540 オーガキラー12
全ての処理を終えたゴズがクマのぬいぐるみを引き摺り、来た道を戻る。
「ボーイ、このキャリーはベリーベリーバッドだと思わないかね。ミーのチャームボディがブロークンしてしまう」
クマのぬいぐるみは引き摺られながら腕を組み、無駄に渋い声でゴズに話しかけている。
「何を言っているか分からないが、この方が早いから我慢してくれ」
「ふむ。ユーがそこまでスピークするなら耐えようじゃあないか。ミーのストロングなハートを見せよう」
ゴズたちは分岐路まで戻り、そこから食料庫への道を進む。
「む」
ゴズが走りながら呟く。
「ボーイ、どうしたのかね」
「こちらの道はずいぶんと多いと思っただけだ」
通路には、どれも一撃で斬り殺されたであろうバンディットたちの死体が転がっている。
「ふむ。確かにウォームでホットな死体が多いようだ。ストームでも駆け抜けたのかね」
「嵐? やったのは間違いなくお嬢だろう。俺が考えたのは、向こうの通路に殆ど居なかったバンディットどもが、何故、こちらに多いのかってことだ」
「連中にとってはイートするミートなタイムの方が優先のランクがハイなのではないかな?」
ゴズは走りながら腕を組む。それに合わせてクマのぬいぐるみがぶらぶらと揺れる。
「それか向こうは特定の奴しか活用出来ない、か」
「ふむ。ユーのインスピーレションを披露するのは良いが、ミーをもっと大事にしたまへ」
クマのぬいぐるみの言葉にゴズが肩を竦める。
無数のバンディットの死体が転がる通路を抜け、ゴズたちは食料庫に辿り着く。
「ミーのボディがベリークリムゾンだよ。後でウォッシャブルが必要だ」
血の海の中を引き摺られたクマのぬいぐるみが肩を竦めている。
「それで? 船長、ここが食料庫か」
「うむ。そうだろうね」
ゴズが片方の眉をしかめ、扉を開ける。鍵はかかっていなかった。ゴズたちはそのまま食料庫へと滑り込む。
部屋の中には――
「う、酷い光景だ」
ゴズが鼻を押さえ思わず呟く。
それだけ酷い有様だった。
部屋の中に散らばっているコンテナには腕や足などがそのままの状態で積み上がっている。天井からおろされたフックに内臓を抜かれた状態でぶら下がっている。
連中には鮮度を保つという考えがないのか、いくつかの死体は腐敗が進み、蟲が湧いている。その周囲には食料庫と呼びたくないほどの悪臭が漂っていた。
「お嬢……」
そんな中にオウカが居た。無骨な刀をおろし、困った様子で立ち竦んでいる。
「ゴズ!」
オウカがゴズに気付き、安堵の声を上げる。
「お嬢、どうしたので?」
ゴズがオウカに話しかけ、それに気付き、そして状況を理解する。
オウカの前に幼い少女が居た。
少女は虚ろな目でオウカを見ている。
「お嬢、子どもを怖がらせたらダメですぜ」
「ゴズ、うるさい。違う、私は……」
オウカの言葉にゴズが肩を竦め、そのまま少女の元へと歩いていく。ゴズが少女の前でかがみ込む。
「もう大丈夫だ。助けに来た」
ゴズの言葉に反応し、少女がオウカを見る。
「鬼の人……」
少女がオウカを見てポツリと呟く。
「む、むむむ」
少女に見つめられたオウカが目を逸らす。
「お嬢……」
ゴズが大きなため息を吐く。
「ゴズ、う、うるさい。どうしたら良いか分からないんだ」
ゴズは肩を竦め、よちよちと歩いて来たクマのぬいぐるみを見る。
「船長、この子を知っているか?」
「いや、ノーだ。ミーの知らないリトルレディだ。ここの連中は手広くやっていたようだから、色々な場所から連れてきたとなると、さすがのミーも把握はインポッシブルだ」
「なるほど。お嬢、他は?」
ゴズは食料庫の中を見回す。自分たちと少女の他に、生きている人は……居ない。
「この子だけだ。ゴズは?」
オウカの言葉にゴズが無言で首を横に振る。
「そうか」
「ええ、この子が唯一の生存者みたいですね。この子が生き延びていたのは――どちらにしても成長するのを待っていたからか」
と、そこでゴズは違和感に気付く。
(成長するのを待つ? 何故だ? ここには成長を促進させる装置があった。待つ必要はないはずだろう?)
ゴズは改めて少女を見る。
(悪意は感じない。悪意も作意も見えない。たまたま、なのか?)
少女は虚ろな瞳で宙を見ている。もしかすると大きなショックで心が壊れてしまったのかもしれない。
ゴズは大きくため息を吐く。
「お嬢、どうしますか? 唯一の生存者の救出も完了。一旦戻るのもありですよ」
「オンリーワン? ミーも生存者なんだがね」
ゴズとオウカはクマのぬいぐるみの言葉を無視する。
「お嬢、この子を連れて戻りますか?」
オウカは首を横に振る。
「ここを殲滅する。そっちが優先。こいつらは一人も逃さない」
「了解です。お嬢」




