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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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526 ダブルクロス48

 消えた、か。


 だが、俺には見えていた。


 お互いを食べ合う巨大な蛇がただの粒子となって消えていったのを。


 ナノマシーン。


 蛇としての体を構成する命令が崩壊し、ただ漂うだけの――空気のような存在へとなったのだろう。どれだけ再生力があろうと、元に戻るのだとしても、その命令自体が狂ってしまえば終わってしまう。


 ……。


 それは俺も同じだ。


 俺の右腕は元に戻っている。


 右手を見る。手を開き、握る。問題無く動く。この体へと戻る力が強かったからか、右手自体に問題は無さそうだ。


 だが、問題は残っている。


 俺の背が少しだけ低くなっている。数ミリ程度の――ほんのわずかの差だが、俺には分かる。


 これは……俺が絡み合う巨大な蛇を構成しているナノマシーンの命令を狂わすために、左腕の弾丸に混ぜ込んだ分が戻ってないのだろう。勝利することは出来たが、その代償、か。


 俺の背が縮んだ。俺の体を構成しているナノマシーンが元に戻ろうとした結果、その数が足りず、辻褄を合わせようとした結果なのだろう。


 俺は肩の部分で無くなっている、左腕があった場所を触る。左腕が戻らないのも、だな。


 俺は死んでも死なない。不死に近い存在だろう。だが、俺の体はナノマシーンで作られている。その命令が狂ってしまえば、この左腕や縮んでしまった背のように元に戻らない。俺は――終わる。


 死にたくなったら、終わりたくなったら……そうするか? だが、そうなった時、今、こうやって思考している俺自身はどうなるのだろうか。消えるのか? それとも意識だけが幽霊のように残るのか? 分からない。分からないな。


 ……。


「うっ」

 ズキリと頭が痛む。脳に負荷を――無理をさせすぎたようだ。


 だが、ここで気を失う訳にはいかない。巨大な絡み合う蛇が現れたのはトビオが入っていった建物からだ。その建物は崩壊している。トビオがどうなったか気になる。見に行かなければ……、何があったのか確かめなければ……、


 俺はグラスホッパー号の運転席に座り直し、ハンドルを握る。そのままグラスホッパー号を動かそうとして、そのままハンドルへと倒れ込む。


 体が動かない。


 くっ……、ダメだ……、


 意識が……、


 視界がぼやける。


 動かなければ、確かめなければ、そう思うのに、体の自由が利かない。


 そして、


 俺は、


 そのまま俺自身の命を手放し――意識を失った。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 目が覚める。


 グラスホッパー号の運転席、か。


「セラフ、俺はどれくらいの時間、死んでいた?」


 ……。


 ……。


 俺の声に誰も答えない。


 何も返ってこない。


 返事は無い。


 ……。


 当然だ。


 当然だろう。


 俺は大きく息を吸い、吐き出す。体を、脳を活性化させる。


 周囲の瓦礫の山はそのままだ。あまり、時間が経っているようには見えない。

 それほど長く死んでいた訳では無さそうだ。


 俺は片手でグラスホッパー号を発進させる。


 巨大な絡み合う蛇が現れた建物があった場所まで戻る。


 ……。


 そこにあるのは瓦礫の山だ。俺はグラスホッパー号から飛び降り、邪魔な瓦礫を片付けていく。


 地下への入り口がありそうな場所に目星をつけ、その上に重なっている瓦礫を動かす。右腕で瓦礫を持ち上げ、体全体で動かし、瓦礫をどかす。何度も何度も繰り返し、邪魔な瓦礫を動かしていく。


 トビオが用意してくれた機械の腕(マシンアーム)は高価なものでは無かった。だが、それでも左腕として使えた。それが無くなった不便さを感じる。ナノマシーンに強制的な命令を行ない、多少、背が低くなっても――自分のサイズが小さくなっても左腕を作るべきだろうか? 今の俺ならそれが出来そうな気がする。


 ……。


 俺は頭を振る。


 やるべきではない。


 左腕が無くなったままになっている。ナノマシーンの命令が狂ってしまった結果そうなったのだとしても、今はその状態が正常だとナノマシーンが認識している。それをいじるべきではない。


 瓦礫の撤去作業を続ける。時間かけ、陽が落ちそうになったところで地下への階段が姿を現す。なんとか瓦礫の撤去に成功したようだ。


 俺は右腕で額ににじんでいた汗を拭う。


 地下への道は無傷のまま残っていた。これならグラスホッパー号の機銃で瓦礫を砕いた方が早かったかもしれない。


 ……いや、それは結果論だ。地下への道がどうなっているか分からなかった。下手に刺激すれば地下への道ごと崩壊する危険があった。


「……進むか」

 俺はそう呟き、地下へ続く階段へと足を踏み入れる。


 明りは灯っている。まだ施設は生きているようだ。


 地下を進む。


 地下にある地下室(へや)には無数の死骸が山となって積み上がっていた。アクシードの連中の仕業だろう。


 俺は地下を進む。


 地下の通路の先に大きな扉が見えてくる。扉は開かれている。


 俺はその中へと踏み込む。


 ……。


 そこにあったのは……誰かに倒され、壊れた機械(マシーン)だった。


 これは警備用のマシーンか。ここの扉を守っていたものだろうか? 誰が壊した? トビオか?


 俺は室内を見回す。


 だが、そこに誰も居なかった(・・・・・・・)


 倒されたマシーンの残骸しかない。


 部屋は、道は、ここで終わっている。


 どういうことだ?


 トビオは何処に消えた?

トビオが消えた……!?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 律儀だ! [一言] セラフは孤独を起点にして感情を得たんだっけか……やっぱり答えてくれるものがいないのは寂しい。 ただでさえ小さいガム君がさらに縮んでしまった。 どっかで補充できないのか…
[良い点] セラフ…
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