542 オーガキラー14
「はっ、お嬢!」
我に返ったゴズがオウカに呼びかける。
「ゴズ、うるさい。分かってる」
ゴズとオウカが慌てて通路へと戻る。
巨大なミミズが広間で暴れ回っている。集まっていたバンディットたちを情け容赦無く喰らい、噛み砕き、噛み千切り、広間に死をまき散らす。
「バンディットの知能では無理があるだろうし、どうやってこの洞窟が出来たか不思議だったが、どうやら砂丘ミミズの巣だったようだ。船長、それでもここを拠点として使うつもりなのか?」
ゴズがぶるぶると震えているクマのぬいぐるみに話しかける。
「ユー、ミーを見くびらないで欲しい。さ、砂漠にミミズはオプションだ。よくあることだ。あるシティでは成人のイニシエーションとして砂丘ミミズのハントをするそうだ。それくらいよくあることだよ。オフコース、ヨーソローだ」
「船長、ますます何を言っているか分からない」
ゴズが大きくため息を吐き肩を竦める。
「ユー、ミーには、この程度、ノープロブレムだということだ」
クマのぬいぐるみが震えていた体を押さえ、無理矢理胸を張る。ゴズはクマのぬいぐるみの言葉を無視してオウカを見る。
「お嬢、どうしますか?」
「ふむ」
オウカが無骨な刀を握り直し、広間で暴れ回っているミミズと刀を見比べる。
「お嬢、斬りに行くなんて言ったら止めますよ」
「ゴズ、無理だと思うか?」
オウカは無骨な刀を構えている。それを見てゴズは大きなため息を吐く。
「無理とは言いませんよ。ですが、お嬢。お嬢はオフィスで受けた依頼の内容を覚えていますか? 一つは人質の救出。これは、まぁ……」
ゴズが少女を見る。
「成功とは言えませんが、失敗でもないでしょう。もう一つはバンディットの殲滅。こちらは文句なしの達成でしょう。最後は砂丘ミミズに手伝って貰いましたが、何か討伐条件があった訳でも無し、問題ないでしょう」
「ゴズ、何が言いたい?」
オウカは無骨な刀を構えたままゴズを見る。
「お嬢、アレを倒す必要なんて無いってコトですよ。アレを倒しても喜ぶのはここを拠点にしたい船長くらいです。あー、戦闘狂のお嬢も喜びますか?」
「ゴズ、うるさい」
オウカの言葉にゴズは肩を竦める。
「お嬢、無益な殺生ですよ。船長が自身で問題無いと言っているのだから、後は船長に任せましょう」
ゴズがしゅっしゅっと拳を突き出していたクマのぬいぐるみを見る。
「ん? どうしたのかね。ミーのマッハなパンチにチャームされたのかね」
そんなクマのぬいぐるみの言葉を聞きゴズは小さくため息を吐く。そして、そのままオウカを見る。
「船長もやる気ですから、後は船長に任せましょう。その結果、船長が食われるようなら、それはそれでそれまでってことですよ」
「ん? 何やらミーに対してサッドなスピークをしている気がするんだが。まさかミーにアローンでアレをやれと?」
クマのぬいぐるみが困った顔でオウカとゴズを見る。オウカが大きなため息を吐き、構えを解く。
「と、お嬢、通信です」
ゴズがそう言い、右目の辺りに手を当てる。そして、何度か頷く。
「お嬢、オフィスからの通信です。緊急依頼をお願いしたいと言っています」
「内容は?」
「ふむ。あの砂丘ミミズの討伐依頼かね」
クマのぬいぐるみが期待した顔でゴズとオウカを見る。
ゴズが大きなため息を吐き、憐れみを込めた目でそんなクマのぬいぐるみを見る。
「生存が確認された海賊団の首領、キャプテンホワイトの討伐または捕縛ですね。キャプテンホワイトはウォーミの街で刑を執行中に逃亡。死んだと思われていたがバンディットたちに捕まっていただけで奇跡的に生きていたそうですね。刑期はまだ後百年以上あるそうですねー。逃げたことでさらに刑期が延びるそうですよ」
ゴズがクマのぬいぐるみを見る。
「そのキャプテンホワイトですが、賞金額はぴったり一万コイル。意外と大物ですね。生死を問わすということですから、お嬢向きの賞金首ですね」
ゴズがクマのぬいぐるみを見る。
見る。
クマのぬいぐるみがその圧に負け、後退る。
ゴズがクマのぬいぐるみを見る。
「ぼ、ボーイ。ミーは善良な一般ピーポーだ。そうプレッシャーなルックするのは止めたまへ」
ゴズがクマのぬいぐるみを見る。
……。
そのゴズが肩を竦め、オウカへと向き直る。
「お嬢、どうしますか?」
オウカはすでに構えを解いている。
「ゴズ、疲れた。もう帰ろう」
「お嬢、了解です。護衛依頼からそのまま休む間も無くここまで来ましたからね。今日くらいはシャワーのついた贅沢な宿で一泊しましょう」
「うむ」
広間では未だ巨大なミミズが暴れ回っている。
オウカはそれを無視して通路を戻っていく。ゴズは無口な少女の手を取り、そのオウカの後をついていく。
その場にクマのぬいぐるみだけが残された。
「ユー、フレンドのミーを放置とか、少し薄情じゃあないかね。一緒にバトルしたのだから、ユーとミーはもうフレンドだろう?」




