537 オーガキラー09
「さて、こいつらは戦意喪失のようだが、お前らはどうする?」
ゴズがオウカから受け取った刀に布を巻き付けながらクルマの運転手とヨロイに乗った男たちに呼びかける。
「が、餓鬼が! なんでお前が偉そうに仕切ってるんだよぉぉ!」
土木作業用にしか見えないヨロイに乗った男が叫び、ヨロイに持たせた丸太を振り上げる。
次の瞬間、そのヨロイが地面に転がっていた。
何をしたのか、されたのか、誰がやったのか分からない。
ヨロイがすてんと地面に転がっている。
「それで? どうする?」
ゴズが無骨な刀に布を巻き付けながらもう一度確認する。ヨロイに乗っていた男は何が起きたか分からず、怯えた顔でゴズを見る。
「お、俺たちは、シャポンに無理矢理付き合わされただけだ。従わないとヤバかったんだよ。分かるだろ? そのシャポンはもう駄目だろ? だ、だから、あ、あ、あんたらに逆らわねえよ」
土木作業用にしか見えないヨロイに乗り込んでいた男が両手を挙げる。
「……乗るか?」
バスのようなクルマを運転していた男は状況が分かってないのか、そんなことを言っている。その態度にゴズは肩を竦める。
「それなら、その呻いている奴らを回収して運んでくれ」
「……乗せるのか?」
「わ、分かった。お、おい、バン、お前も手伝ってくれ。回復薬が残ってただろ。こんなヤツら低価格のヤツで充分だろ」
無事な男たちが、ゴズの命令に従って呻き声を上げている男たちをクルマの中へと運んでいく。
「回復薬ねぇ。それで、お嬢、また上に乗るので?」
「ゴズ、うるさい。ゴズが寂しいだろうから、そっちに一緒に乗る」
オウカがゴズの居るコンテナに乗り込んでくる。ゴズはそれを肩を竦めながら見ていた。
トレーラーの進路を塞いでいたバスタイプのクルマが動き、それに合わせ、すぐに出発となる。
「お嬢、今、オフィスに連絡しました。どうやら依頼失敗にはならなさそうですね」
「ふむ。そうか」
ゴズの言葉にオウカは素っ気ない言葉を返す。
「はぁ。お嬢、どうしました? まさか、お腹が空きましたか? 確かライスボールがあったと思います。おー、これだこれだ。ささ、どうぞ」
ゴズがオウカに透明な紙に包まれた三角形の白い食べ物を渡す。
「ゴズ、これいつのだ?」
「サンライスで買ったものですから、三日前くらいかと。えー、まぁ、お嬢なら食べられるでしょ。向こうの名産品らしいですから、味わって食べてください」
「うむ。分かった」
トレーラーが走る。その横にバスタイプのクルマとヨロイが並走している。逃げ出す様子はない。オウカの実力を知って怯えているからなのか、それともオフィスに知られ、もう逃げられないと理解したのか、その両方かもしれない。
そして、大きな湖とその湖に隣接する多くの建物が見えてくる。
レイクタウンだ。
レイクタウンの建物の中に一際目立つ金色の豪華な建物があった。
「なんだ、あの建物は!」
その建物を見たオウカが驚きの声を上げる。
「姐さん、知らないので? あれはブマット御殿。レイクタウン出身の一代で成り上がった、ちまたで黄金とかゴールドマンとか言われてるヤツの家でさぁ」
オウカの声が大きかったからかヨロイに乗っていた男が教えてくれる。
「ふむ。アレが個人の家とは、うちの実家と同じくらいか?」
「お嬢、比べたら駄目ですぜ」
「ゴズ、うるさい」
ゴズはオウカの言葉に肩を竦める。
「しかし、一代で豪邸を建てる、か。凄いな」
「ええ、今回の依頼も、今回の荷物も、そのゴールドマンさんのところの依頼なんですよ」
ゴズの言葉にヨロイに乗った男が答える。
「ああ、そうだったのか」
「そうなんですよ。えー、それでですね、俺はシャポンの野郎に無理矢理従わせられていただけなんで、そこのところよろしくお願いします。ほら、俺、凄く協力的じゃあないですか」
ヨロイに乗った男が調子の良いことを言っている。
「うむ、よろしい」
男の言葉にオウカが腕を組み、頷く。
「お嬢、よろしいので?」
「うむ。この程度のやんちゃ、うちは気にせん」
オウカの言葉にゴズは大きくため息を吐く。
「だ、そうだ」
「姐さん、ありがとうございます! 今後は心を入れ替えて真面目にクロウズの仕事をやりやす」
トレーラーが金色に輝く御殿の横で止まる。どうやら、ここが荷物の搬入先のようだ。
そこには目つきの鋭い女が待ち構えていた。
「お前たちは荷物の確認をしなさい」
その性格のキツそうな女が従業員らしき男たちに命令をする。
「あんたが依頼主か?」
ゴズがキツそうな女に話しかける。
「ええ、そうね。ところであなたは? シャポンはどこかしら?」
女の言葉にゴズが肩を竦める。
「そいつなら、クルマで寝てるよ」
「あら? どんな襲撃があったか知らないけど負傷するなんて、今後は他のクロウズに依頼した方が良いかしら」
「見ていて知っているんだろう? 好きにしてくれ」
ゴズの言葉に女が口角を上げる。
「ふふ。面白いことを言うのね」
ゴズは何も答えず肩を竦める。
「ワルイーネ様、荷物を確認しました。規定数通りです」
「ふふ。今回はちゃんと規定数通り運ばれたのね」
女と従業員がそんな話をしている。
「それで、報酬は?」
「ええ。そうね、依頼は達成。オフィスにはちゃんと報酬を振り込んでおきます」
「そうかい、それは助かるよ。で、俺たちが護衛をやった件はどうなる?」
ゴズが親指でバスタイプのクルマを指差す。女が首を横に振る。
「何も。最近は少し目に余ると思っていたところだったから、ちょうど良かったわ」
「そうか。一応、言っておくが、そこのクルマとヨロイの運転手は無理矢理、従わせられていたそうだ」
「無理矢理、ね。分かったわ」
キツそうな女が何処か呆れた顔でゴズを見る。そして次にオウカを見る。
「ねぇ、あなた、それなりに腕が立つようだけど、もし良ければここで護衛をしない? オフィスに使い潰されるよりはマシよ?」
オウカを見た女がそんなことを言い出す。だが、オウカは首を横に振る。
「断る。それなりではない。私はSUGOIだ」
「ええ、お嬢はSランクですからね」
「ゴズ、うるさい」
オウカとゴズの言葉を聞き、そのやり取りを見て女は小さくため息を吐く。
「あら、そう。それは残念ね。所詮、クロウズってことかしら」
「ああ。それじゃあな」
ゴズがコンテナから飛び降り、オウカもそれに続く。
「お嬢、報酬を受け取りに、とりあえずオフィスに行きますか」
「うむ。そうしよう」




