを装着している。
そして、そんな二人を従えている女――ワルイーネ。
「あら? そんな反抗的な態度で良いのかしら? この二人は、凄腕だったクロウズを強化して造られた最強の兵士」
ワルイーネが男の丸太のように大きな金属の腕を触り、そこに指を這わす。
「ああ、それで?」
「この腕、この金属が何か分かるかしら? CiS鋼――世界で最も硬い金属よ。クルマの主砲ですら傷をつけることが出来ない、と言えば、その硬さが分かるかしら? 先ほどは上手くはね返したようだけど、そんな偶然がいつまで続くかしら?」
「それで?」
ゴズは馬鹿にしたように大きなため息を吐き、肩を竦める。
「その態度……お前たちはどうやら自分たちの立場が分かってないようね。いいわ、必要なのはその子だけ。邪魔な二人をやってしまいなさい」
ワルイーネが男たちに命令する。
「筋肉、筋肉、マァッスルゥゥゥゥゥ!」
下半身が貧弱な男が鉄の塊となった腕を水平に構える。次の瞬間、その鉄の塊が射出される。
「ロケットパンチかよ」
ゴズが呟く。
「ふむ」
そして、オウカが動く。一瞬で無骨な刀に巻き付けていた布をはぎ取り、そのまま一歩踏み込む。
一閃。
無骨な刀が光を反射させてきらめき、その軌跡だけが残る。
そして、飛んできた鉄の拳はバラバラになった。
静寂。
その一瞬の出来事に場が静まりかえる。
……。
……。
……。
「ふむ。硬い? 確かに狭いか。少し刃の通りが悪かったかもしれぬ」
オウカは無骨な刀を腰だめに構え直す。
「な、な、な、斬った? シス鋼は世界一硬いのよ! 斬れるはずがない! どうやったのよ!」
ワルイーネが動揺し、叫んでいる。
「ふむ。こう、隙間に刃を通しただけだが? 確かに他の金属より通り道が狭かったが問題無い」
「お嬢の謎技術は置いておくとしても、腕の形になるよう加工している訳だろう? それは加工が出来る、その程度の代物でしか無いという、そうだろう?」
「何をワケの分からないことを!」
ワルイーネが叫ぶ。
「それで?」
ゴズの言葉。
そのゴズの後ろに男が現れる。
「地獄、地獄、ヘールートゥゥゥゥゥーユー」
現れたモヒカン頭の男が奇声を発しゴズに襲いかかる。
「奇襲をするなら静かにしろ」
ゴズが動く。奇襲してきたモヒカン頭の攻撃よりも早く、その懐に入り、蹴り飛ばす。吹き飛ばされたモヒカン頭が宿の壁に叩きつけられる。
「こんなのが凄腕? 凄腕の基準が下がったのか、クロウズの質が落ちたのか。それで?」
ゴズがワルイーネを見る。
「お、お前たち、自分たちが何をしているか分かっているの! ここは、あの方が、ゴールドマン様が治める地、そこであの方に逆らうということがどういうことか分かっているの!?」
ワルイーネは鋭い目つきをさらに一層鋭くし、わなわなと震えながら叫んでいる。
「それで?」
ゴズは肩を竦める。
「ふん、その態度、なかなか面白いわね。良いでしょう。これから、お前たちはこの地で何も出来なくなる。補給も、買い物も、それこそブマット一本すら買えないでしょう。それがお前たちの選択。今更、後悔してももう遅い! さあ、水も食料も手に入らない中、お前たちは何日耐えられるかしら?」
ゴズに蹴り飛ばされたモヒカン頭がヨロヨロと立ち上がり、片腕となった下半身が貧弱な男と共にワルイーネを守るように立つ。
「そうか、それで? お前たちはこのまま無事に帰れると思っているのか?」
ゴズの言葉に下半身が貧弱な男が動く。残った片腕を水平に構え、射出しようとする。だが、その男の前に、いつ移動したのかオウカが居た。オウカが無骨な刀を振るう。
「あが、あが、筋肉、マッスルゥウゥ」
男の射出されようとしていた金属の腕が斬り飛び、次の瞬間には足が飛ぶ。飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。金属が、肉片が、バラバラになって飛ぶ。
オウカがさらに踏み込む。
「地獄、地獄、地獄、へるっ!」
そのオウカの前に背の高いモヒカン頭が立ち塞がる。オウカが、刃を振るい――そのモヒカン男を斬り伏せようとした刃を、寸前で止める。そして、首を傾げる。
「ふふふ、気付いたのかしら? その男の体には爆弾が仕掛けられているわ。斬ればそのままボカンよ」
ワルイーネの言葉にゴズが顔に手をあて、大きなため息を吐く。
「ばくだん? ばぁくぅだああぁん? ずいぶんとお粗末で幼稚だな。それで? どうするつもりだ? お前も巻き込まれるだろう」
「ふふふ。最新鋭のシールドが私だけは守ってくれるわ」
ワルイーネが得意気に髪を掻き上げる。ゴズは大きなため息を吐く。
「そうか。それなら、そのシールドをその二人にもつけてやったらどうだ?」
「何を言っているのかしら。これだけ貴重で優れたものが量産出来るとでも? あの方の、ゴールドマン様の腹心である私だから所持することを許されている、それが分かるかしら?」
ワルイーネは得意気にそんなことを言っている。
オウカが呆れ顔でワルイーネを見、そのままゴズを見る。ゴズは肩を竦める。
「お嬢、一応、殺さないようにしてください」




