表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

522/727

522 ダブルクロス44

「おい、おい! おいっ! 返事をしろ!」

 トビオは転がっている人だったものに話しかける。両肩を掴んで大きく揺らし呼びかける。


 だが、返事は無い。


 どれだけ呼びかけようが、どれだけ体を揺すろうが反応が無い。焦点の合っていない目を大きく見開いたまま、動かない。


 まるで死んでいるかのようだが、体はほんのりと温かく、わずかにだが呼吸音も聞こえる。それは死なないギリギリのラインを保つだけに行なわれている、ただの反応でしかなかった。


 生きている。だが、大きく見開かれた目は死んでいる。


 そこに人としての意志を感じない。


 まるで魂が抜け落ちたかのような抜け殻。


 そんな人だったものがいくつも重なり積み上がっている。


 トビオは人だったものを掻き分ける。何人も、何人も。


 そして、そこに自分が探している人が居ないことが分かり、ホッと安堵のため息を吐き出す。


(ここじゃない。ここじゃあない。ここにシーズカは居なかった。ここにカスミおばさんは居なかった。他の部屋か? それとも他の施設か? ……他の部屋? この地下室には、生きている人の気配が無い。人が居るとは思えないぜ。誰かが息を殺して隠れているなら、俺には分からないけどなぁ。もう少し探すか? 探す? あー、クソ。最悪の最悪を見ることにしかならねぇ……そんな可能性があるのに、俺はここを探すのか。探すのかよ!)


 トビオは誰も(・・)居なかった(・・・・・)地下牢を出て、他の部屋を探す。他の部屋にも人だったものが積み上がっている。人だったものに混ざりバラバラになった円筒形の機械も転がっている。まるでゴミ捨て場だ。


 トビオは無言でその人だったものを掻き分ける。自分が探している人が居ないことを願いながら積み上がったそれ(・・)を掻き分ける。


 そこに誰も居なかったことを確認し、トビオは安堵のため息を吐く。そして、次の牢に向かう。


 ……。


 そこで、トビオはそれを見つけ、思わず口を覆う。トビオを猛烈な吐き気が襲う。トビオは壁に手をつき、口の中に戻ってきた胃液を吐き出す。


(見間違いか。見間違いじゃあない。マジかよ、クソ。あー、クソ!)


 トビオは汚れた口を拭い、それの元へと、よろよろと歩く。


 積み上がっている人だったものの中に見知った顔があった。ガリガリに痩せ細っているが、その顔を間違えるはずがない。


 トビオがそれを抱きかかえる。

「おい、おい! 返事をしろ! 生きてる、生きてるんだろ!」

 トビオがそれの頬を叩く。強く、何度も叩く。


 だが、それからは何の反応も返ってこない。


「返事をしろ! セワシ!」

 それはトビオの目の前で人狩りの機械(マシーン)に食われたセワシだった。


「セワシ! (せわ)しなく人の世話を焼くのがお前の仕事だろ! お前の兄貴が来たぞ! 早く目を覚ませ!」

 トビオが大きくそれを揺らし叫ぶ。


 だが、セワシだったそれは何も反応しない。痩せ細った体でぼんやりと宙を見ている。


 生きているが、死んでいる。


 体だけが生きている。心が死んでいる。


「クソ、クソが。だが、生きてる。セワシは生きている。助ける方法があるかもしれねぇ」

 トビオはセワシだったそれを担ぐ。軽い。重さを感じないほど軽くなっている。


「セワシ、悪いがここで少し待っててくれ」

 トビオは地下通路の壁にセワシをゆっくりともたれかからせる。


(まだ奥がある。セワシは見つかった。必ず連れて帰るぜ。あー、クソ。他にも知ってる奴が捕まっているかもしれねぇ。とりあえず助け出す。その後のことはその後で考える。それしかねぇなぁ。あー、クソ、やってやるぜ。俺ならやれる。きっとやれるはずさ)


 トビオは牢が並ぶ地下室を歩く。


 そして、その終点に辿り着く。


 大きな扉。


 その扉の前に人型の機械(マシーン)が置かれていた。バイザーのようになった目、四角いパーツを組み合わせたような体、腕に備え付けられた機銃――トビオを殺すには充分過ぎるほどの力を持った機械(マシーン)


(警備用の機械(マシーン)か? 機能停止しているのか? これ、近づいたら起きるヤツだろ。あー、クソ、マジかよ。機械(マシーン)が守るんだから、あの奥には大事なものがあるはずだ。気付かれずにいけるか? あー、クソ、無理だ。無理だな。武器になりそうなものは……ねぇな。虎の子の手榴弾も使っちまった。あー、クソ、クソ、クソが! 逃げるか? セワシを見つけた。俺はここまででも充分にやっただろ。成果を出した。逃げても良いはずだ。逃げろ、逃げろ、逃げろ。……あー、クソ! クソだ。最悪だ。それでも確認しないワケにいかないだろ!)


 トビオは眠っている警備の機械(マシーン)を刺激しないようにゆっくりと、そろりそろりと歩く。


 トビオが扉に手をかける。


――後は開けるだけだ!


 背後で音がする。何かが起動する音。


 トビオが振り返る。


 人型の機械(マシーン)。そのバイザーのようになった目に光が灯る。


 機械(マシーン)が目覚めた。


 トビオは慌てて扉を押し開け、その中へと転がり込む。


 そこには――何も無かった。


 いや、ある。


 部屋の中央にレバーのついた円筒形の謎の物体がある。押して回転させるスイッチに見える。だが、それだけだ。とても警備用の殺意しかない機械(マシーン)が守るような部屋とは思えない。


「何だ、何も無い? 無いだと! あのレバーを動かしたら……何か起こるのかよ!」

 トビオは、背後に目覚めた機械(マシーン)が居る、今の状況を忘れたかのように呆然と立ち竦んでいた。


「あ、にき……?」

 そのトビオの背後から声がする。それは聞き覚えのある声だった。呆然と立ち尽くしていたトビオが、声に反応して振り返る。


 そこに居るのは人型の機械(マシーン)だけだ。


「兄貴じゃないっすかー!」

 人型の機械(マシーン)から声がする。それはトビオのよく知るセワシの声だった。

「まさか、セワシ……なのか?」

「そうっすよ」

 機械(マシーン)が頷く。


 状況が理解出来ないトビオがよろよろと後退る。


 そこに何かの気配が生まれる。


「ふふん。こんなところにも鼠が」

 セワシを名乗る人型の機械(マシーン)の後ろから見覚えのある女がスッと現れる。まるで最初からそこに居たかのように女が立っている。


 それはレイクタウンを襲撃し、カスミをさらったアクシードの女だった。

次回の更新は2023年8月17日木曜日の予定となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何匹いるんだよ!? [一言] 根絶できないなあ…… マシーンに食われたやつもマップヘッドに収容されるのか。 てことはレイクタウンにアクシードと同時に攻めてきたのも実際に結託してたのか。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ