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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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549 オーガキラー21

「お嬢、そろそろレイクタウンですよ」

「ふむ。見えている」

 ゴズが呼びかけ、クルマの砲塔の上で布を巻いた無骨な刀を抱えて座り込んでいたオウカが答える。


「お嬢、そろそろ……」

「む、むぉ?」

 オウカが驚きの声を上げる。クルマが大きく揺れ、オウカが砲塔の上から滑り落ちそうになる。だが、オウカはすぐに体勢を立て直す。そして、抱え持っていた無骨な刀を手で持ち、不満をぶつけるようにシャシーへ叩きつける。


「ゴズ、揺れたぞ」

「ええ、揺れましたね」

「ゴズ、アレは必要なのか?」

 オウカがクルマの後部を見る。そこには半分くらいまで斬り裂かれた砂丘ミミズの死骸が連結されていた。

「お嬢、知らないんですか? 砂丘ミミズの肉は高く売れます」

「ゴズ、アレは必要なのか?」

「お嬢、知っていますか? 生きていくためにはコイルが必要なんですよ。お嬢の食事にもコイルが必要なんですよ。知っていましたか? しっかりとくつろげる宿を取るにもコイルが必要なんですよ。知っていましたか? お嬢が壊したクルマを修理するにもコイルが必要なんですよ。知っていましたか? お嬢が斬り飛ばした主砲の代わりを買うためにもコイルが必要なんですよ。知っていましたか?」

「ゴズ、うるさい。それで? 揺れた理由、言い訳を聞くぞ」

 オウカが無駄に偉そうな態度でゴズに告げる。運転席のゴズが大きなため息を吐く。


「お嬢、分かりました。言い訳をしましょう。このクルマが揺れた理由――三つの大きな理由があります。このクルマに搭載されている演算制御装置をバンディットのクソどもが下手にいじって、なかなか言うことを聞かない暴れん坊になっているのが一つ。もう一つはシールドが使えないからです」

「ふむ。シールドが使えないとどうしてそうなる?」

 オウカは無骨な刀を抱え直し、砲塔の上に座る。

「シールドを使って車体を浮かせたり、邪魔な障害物を弾き飛ばしたり……シールドを使えば、そういった微調整をすることが出来るんですよ」

「ふむ。そうか」

 オウカはどうでも良いといった感じの相づちを打つ。


「お嬢……」

「それで?」

「あー、はいはい。最後の理由ですが、オリハに運転を任せてみたからです」

「ふむ。なるほど」

 オウカのどうでも良いといった感じの返答にゴズは肩を竦める。


「お嬢、お嬢もクルマの操作練習をしますか? いざという時のために必要ですよ」

「ふむ。不要だ。いざという時は来ない。そうだろう、ゴズ」

 オウカの言葉にゴズは肩を竦める。


「お嬢、そろそろレイクタウンに入りますよ」

「ゴズ、どうするつもりだ?」

「まずはオフィスですね。例のバンディットたちの賞金を貰いましょう。それから、この砂丘ミミズの換金です。後は……そうですね、忘れずにオフィスで修理キットを購入しましょう。アレはオフィスで買った方が良い。急ぎはそれくらいでしょうか。そうですねぇ、とりあえず、一泊し、くつろいだらクルマの主砲を見に行っても良いかもしれません。主砲の無いクルマなんて舐められるだけですからね。何か護衛依頼を受けるにしても、足元を見られて終わりですよ。安くてもとりあえず主砲はつけるべきです。という訳です。壊れたハッチの修理とシールド機構の修理、演算制御装置の再調整、色々とやることが山積みですよ」

「ゴズ、うるさい。とにかく、後はゴズに任せる」

 オウカの言葉にゴズが大きなため息を吐く。


「お嬢、何度も言っていますが、思考を放棄してはいけません。考えることを止めては駄目です。常に考えることが……」

「ゴズ、どうやって斬るか、どうすれば斬れるのか。戦うことなら常に考えている」

 オウカの言葉にゴズは大きなため息を吐き、肩を竦める。


「お嬢、レイクタウンですよ」

「うむ」


 そんなオウカとゴズ、二人のやり取りに隠れ、オリハは一人、クルマの操縦桿を握っていた。その目は虚ろなままだ。

「しっかり運転出来ている。才能があったのか、知っていたのか(・・・・・・・)、どっちだろうな。お前はどっちだと思う」

 ゴズは小さく呟く。


 砂丘ミミズを牽引したクルマがオフィスに到着する。


「はい、確かに。それでは賞金は振り込んでおきます。砂丘ミミズはどうされますか? オフィスで買い取ることも出来ますよ」

 窓口の女はニコニコと笑っている。

「肉屋に売る」

「オフィスの買い取りがオススメです。オフィスの買い取りですと、貢献度(ポイント)になりますよ。ポイントが貯まれば、クロウズのランクが上昇します。クロウズのランクが上がれば、色々な特典が受けられますよ。それに高ランクだというだけで、他のクロウズがあなたを見る目も変わってくるでしょう。オフィスの買い取りがオススメですよ」

 窓口の女はニコニコと笑っている。


「肉屋に売る」

 ゴズは口角を上げ、馬鹿にしたような笑顔で窓口の女を見ている。

「少しだけお時間を頂けませんか? 高ランクの特典を説明させてください。それを知ればきっと分かって貰えるはずです」

 窓口の女はニコニコと笑っている。

「肉屋に売る。不要だ」

「クロウズのランクが上がりますと、まず大きいのが買い取り額にボーナスがつきます。これはランクが上がれば上がるほど増えていきます。他にも消耗品の購入や施設利用の割引きなど色々な特典が……」

「不要だ。それよりも修理キットを売ってくれ」

 ゴズが窓口の女の言葉を遮る。


 窓口の女は、少しだけ顔を引きつらせながらもニコニコと笑っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 肉は肉屋! [一言] 直前に食べたモノが消化されていれば、いい肉なのだ。 残ってても多分いい肉なのだ。 オリハはやっぱり普通ではないかー。 とりあえず運転要員が増えるのは助かりますね。
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