548 オーガキラー20
「クルマを動かすには、こことここを、分かるか?」
ゴズが少女にクルマの動かし方を教えている。少女は何も喋らず、ただゆっくりと頷く。それを見たゴズが再び、少女にクルマの動かし方を教える。
「ここの操作パネルはクルマの主兵装の……」
と、ゴズがそこまで口に出したところで天井から何かを強く叩きつける、ガンガンといった音が鳴る。その音を聞いたゴズが少女への指導を一旦止め、大きなため息を吐く。
ゴズがクルマのハッチから外へと顔を出す。そこでは、オウカが砲塔の上に座り、布をグルグル巻きにした無骨な刀をクルマのシャシーに叩きつけていた。
「お嬢、クルマを壊すつもりですか」
「ゴズ、暑いのだが?」
オウカの言葉を聞いたゴズが大きなため息を吐き、肩を竦める。
「お嬢、お言葉ですが……」
「ゴズ、うるさい。うちは暑いのが苦手なのだが!」
オウカがゴズの言葉を遮り、布をグルグル巻きにした無骨な刀をクルマのシャシーに叩きつける。
「お嬢、長く一緒に居ますが、暑いのが苦手だって初めて聞きましたよ。それで? えー、暑い、ですか。お嬢がハッチを壊したせいで、中のエアコンの効きが悪くなっているんですよ?」
オウカの言葉にゴズが肩を竦め反論する。
「ゴズ、うちは外に居るんだけど? 外!」
「そうですね。お嬢には見張りを頼みましたから」
ゴズの言葉を聞いたオウカが再び、ゴンゴンと布を巻き付けた無骨な刀をクルマのシャシーに叩きつける。
「お嬢、止めてください。クルマが壊れます」
「大丈夫だ。問題無い」
「問題しかありません。こうなったのも……」
「ちゃんと力を分散させて壊れないように叩いている」
オウカの言葉にゴズが再び大きなため息を吐く。
「お嬢がちゃんと気遣い出来て良かったです。それをバンディットたちとの戦闘中にも発揮してくれたら、もっと良かったんですけどね。お嬢、分かってますか? お嬢がピンポイントで車体にダメージを与えてくれたおかげで、今、このクルマはシールドが張れないんですよ。何かに襲撃されてダメージを受けたら、このクルマ、即大破ですよ。こんな砂漠の真ん中でクルマが大破して動けなくなればどうなると思いますか?」
ゴズの言葉にオウカは首を傾げる。
「徒歩になる、か」
「……いや、そうですけども。お嬢、発想が脳まで筋肉が詰まっている輩と一緒です」
「ふむ」
オウカが腕を組み考え込むフリをする。
「えー、あー、そういう訳です。お嬢がやったことが原因でこうなっているんですから、見張りをしっかりとやってください。今は主砲も誰かが斬ったせいで大破して、チンケな機銃しか武装がないんですから、このクルマは張り子の虎、ハリボテ、それより酷い状態なんですよ。ビーストやマシーンに襲われたら大変です。見つかる前に逃げるか、近寄られる前に倒すか、そうしないと駄目なんですよ」
「ふむ。それはそれとして、ゴズ、暑いのだが」
オウカの言葉にゴズが大きく肩を下げ脱力する。
「お嬢……」
「それで、ゴズ。今は何処に向かっている? ウォーミには戻らないのか?」
ゴズが一度小さくため息を吐き、オウカを見る。
「レイクタウンに向かっています」
「ゴズ、その理由は?」
「クルマの修理のためですよ」
ゴズの言葉にオウカは再び首を傾げる。
「ウォーミでは駄目な理由は?」
「賞金の受け取りはレイクタウンのオフィスでも可能だということ、施設がレイクタウンの方が揃っているということ、クルマの部品や武装を手に入れるならレイクタウンの方がマシです。その他色々と理由はありますが、ウォーミ、あそこのクロウズに厄介な奴が居るというのが大きいです。そいつが戻ってきたという情報を入手しました」
「なるほど。ゴズは絡まれやすいから仕方ないな」
オウカの言葉にゴズは何度目か分からないため息を吐く。
「違います。お嬢の考えている厄介とは違う方向です。お嬢と自分だけなら問題ありません。オリハが居ることが問題なんです。そいつは戦う意志がある者までも幼いからと守るべき存在だと型にはめようとします。そして、それが正しいと信じ、周りに強制します。今、自分たちがやっているような、ひ弱な? 少女の連れ歩きなんて、奴の正義からすると許せない行為でしょう。逆らう者を力と権力で抑えつけようとします。そうなれば、どれだけの日数をウォーミに拘束されるか分かりません」
「なるほど。それはうちらとは合わぬなぁ」
オウカがクルマの砲塔に座ったまま大きく伸びをする。
「お嬢がオリハを引き取ると決める前なら、そいつに任せるのも良かったんですけどね」
「ゴズ、オリハの意志は?」
「自分の道を示せるのは、力ある者だけです。力無き者が言ったところで戯れ言ですよ」
「なるほど。ゴズの本心は別として分かった」
オウカの言葉にゴズは肩を竦める。
「それで、お嬢……」
「ゴズ、分かってる。行ってくる。はぁ、暑い中、動きたくないのだがな」
オウカが布を巻き付けた無骨な刀を肩に乗せ、立ち上がる。
クルマの周囲の砂がうねっている。砂の中を何か大きなものが動き、クルマへと近づこうとしている。
「お嬢、砂丘ミミズです。気を付けてください」
「今更、この程度に後れは取らぬ」
「違います。クルマに近付けさせないでください。さっきも言いましたが、今、このクルマはシールドが張れない状態なんです。クルマが攻撃されないように細心の注意をお願いします」
「ゴズ、うるさい。ふん、行ってくる」
オウカがクルマから飛び降りる。
ゴズはそれを肩を竦めながら見ていた。




