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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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519 ダブルクロス41

 トビオは背中に爆発の余波による爆風を受け、吹き飛ばされ転がる。


 通路を転がったトビオの体が壁に叩きつけられ止まる。


――痛い。背中が焼けるように痛い。


 トビオが背中の痛みに顔を歪める。


 通路を転がったのに、壁に叩きつけられたのに、背中だけが痛かった。そのことから、トビオは爆風を直接喰らった背中がかなり不味いことになっていると考える。


 トビオはすぐにポケットから小瓶を取り出し、爆風を受けた背中に振りかける。小瓶の中に入っているのは――ただの水だ。それはハルカナの街を出る時に店員の女から購入したものだった。水を降りかけたはずだが、何も感じない。あまりの痛みによる麻痺なのか背中の感覚がなくなっているようだった。

 トビオがポケットから錠剤を取り出し、先ほどの小瓶に残った水と一緒に、一気にそれを飲み込む。


(割増料金を払って買った貴重な水だ。背中に振りかけた水が、呼び水となって傷を癒してくれるはずだ。んで、回復薬だ。何が使われているか分からないが、貴重な回復薬だからな。これで何とかなってくれよ)


 トビオは痛みに顔を歪ませながらも立ち上がり、そのまま駆け出す。


 トビオは走る。


 目的地は地下室だ。


 イリジウムとダブルセブン――トビオは、二人の話を信じた訳では無いが、それでも確かめずにはいられなかった。


(地下への道は何処だ? 何処に向かえばいい? あー、クソ。あれであの二人を()れただろうか? 室内を覆い尽くすほどの爆発だ。逃げ道は無い。普通の人間なら死んでいるぜ。簡易シールドがあったとしても無駄だ。普通の人間(・・・・・)! 相手が全身を機械(サイバー)化していたら、どうだ? もし機械(サイバー)化していたとしても、あの爆発だ、無理だろ。運良く生き残ったとしても、すぐには動けないはずだ。そして、今、ここには、あの二人以外居ない。……居ないよな? 助けるヤツが居なければ一人でパーツ交換も出来ないだろ。だから、大丈夫なはずだ)


 追ってくる奴は居ない。トビオはそう考えながらも、嫌な予感に突き動かされ地下室を目指して走る。


(俺の悪い予感はさ、当たるんだよ! あー、クソ。外のガムと合流するか? いや、ダメだ。俺がここに来た目的は何だ? シーズカとカスミおばさんの救出だろ。ここに居るかどうか、確認しなきゃあならねぇ。居ないなら居ない、それを確認する必要がある。アクシードの雑兵たちがいつ帰ってくるかも分からねぇ。こんな風に乗り込んでしまった以上、外の見張りは――クルマが壊されないように見て貰う奴が必要だ。ここから逃げ出すにはクルマが必要だ。クルマを壊されたら? 奪われたら? その時点で俺たちは終わりだ。ガムには大変だが、グラスホッパー号を守って貰う必要がある。あいつが一番大変なところをやってくれてるんだ。俺は、俺のやるべきことをしないとな!)


 トビオが部屋の扉を開け放つ。その部屋には、天井からいくつか謎のホースが伸びていた。良く分からない部屋だ。その謎のホースと装置は使われなくなってから長いのか、埃が乗っている。


――ここじゃあない。


 トビオは言い知れぬ悪寒に身を震わせながら、地下への入り口を目指し、施設の探索を続ける。


 トビオは施設の中を走る。


 そして、足元を見て、それに気付く。


 通路の床に何か書かれている。


 矢印と文字。


 トビオは文字が読める。


 老人、またはある程度以上の年齢の者は、ほぼ全員が文字を読める。だが、この世界で新しく生まれた子ども――若い世代の中には殆ど文字が読めない者や簡単な文字しか読めない者も居る。

 だが、トビオは文字が読めた。商売をする上で必要だったからというのもあるが、カスミという存在が近くに居たのが大きい。カスミはトビオにクルマの操縦だけでは無く、文字や常識などの知識という知恵を授けていた。


「書かれているのは――まわしたいヤツらはこちら、か。どういうことだ? まわす? 何をまわすんだ?」

 トビオは考える。


 トビオは自分の勘に従い、床に書かれた矢印の通りに進む。そして、地下への階段を見つける。矢印は地下へと続いている。


 トビオは階段を駆け下り進む。


 トビオは走る。警備用の機械(マシーン)や装置が動き出せば大変なことになる。本来なら警戒しながら進むべきだ。それが分かっていてもトビオは走る。


 トビオは自分の直感を信じて走る。


 そして、地下室でそれを発見する。


 牢のようになった部屋に人を見つける。


 アクシードにさらわれた人間だろう。


 そこでトビオはさらわれた人がどうなったかを知る。


 何故、アクシードが人をさらうのか。さらった人に何をしているのか。


 何のために?


 分からない。


 トビオには分からない。


 分からないが、その結果がそこに積まれていた。


「う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 トビオは叫び、人だったもの(・・・・・・)を掻き分け、探す。


 ここに居るはずがない、こんな風になっているはずが無い。トビオはそう考えながら探す。


 ゴミのように積み上げられた人。


 そこに意志の光は無く、人の形をしているだけのもの。


(何だ、何だ、なんなんだよ! アクシードのヤツらが人狩りをしていたのは、奴隷にするためじゃあないのか。労働力じゃあなかったのか? こいつら生きているのか? なんなんだ。これは、なんなんだよ!)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヤバい! [一言] 悪い予感が当たってそうな予感。とはいえ少なくとも時間稼ぎにはなってる、かな。 円筒形の元住民はみんな玩具になっちゃったんだろうか。 ホースを使用しなくなったタイミング…
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