535 オーガキラー08
腕を切り落とされた男が痛みで転げ回っている。
「おいおいおいおい、おーい、洒落にならねぇなぁ。こいつは洒落にならねぇと思わねぇか、なぁ、ガチャガチャ」
「クソ生意気な新人を仲間にしてやろうってシャポンの兄貴の優しさに、泥をかけやがって! こんな仕打ちで返すのかぁ、あ?」
シャポンは特徴的な前髪に櫛を通しながら、ニヤニヤと笑うガチャガチャの言葉を聞いていた。
「ずいぶんと余裕だな」
ニヤニヤと笑う二人を見てゴズが肩を竦める。
「余裕? 俺からすればお前らの方が分からねぇなぁ。たった二人で俺たちの団を相手にしてなんとかなると思ってんのか?」
シャポンは特徴的な前髪が整ったことを確認し、満足げな顔を作る。だが、その前髪がすぐに垂れてくる。
「シャポンの兄貴の、俺たちの団が何人居るか分かってんのか? クロウズランク平均20越えが、二十人以上居るんだぜ。しかも、俺たちにはクルマがある。ヨロイもある。勝てると思ってんのか?」
スキンヘッドのガチャガチャが眉を歪め、威嚇するようにゴズとオウカを睨む。
「いつの間に二十人以上に増えたんだ? あのクルマの中で分裂でもしたのか?」
ゴズはそう言いながらクルマの方を見る。
バスのようなクルマには三機ほど小型の機銃が取り付けられている。大型の砲は取り付けられていないようだ。ヨロイも土木作業用を改造したものらしく、盾のような鉄板とただの丸太を武器代わりに持っているだけだった。駆け出しのクロウズよりは遙かにマシだが、威張れるほどの武装では無い。
「あ? 分かんねぇのか? 餓鬼が分かんねぇのか。このまま死にてぇらしいな!」
「待て、ガチャガチャ。あんななまくら見てぇので、ダインの腕を切り落としやがった。あの女、なかなかやるぞ」
そのまま突っ込みそうだったガチャガチャをシャポンが止める。
「餓鬼、俺はなぁ、争いごとが嫌いなんだ。あー、分かってんのか? っと、悪ぃ悪ぃ、つい熱くなるのは俺の悪い癖だな。ふー、餓鬼、聞け。今、謝るならまだ許してやるぞ。その代わり、お前らの取り分は無しだがな」
シャポンが苛々としながら特徴的な前髪に櫛を通す。前髪を整えていく。その習慣がシャポンの爆発しそうだった気分を鎮める。
「兄貴! さすが、シャポンの兄貴は寛大だぁ。あったけぇ。やっぱ、懐の大きな人だぜ!」
二人のやり取りを見ていたゴズが大きなため息を吐く。
「それで?」
ゴズは顔に手をあて、首を横に振っている。
「上の大女! その位置からどうやってダインの腕を切り落としたか分からねぇ。すげえなぁ、確かにすげぇ。お前らが新人の癖に偉そうなのも、納得の腕前だ」
シャポンが特徴的な前髪を整えながら、そんなことを言っている。
「さすが、シャポンの兄貴! あんな分かってねぇ、クソ餓鬼連中すら認めるなんて、さすがシャポンの兄貴!」
「そうだろう、そうだろう。ふふふ、俺は認めるところは認めるからな!」
シャポンとガチャガチャ、二人のやり取りを見ていたゴズがもう一度大きなため息を吐く。
「それで?」
「それでじゃねえよ、餓鬼が! 分かんねぇのか! 餓鬼は数も数えられねぇのか! あ? 前にもな! そこの大女見てぇな、な! 奴が居た。そいつはなぁ、自分のナイフ捌きがどれだけ凄いか俺の前で自慢していたよ。確かに凄かった。まともにやりあったら、俺じゃあ勝てない、そう思ったぜ。そいつがどうなったと思う? 分かるか? はははは、俺が撃ち殺してやったぜ!」
シャポンが特徴的な前髪を整えようと何度も櫛を通し、それでも整わず、ペロンと前髪が倒れることに怒り、手に持っていた櫛をへし折る。
「分かんねぇのか。これだけの数で囲んで銃で撃てばよぉ、お前らは死ぬんだよ! そのナイフ使いはよぉ、銃弾くらいは斬れるとか言っていた。確かに銃弾を斬ってたぜ。だがなぁ、そいつがどうなったと思う? その馬鹿はぁなぁ、斬った弾丸の破片にぶち当たって痛みで転げ回っていたぜ。そのままそいつが捌ききれないほど銃弾を撃ち込んだら、あっさり死にやがった。ナイフ使いなんてその程度だ。その大女がどれだけ凄かろうが、近接距離が銃に勝てるか! 馬鹿がよぉ!」
「それで? その髪、ワックスでもつけたらどうだ?」
「うるせぇ、クソ餓鬼が。後悔しても遅いぜ。撃ち殺せ!」
シャポンがゴズたちの方へ右手をおろす。
それを見たゴズが大きくため息を吐き、肩を竦める。
「俺が、お前らの漫才に付き合った理由が分からないのか?」
「何を、はっ!?」
シャポンがコンテナの上を見る。そこにオウカの姿は無かった。
「不味い! 女が動いているぞ! 早く撃ち殺せ!」
不意打ちを受けると思ったシャポンたちが慌てている。だが、攻撃は無かった。
「お嬢、時間は稼ぎましたよ。しかし、まさか降りないではなく、降りられないとは思いませんでしたよ」
「ゴズ、うるさい!」
オウカが恐る恐るという感じで、コンテナから降りていた。そして、地面を踏みしめ、その感触に大きく安堵のため息を吐く。
「さて」
地面に降りたオウカが無骨な刀を構え、ニヤリと笑い、シャポンたちの前に立つ。
「大女! 聞いてなかったのか? そんな近接距離の武器で銃に勝てると思ってんのか? いいから撃ち殺せ!」
「大女、大女って! うちはそこまで大きくない」
オウカが一歩踏み出す。そこにシャポンたちが撃ち放った無数の銃弾が迫る。
一閃。
「切ったら銃弾の破片で、か。確かにその通り。だが、うちのお嬢の刀がどうしてそこまで大きいか分かるか? それは銃弾ごとぶっ潰せるようにだ」
オウカが斬り払った一撃で無数の銃弾が消し飛ぶ。そう消し飛んだ。破片すら残らない。
オウカが踏み込む。シャポンの特徴的な前髪を斬り落とし、その両腕を落とす。オウカが滑るように取り囲んでいた男たちの間を抜ける。
男たちの銃を持っていた腕が斬り飛んでいく。
「ば、馬鹿なぁ。うんなことが出来るとか、化け物かよ!」
「あ、兄貴、腕が、腕が! 俺の腕が!」
「ぎゃー、痛ぇ、痛ぇ」
「だから、反対だったんだ」
「ひ、ひぃひぃ、死ぬ」
至る所で悲鳴が上がっている。
「お嬢、殺さないので?」
「殺したら、うちが疑われる。証拠は必要だ」
無骨で大きな刀を手に持ったオウカがコンテナまで戻って来る。
「お嬢、やっと少しは考えるようになったんですね」
「ゴズ、うるさい!」
オウカはそう言いながらゴズに無骨な刀を突き出す。
ゴズは肩を竦めながら刀を受け取る。
「お嬢、レイクタウンでは鞘を買いましょうよ」
ゴズ……何者なんだ?




