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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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517 ダブルクロス39

「話があるってことだけど、何の話なんだ?」

 トビオは前を歩く女に話しかける。

「ふふ、焦らないで欲しいわ」

 女の何処かはぐらかすような態度にトビオは警戒を強める。


(罠か? ――な、ワケが無いか。俺一人を殺すために罠を張る必要が何処にある。俺は俺の実力を良く分かっている。クルマに乗って戦って、やっとそこそこの戦力になるようなレベルだぜ? こんな生身で、しかも碌な武器を持ってないようなヤツなんてさ、殺そうと思えばいつでも殺せるだろ。相手がアクシードの雑兵だろうと、数人に囲まれたら終わりだろうな)


 トビオはそう考えながらポケットに手を入れる。


「そういえば、気のせいかもしれないんだけどさ、昔にさ、あんたにそっくりなヤツをレイクタウンのオフィスで見たような気がするんだがなぁ」

 トビオは何かを誤魔化すようにそんな話を女にふる。

「ふふふ、昔、レイクタウンのオフィスでクロウズをやっていたそうですから、その時に出会ったのかもしれませんね」

 女は自分のことを他人事のように話し、笑っている。


「へぇ。でもさ、その時と雰囲気が違う気がするな。まぁ、俺もその時のあんたをよく知っているワケじゃあないし、昔の記憶だから、勘違いかもしれねぇがさぁ」

 トビオは会話を続けながら考える。


(問題は、いつ行動するか、だ。本当は、潜入して、仲間になったフリをして、情報を集め、さらわれた人が何処に連れて行かれるのか調べ、それから行動に起こすつもりだった。だが、状況が変わった。にしても、元クロウズだと! アクシードの兵隊が残っていない今がチャンスだと思ったが、これは……一対一でもヤバいかもしれないな)


「雰囲気が違う? ふふ、そうですね。そうだと思います。どうしてか、ふふふ、知りたいですか?」

 女の言葉を聞き、トビオは首を横に振り、肩を竦める。


「なぁ、あんたの名前は? これからお仲間になるんだろ? これからの円滑なコミュニケーションのためにも教えてくれよ。おっと、まずは自己紹介が必要か? 俺はトビオ・トビノ。言ったと思うが、商人をしている」

「円滑なコミュニケーション? ふふふ、良いでしょう。私はイリジウム。マスターからはそう名乗るように言われています」

 女はトビオを案内しながら笑っている。


(マスター? そいつがアクシードのトップか。こいつの感じから……多分、そうだろうな。そんなヤツから名前を貰うってことは、この女、結構、上の立場なのか。そりゃあ、そうか。不当に占拠したマップヘッド。そこの兵隊が出払っているのに、たった一人残っていたくらいだからな。戦力外で置いてけぼりを喰らったワケじゃあなさそうだしなぁ。クソ、厄介だな。だが、情報を手に入れるチャンスでもある。もう少し会話を続けよう。奥の手は――まだ出すべきじゃあない)


 トビオは女の言葉から、このイリジウムと名乗った女がアクシードの幹部クラスだと当たりをつける。


「それで、聞きたいんだが……」

「さあ、つきましたよ。この部屋です」

 女がトビオの言葉を遮り、扉を開ける。いつの間にか女の目的の部屋に辿り着いていたようだ。


 そこには――


「姐さん、お帰りなさい」

 一人の男が居た。


 男の周囲には、タイヤのついた円筒形がいくつも転がっている。


「ふふふ、ただいま」

「姐さん、後ろのは、新しい玩具?」

 男はタイヤのついた円筒形をひっくり返し、中からピンク色の生々しい塊を取り出し、遊んでいる。

「いいえ、今は、お客様よ。ふふふ、今後は新しい仲間になるかもしれないわ」

 女は男に微笑みかけ、そのまま部屋の中を進んでいく。


 トビオは男にも見覚えがあった。


(……知っているぞ。当時、レイクタウンで看板になるようなクロウズだったからな。俺でも知っている。しっかりと覚えているかといえば、うろ覚えになるが、それでも知っている。この女とペアになっていたクロウズだったはずだ)


「なぁ、イリジウムさん。彼は?」

 トビオは部屋を突っ切って進む女に声をかける。女が足を止め、トビオへと振り返る。

「彼はダブルセブン。私のファミリーよ」

「それもマスターさんから、名付けられた名前なのかい?」

 トビオは会話を続けながら、考える。


(不味いな、不味いぜ。二人か。まさか、この女以外にも残っているヤツが居たとはな。あー、クソ、情報を得るどころじゃあないかもしれないぜ。そろそろ行動しないと不味いか。そろそろ限界か? クソ、何も情報を、まともなことが何も分かってないのに、ここまでなのか? だが、見誤れば、ヤバいのは俺だ。こんなことならガムと一緒にグラスホッパー号で乗り込んだ方が良かったもしれない。はぁ、最悪だ)


 女は笑っている。

「それ、重要なことかしら?」

 そう、女は笑っている。

「僕はダブルセブン。マスターからそう名乗るように言われてるよ。あ、また壊れた」

 男はタイヤのついた円筒形を壊しながら笑っている。


 女と一緒になって笑っている。


 トビオは限界だと思った。


 女がトビオをこの部屋に案内した理由は分からない。だが、それを知ることよりも現状を打破する方が優先だとトビオは考える。


 ポケットの中に入れていた手が、それを握る。


 ここでやるしかない。


 トビオはポケットの中のそれを握る手に力を入れる。


「なぁ、一つ聞きたいんだが、さらった人たちは何処に集めるんだ? 俺の仕事上さ、そういう守るべき場所は知っておくべきだろ?」

 トビオがにこやかに微笑みながら話しかける。


 それを聞くにはまだ早いかもしれない。


 だが、トビオは追い詰められていた。


 喧嘩は得意でも戦いは苦手なトビオでは、相手が二人に、しかも、元とはいえ、戦うことが仕事のクロウズ二人になった時点で決めていた。


――もう、このタイミングでしか聞けないだろ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 限界だぜ! [一言] どう見ても本物じゃないなあー? まあ複製と転写と人為的操作が横行する世界で何をもってオリジナルとするかも難しい話だけど。 ガム君だって、そもそもアマルガムだし。 イ…
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