532 オーガキラー05
「お嬢、こちらに来て一緒に食べませんか? 話したい人も居るようですよ」
ゴズがコンテナの上に居るオウカへ呼びかける。
「うまい、うますぎる」
だが、オウカはそれを無視して一人で食事を続けていた。
「すみませんねぇ、お嬢は風に語りかけるのが忙しいようです」
ゴズは肩を竦め、他の面子へと向き直る。
「やれやれ、今回の新人は、態度だけは大物のようだ」
特徴的な前髪の男が、その飛び出た前髪に櫛を通しながら怒りを堪えているのか、ぴくぴくと顔を引き攣らせている。
「いくら待っても来ないから、こちらから来てやったのに、おぉっ? ずいぶんな態度だな」
その隣に立っていたスキンヘッドの男も顔を引き攣らせている。
「お嬢は恥ずかしがり屋なんですよ。人見知りが激しくて知らない人と喋るなんてとてもとても」
苛々としながらも品定めするような二人の視線を受け、ゴズは小さくため息を吐く。
「ゴズ、うるさい! 聞こえてるぞ」
コンテナの上からオウカの大きな声が聞こえてくる。ゴズはオウカの言葉を聞き、二人に見えるほど大きなため息を吐き、肩を竦める。
「おおぅ、先輩の俺らに対してずいぶんと舐めた態度じゃねえか。最初からだがよぉ、出発時間になっても挨拶にも来ねえしよぉ。こうやってわざわざ俺たちの方から来てやったのに、それがどういうことか分からねえのか! ランク0の研修を終えたばかりの新人がよぉ、クロウズになれたからって浮かれてんのか? 新人だから常識が分かってませーん、ってか。俺らの団はな、クロウズランク平均20越えだ。その意味が分かってねぇようだな」
スキンヘッドの男が威圧するように身を屈ませ、小さなゴズを睨み付ける。ゴズは、それをぽかんとした顔で見ていた。
「ガチャガチャ、そこまでにしておけ。新人が怯えてるだろ?」
「すいやせん、シャポンの兄貴」
ガチャガチャと呼ばれたスキンヘッドの男がニヤニヤと笑い身を引く。
「えーっと、お二人は兄弟なので? それにしてもよく平均なんて知ってましたね。すごーい。博学だぁ。見かけで人を判断したら駄目だってことですね」
ゴズがニコリと笑い、二人にそう告げる。
「おい、餓鬼。どうやら死ぬほど痛い目に遭いてぇらしいな」
スキンヘッドの男がゴズの胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。ゴズはそれを呆れた顔で見ていた。
「ガチャガチャ、止めろ」
それをシャポンと呼ばれた特徴的な前髪の男が止める。
「しかし、シャポンの兄貴……」
「おい、坊主。お前、クロウズ同士の揉め事が禁止されてるから余裕なんだろ? 手を出した俺らの方が悪いってぇことになるからなぁ!」
スキンヘッドの男を止めた特徴的な前髪の男がゴズを見る。
「そーなんですか?」
ゴズは首を傾げる。
「だがなぁ、手段が無い訳じゃない。いいか、お前をぶちのめして黙らせることも出来るが、あえてやらねぇだけだ。餓鬼とミュータントの新人が、そんな態度でこの先もやっていけると思ってるのか?」
ゴズの言葉を無視して、飛び出した特徴的な前髪の男が、その特徴的な前髪に櫛を通し、そんなことを言う。
「あー、ご忠告ありがとうございます?」
ゴズは首を傾げたままだ。
「そうだ、忠告だ。今回の仕事、お前らは何もしなかったって依頼主には言っておく」
そして飛び出した前髪の男がゴズにそう告げる。
「がひひひ、良かったな! 新人の初仕事がいきなり失敗だ。これでお前らに依頼しようって奴は減るだろうな。良かったなぁ! 粋がってる新人には良い経験になったな! 今更、謝っても遅えぞ。がひひひ、分かったな!」
スキンヘッドの男が楽しそうに笑う。
「ガチャガチャ、行くぞ。そういうことだ、新人!」
飛び出した前髪の男がスキンヘッドの男を連れてコンテナから去って行く。それを見てゴズは大きなため息を吐く。
「お嬢、聞こえてますか? お嬢に協調性が無いから、依頼が失敗しそうですよ。同じ依頼を受けた者同士、仲良くしても良いと思うんですけどね。しかも向こうはこの依頼を定期的に受けてる連中だ。自分たちはそこに混ぜて貰った立場なんですよ」
「ゴズ、こうるさい! 食事の邪魔だ」
オウカはゴズの言葉を無視するように、夕焼けに照らされたコンテナの上で食事を続けていた。
ゴズは大きなため息を吐く。
「お嬢、今日はここで休憩ですが、あの様子なら、連中が夜に襲ってくることはなさそうですね。そんなことをしたら、お嬢が初仕事に失敗して落ち込んでいる姿が見えないし、怪我をしていたらマシーンやビーストに襲われたと言い訳をしても限界があるでしょうからね」
「ゴズ、うるさい。食事中だって言ったはずだ。しかも、なんで失敗するのが、私限定なんだ!」
「はいはい、お嬢。自分も食事にします。それにしても、連中、荷物を積んだコンテナの方にお嬢と自分が配置されてる意味が分からないのだろうか。新人で、本当にお荷物だから、安全度の高いこちらに配置されてるとでも思っているのか?」
「ゴズぅ、うちはうるさいと言った。そんなことはどうでもいい」
コンテナの上から思考を放棄したようなオウカの言葉が返ってくる。
「ええ、お嬢。確かにどうでも良かったですね。そう言えば、お嬢、知ってますか? この荷物を運ぶ場所」
「レイクタウンだろ。行ったことは無いが知ってる」
「そこにある夜も開いている二十四時間営業の珍しい店に届ける物資らしいですよ、これ」
「夜も開いている? それがなんだ? そんなことが珍しいのか? それって普通じゃない?」
「あー、そう言えば、あそこはそうでしたね」
「ゴズ、地元を馬鹿にしてるのか?」
「余所では夜もやってる方が珍しいんですよ。夜は視界も悪くなるし、パンドラの充電も出来ず、マシーンどもが活発に動く時間ですから、人々は建物に隠れて怯えて過ごすしか無いんですよ」
「うちは夜でも見えるが?」
コンテナの上からオウカの得意気な声が返ってくる。
「知ってます」
コンテナトレーラー護衛依頼の一日目は少しだけ悶着はあったが、何事も無く過ぎていった。




