511 ダブルクロス33
トビオの運転するグラスホッパー号がアクシードの兵隊たちと接敵する。
「実演販売、開始しますよぉ!」
チェーンガンを握った店員の女が、情け容赦無く銃弾をばらまく。先頭を歩いていたアクシードの兵隊が無残な肉片となって吹き飛んでいく。
「どうですか、お客様! これが改造された正規品の威力ですよぉ! とっても、とっても、とーってもオススメですよぉ!」
チェーンガンを振り回しながら店員の女が叫んでいる。
「おいおい、それは誰に向けたアピールだぜ。アクシードの連中が買うとでも思っているのか?」
「それはもう! 全ての潜在的なお客様と! うちの心の中のお客様にアピールですよぉ!」
店員の女はトビオが考えていた以上に危ない性格しているようだった。
トビオが大きなため息を吐く。
店員の女がチェーンガンを撃ち続ける。次々と倒れていくアクシードの兵隊たち。だが、順調だったのは最初だけだった。すぐに盾持ちの兵隊が現れ、チェーンガンから放たれた銃弾を防ぐ。
「まぁ、そうなるよな。手榴弾の在庫は?」
トビオが店員の女に確認する。
「あー、今、売り切れました! 売り切れましたよぉ! あー、でもでも、お客様がどうしてもと言うなら仕入れることが出来るかもしれません。奇跡的に何処かから在庫が見つかるかーもー」
「言ってる場合かよ」
そう言いながらもトビオは自分も同じことをしただろうな、と考えていた。
(売れる時に売る。高く売れるなら、高く売る。当たり前だよなぁ。戦わなければ死ぬという状況、自分の命を賭けてしてまでやることか、と思わないでもないが、それだけこの店員の女が極まってるってことだろうな)
トビオは大きく肩を竦める。
「それでいくらなんだ?」
「百万コイルになりまーす」
店員の女の言葉にトビオは思わず吹き出し、咳き込む。
「おいおいおい! ぼったくりにもほどがあるだろ。あんただって死ぬかもしれねぇ状況だぜ? この状況を考えたら、もう少しサービスしてくれても良いんじゃあないか?」
「サービスしてますぅ。これは本当にうちの奥の手なんですよぉ! これ、一個が百万コイル相当なんです! それを格安で提供するくらいなら、うちは死を選びますよぉ」
「マジかよ」
店員の女の言葉が本当で百万コイル相当の手榴弾だとしたら話は変わってくる、そう……トビオは考えていた。
(百万、か。さすがに、それを無料で提供してくれ、とは言えないな。だが、今の俺には無理だ。どうやっても支払えねぇ。それが支払えるなら、もっと良い武器を買ってるからな。仕方ねぇなぁ)
「店員さんよぉ、その手榴弾はとっておいてくれ。後で必要になるだろうからな」
トビオはアクシードの集団を見る。その先に居る少年と角刈りの男――その戦いが行なわれている場所を見る。
(いくら、ガムが乗っているクルマが高性能でも、いくら、ガムが素手でそこそこ強くても、あの凶悪なヤツを相手にするのは無謀すぎる。この一発が変えてくれるかもしれない。倒せるかもしれない。そして、全てが終わった後に……俺とガムで賞金首を狩って稼ぐか)
トビオは盾を構えたアクシードの兵隊たちの前までグラスホッパー号を突っ込ませる。
「俺たちを轢くつもりか!」
「総員、耐衝撃体勢! シールド展開!」
盾を構えたアクシードたちの正面に半透明の壁が現れる。
「シールド? ああ、そうだよな! お前らはそれくらいは用意しているよな!」
トビオは、グラスホッパー号が半透明なシールドの壁にぶつかる寸前でハンドルを切り、横向きに滑らせる。そして、グラスホッパー号の側面についていた刃を広げる。
グラスホッパー号の側面に取り付けられた翼がアクシードたちの構えたシールドごと、真っ二つに切断する。
「うぉ、思ったよりも凄い切れ味だな! 驚いたぜ」
「お客様、びっくりしましたよぉ! これ、数十万、いえ、百万コイルクラスの武器じゃあないですか。なんで、こんなクルマに搭載されているのか謎ですよぉ」
「こんなクルマは余計だろ」
店員の女がチェーンガンを操り、弾をばらまく。グラスホッパー号側面の翼が銃弾を防ぐシールドを破壊する。
[拙者も負けてられぬ]
袈裟の男が操るクルマが動かなくなった主砲の代わりに機銃を使って銃弾をばらまく。
アクシードの兵隊たちを二台のクルマで追い詰めていく。
「総員、退避、退避ーーっ!」
「戦車隊が到着! 戦車隊に任せろ!」
アクシードの兵隊たちが逃げ出す。
そして、その奥から四台の装甲車が現れる。
四台の装甲車に搭載された主砲が火を吹く。
グラスホッパー号に強い衝撃。装甲車による砲撃自体はグラスホッパー号のシールドで防ぐことが出来たが、その衝撃で大きくシールドの耐久値を削られていた。シールドにエネルギーを供給しようとしてグラスホッパー号のパンドラが大きく減っていく。
「おいおい、マジかよ。今度はクルマかよ!」
「お客様、アレ、多分クルマじゃあないですよぉ」
そう言うが早いか店員の女がチェーンガンを装甲車に向け、銃弾をばらまく。銃弾はシールドに防がれることなく、装甲車に当たる。だが、その全てが綺麗に弾かれていた。
反撃とばかりに装甲車から砲弾が飛んでくる。トビオはグラスホッパー号を慌てて操作し、砲撃から逃げる。
「シールドが無い? クルマじゃあないからか? パンドラを搭載してないのか? それは朗報かもしれねぇ。だが、攻撃は弾かれた。距離が悪いのか?」
「お客様、近寄っても無駄だと思いますよぉ。スーパールーキーの性能はうちが一番良く分かっています。あの装甲を撃ち抜くには足りませんねぇ。やはり、もっと良い武器を買うべきですよぉ! 今なら定価で! 定価でご販売しますよぉ」
トビオは店員の女の言葉を無視して考える。
(チェーンガンじゃあ威力が足りない? だけども、だ。この搭載された翼なら切り裂くことが出来るんじゃあないだろうか。だが、四台からの砲撃の中を突っ切って近寄るのは……無謀すぎるだろ。ああ、でも、だ。それでも、だ。他に方法が無い。あー、クソっ! 一か八かで突っ込むか? 改造屋と連携すれば……いけるか?)
トビオが決断しようとしていた時だった。
大きな爆発が起こる。
それは少年と角刈りの男が戦っていた辺りだった。そこで大きな爆発が起こっていた。
「いったい、何が……?」
トビオは大きな爆発が起きた辺りを見る。
そこには、単車型のクルマから降り、傷付きボロボロになりながらも、右手を大きく掲げた少年の姿があった。




