547 オーガキラー19
「お嬢、分かっていますか?」
「ゴズ、うるさい。パッと行って、パッと斬れば良かろうなのだ」
オウカの言葉にゴズは本当に分かっているのだろうか、と頭を抱える。
そんな二人のやり取りを少女は焦点の合わない虚ろな目で眺めている。
「はぁ、お嬢、無理はしないでくださいよ」
「うむ。では、行ってくる」
オウカが動く。
狙う賞金首は砂漠のマッハライダー。そのマッハライダーが率いるバンディットたちがウォーミ南の砂漠にある工場群で補給と休息を兼ねたキャンプを行なっているという情報をゴズが手に入れていた。
情報通り、マッハライダーたちバンディットは工場群に並ぶ建物の影で食事や道具の手入れなどを行なっている。そこにオウカが特攻をかける。
「て、敵襲! 敵襲! 大女が突っ込んでくる!」
オウカに気付いた見張りが大きな声を上げる。
「む? 大女?」
そう不満そうに呟いたオウカが見張りの横を駆け抜ける。次の瞬間には見張りは物言わぬ骸と化していた。
「テキのハンノウをケンチ。テキです。テキをハッケン。テキをゲイゲキします」
オウカの襲撃に気付いた革ジャン姿のもじゃもじゃ頭が機械のように素早く動き、戦車タイプのクルマに乗り込む。
「ふむ。ゴズの話通り、あの反応、あの動き……あれでは奇襲は成功しないな」
オウカは、そう呟き無骨な刀を構えたまま駆ける。
クルマに搭載された砲塔が火を吹く。轟音と共に砲塔から吐き出された一撃がオウカに迫る。オウカはさらに一歩強く踏み込む。オウカの横を砲撃が抜け、背後で大きな爆発が起こる。それは生身の人間が巻き込まれれば、一瞬でミンチよりも酷い代物を作り上げる一撃だった。
戦車に搭載された巨大な砲塔に次弾が装填され、オウカを狙い、吐き出される。オウカが強く一歩踏み込み、飛んできた砲弾の横を抜ける。戦車に搭載された演算制御装置が誤差を修正し、オウカの動きを予測した一撃を放つ。さらにオウカが加速する。オウカのすぐ横を砲撃が通り抜ける。次々と起こる爆発。襲撃に気付いたバンディットたちも動き出す。手に様々な銃を持ち、オウカを狙う。
そんな中をオウカは楽しそうに笑みを浮かべながら駆け抜ける。
「お嬢が間合いに入ったか。では、そろそろ俺も行きますか」
ゴズはそう呟き、立ち上がり、傍らの少女を見る。少女がゴズを見る。何を考えているか分からない、覗き込めば深淵へと落ちていくような目でゴズを見ている。
「お前はここで隠れていろ。自分の命は自分で守る、そういうものだろう?」
ゴズの言葉に少女がゆっくりと頷く。それを確認したゴズがニヤリと笑い、狙撃銃を片手に戦場へと躍り出る。
「さあ、死ぬがいい」
ゴズが狙撃銃を構える。
「敵だぁ! あっちにも敵だぁ! 敵が居る、居る、居るじょぉ」
そう叫んだバンディットの頭が吹き飛ぶ。
ゴズが次のバンディット狙う。あえてバンディットたちに身を晒し、狙撃する。オウカを囲んでいたバンディットたちの集団の一部がゴズの方へと流れてくる。
戦車がキュルキュルと無限軌道を動かし、後退する。接近するオウカと距離をとろうとする。だが、もう遅い。駆け抜けたオウカの姿が戦車の前にあった。
オウカが口角を上げる。そこから鋭い犬歯が覗いている。
戦車に搭載された機銃が動き、オウカを狙う。機銃から無数の銃弾がばらまかれる。オウカが手に持った無骨な刀を水平に、体を隠す盾のように構える。機銃からばらまかれた銃弾が周囲に集まっていたバンディットを巻き込みながらオウカを襲う。
「うちは……下がるのは好かぬ」
オウカが踏み込む。踏み込みながら盾にしていた無骨な刀を振るう。その一撃で機銃からばらまかれた銃弾が消し飛ぶ。
「まずは一つ」
オウカは無骨な刀を戻し、構え、下から上に斬り上げる。斬り上げた後、無骨な刀を腰へと戻し、構え直す。
次の瞬間、戦車に搭載されていた大きな砲塔に線が入り、そのままころんと転がり落ちた。
「あ、お嬢……」
それを離れた場所で見ていたゴズが大きなため息を吐く。
「む。そういえばゴズが何か言っていたような気がする」
そんなゴズが見えた訳ではないのだろうが、オウカが何かを思い出したかのように首を傾げる。
「ふむ。これ以上、壊すのは不味いか」
オウカが動く。
戦車のスカートに足を掛け、そのまま飛び乗る。オウカは手早く、ハッチを斬り飛ばし、その中へと侵入する。
……。
……。
斬り飛ばされたハッチの中からマッハライダーだったものが放り出される。
それを追うようにハッチからオウカが現れる。そのまま砲塔の上に座り込み、そこに装甲板が凹むほどの勢いで無骨な刀を叩きつける。いや、実際に凹んでいる。装甲が薄いのか、シールドが張られていない状態では、車体は簡単? に凹んでしまうようだった。だが、オウカはそんなことは気にしない。穴が開くほどの勢いで無骨な刀をゴンゴンと車体に叩きつける。
「ふむ。死ぬか?」
オウカが周囲のバンディットたちを睨み付ける。
「ひ、ひぃ、ひぃ、食われる!」
「羅刹、羅刹じゃあ」
そんなオウカの姿を見たバンディットたちが武器を投げ出し、逃げ出す。
逃げるバンディットたちの頭が吹き飛んでいく。ゴズが狙撃銃を構え、撃ちながらオウカの方へと歩いて行く。
殆どのバンディットを殺し終えたゴズが戦車の上でくつろいでいるオウカの前に立つ。
「お嬢……」
「うむ。うむ、うむ」
そのオウカの顔は得意気だ。それを見たゴズが大きなため息を吐く。
「お嬢、誰が主砲を斬り落とせって言いました? この主砲、バンディットが持つには不釣り合いな使えそうな奴だったんですよ。それに、何、普通に装甲板を凹ませてるんですか! それ、修理が必要になりますよ。修理ですよ! その凹んだ装甲が原因でシールドが上手く機能しなかったら、クルマで戦うなんて出来ませんよ。ハッチも斬り飛ばしてるし……お嬢、聞いてますか?」
「ゴズ、うるさい」
オウカは無骨な刀を脇に抱え、耳に指を突っ込んでゴズの小言から身を守っていた。




