543 オーガキラー15
助け出した少女を連れてオウカとゴズが洞窟を出ると、空は赤く染まり陽が落ちようとしていた。
「お嬢、思っていたよりも手間取りましたね」
ゴズはそう言い、隣の少女を見る。少女は赤く染まった空をぼうっと眺めていた。
「お嬢、砂漠の夜は冷えますからね。無理せずにここで休んで、朝方の涼しくなってから出発しましょう」
そんなゴズの言葉に、オウカは頷きを返す。
「で、ゴズ、カレーは?」
そのオウカの言葉にゴズは肩を竦める。
「すぐに出発しようと言ったのはお嬢ですよ。カレー粉を買う間があったと思いますか? 探すなんてとてもとても」
「ゴズ、捏造したな。急いで出発しようと言ったのはゴズの方だ」
ゴズが片目を閉じ、肩を竦める。
「お嬢、分かりました。そういうことにしておきましょうか。とにかくですよ、街で補給をしていないので、何も無いんです。これは本当ですよ。今から戻って洞窟のアレを倒してきますか? アレのステーキは高級品だって話ですし、あのサイズですから、大食いのお嬢でもお腹いっぱい食べられるのでは? では?」
「ゴズ、うるさい。今のアレを食べようなんて悪食にもほどがある」
「確かにそうですね。今のアレは食後すぐですからね。砂抜きならぬ、バンディット抜き無しで食べようと思ったら、ちょっとアレかもしれません。分かりました。自分が、そこら辺から適当に食べられそうなものを探してきますよ」
ゴズの言葉にオウカが反応する。少女を見て、次に首を横に振る。
「ゴズ、うちが行く。ゴズはここに残って」
「なるほど……分かりました。お嬢、あまり無茶しないように」
「ゴズ、うるさい。分かってるから」
オウカが無骨な刀を持ち、食料を探しに行く。
ゴズはそれを小さくため息を吐きながら見ていた。
「さて、と。俺は火種になるものを探してくるから、ここで大人しくしていてくれよ」
ゴズが少女に話しかける。虚ろな目で空を見上げていた少女が反応し、小さく頷く。
ゴズが火種となるものを探しに洞窟へと戻る。
その道すがらゴズは右目に手を当てる。
(感知はしている。周辺状況は良好。もし、何か裏があるなら動きを見せるはずだ。さて、どうだろう)
ゴズがブツブツと呟きながら火種になるものを探す。だが、ろくなものが見つからない。
「バンディット連中が何か持っているかと思ったが、何も無いな。火種を探すよりも洞窟の中に居た方が良いのか? いや、砂丘ミミズの巣になっている洞窟で休むのは問題があるだろう。砂丘ミミズがあの一匹だけとは限らない。そんな中で休むのは……俺は良くてもお嬢には、な。洞窟の入り口が安全とも限らないが、それでも奥で休むよりはマシだろう。しかし、本当に何も無いな」
と、そこでゴズは洞窟に転がっているものに目をつける。
「仕方ない。これを使うか。燃やすことで酷い臭いが出るかもしれない。だが、寒さで凍えながら耐えるよりはマシだろう」
ゴズはそう言って転がっているものを手に取る。
「燃やして有毒なガスとか出ないだろうな? 一応、成分解析と有毒物質が含まれていた場合の除去作業だけはやっておくか」
ゴズがべちゃりと紅い点を引くそれを持って洞窟の入り口に戻る。
そこでは変わらず少女が空をぼうっと見上げていた。
「火を起こすぞ」
ゴズがそれに火を点け、燃やす。そして、少女を見る。
「さて、お前は何者だ?」
少女がその言葉に反応し、ゴズを見る。
「喋れない訳じゃないだろう?」
少女が何か喋ろうと口を開く。だが、言葉が出てこない。
「お前はお嬢を見て、鬼の人と言っていただろう? 聞こえていたぞ。お前は鬼が何か知っているのか?」
少女が首を横に振る。
「あ……、あ、わ、わ、わか……あ」
少女が言葉にならない言葉を喋る。
ゴズが小さくため息を吐き、肩を竦める。
「分かった。それで、名前は?」
少女は首を横に振る。
「お、オ……オリ、オリハ」
そして、ゆっくりとそれだけ告げる。
「お前の名前はオリハなのか?」
少女は首を傾げ、良く分からないという目でゴズを見る。ゴズがため息を吐く。
「記憶が無いのか?」
少女は良く分からないという感じに首を傾げる。ゴズがもう一度ため息を吐く。
「分かった。とりあえず名前がないと不便だからオリハと呼ぶ。それで良いな?」
ゴズの言葉に少女がゆっくりと頷く。ゴズが何度目か分からないため息を吐き、燃えているそれを見る。
「ああ、しかし、こいつは臭うな。お嬢が捕まえてきたものは生で食べられないだろうし、だが、これは焼くと臭いが移りそうだ。悪臭のする焼肉か。はぁ、一日くらいは飯抜きで耐えられるか? お嬢は無理だろうな。はぁ、食べるのが大変そうだ」
そして、オウカが戻って来る。
オウカは得意気な顔で蜥蜴のような生き物を三匹ほど捕まえていた。
「どうだ、ゴズ! 今日は焼肉だ」
それを見てゴズは大きなため息を吐いていた。




