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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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510/727

510 ダブルクロス32

 アクシードの兵隊たちが雨の降る中、オフィスを目指し進軍する。


「ガム、お前、そんなクルマ、何処から見つけてきたんだ?」

 トビオが単車型のクルマに跨がった少年に話しかける。だが、少年は何も答えず、肩を竦めていた。


「おいおいおい、なんだよ、その返しは! そんなことをしている場合かよ。つーか、だ。地下が全滅ってどういうことだ? あの凶悪な(つら)のアクシードに全員殺されたって言うのか? クロウズの中には英雄とやらも居たんだろ? いや、それ以前に、だ。地下に居たはずの、あのアクシードがなんで目の前に居るんだ? どういうことだ?」

「英雄?」

「ああ、お前が盗人だと呼んでいたヤツだ。盗人だろうと周囲から英雄だと評価されるくらいだから、話半分だったとしても、それなりに戦えるヤツだったんじゃあないか?」

 トビオは英雄と呼ばれた男の戦力を期待していた。もし、それが過剰に盛られたものだったとしても、それでも全てが全て偽りではないはずだ、ある程度は戦えるだろう、とそう考えていた。今はそれだけ戦える者が欲しい状況だった。


 アクシードの兵隊たちはトビオたちを威圧するようにゆっくりと進軍している。


「なるほど。奴のことか。そう言えば見ていないな」

 トビオの言葉に少年が小さくため息を吐く。

「マジかよ。逃げたのか。あいつ、英雄とか言われていながら逃げたのか。これだからクロウズは信用がならねぇ。レイクタウンのヤツらも、ここも一緒だ。所詮、クロウズかよ」

「お客様、お客じゃあないゴミがゴミなのは当然なのでは?」

 トビオの言葉に思うところがあるのか、店員の女もそんなことを言っている。

「そうだな。初めて、同じ商売人として共感できる言葉を聞いたぜ。あいつらは昔から、そうだった。クロウズなんてゴミだぜ」

 トビオが怒りを露わにし、吐き捨てるように――そう口に出す。


「ん? なんだ、あんた悲しい過去でもあるのか?」

 それを聞いた単車に跨がった少年が、どうでも良いという感じでトビオにそう返す。

「別に何もねぇよ。クロウズ相手に商売を続けていたから、ヤツらがどんだけクソか知ってるだけだ」

 トビオはそう答えながら自分の身内(なかま)のことを思い出す。


(俺が、俺の身内がヤツらにどれだけ苦労させられたか! クソが。使い方を聞いてなかった自分が悪いのに、効果が無かったとヒバリの腕を使えなくしたヤツが居た。他にも……ああ、そうだぜ。自分たちが街を守っているから、と何をしても良いと思っているようなヤツらばかりだった。保護してやるから儲けを差し出せって馬鹿も居たな。裏街のヤツらよりもクロウズの方が厄介だったぜ。裏街のヤツらはクズでゴミで(わる)だが、元からそういうものだと割り切れる。だが、ヤツらは建前を盾にして善人ぶってやがるから、たちが悪い。クロウズ? どいつもこいつも俺たちを利用しようとするヤツらばかりだった。餓鬼だから、ちょっと言えばなんとでもなると思ってたんだろ。そんなヤツらが街を守る? 守っている? セワシもヒバリも、クズオーゴもタケオも死んだ。アクシードの襲撃で死んだ。街を守るんじゃあなかったのか? だから、偉そうにしていたんだろ! なのに俺の身内(なかま)は死んだ。それだけじゃあねぇ。ヤツらがクソだったがために命を落としたのは、もっと……)


 トビオは頭を振り、今はクロウズへの恨みを思い出している場合では無いと気持ちを切り替える。


「んで、だ。ガム、なんで地下に居たはずのあいつが目の前に居るんだ? 地下から出てきたんだ。少しくらいは情報を持っているんじゃあないか? あんな凶悪なのを俺たちだけで相手にするのは、少しキツいぜ」

 トビオの言葉に少年が肩を竦める。

「奴があそこに居る理由は不明だ。ある程度の予想は出来る。だが、確実では無い」

「そうか。まぁ、そりゃあそうだよな。悪いな、変なことを聞いたぜ」

 世の中、全てに答えがあり、聞けば、何にでも答えが返ってくると――そう思えるほど、トビオは純粋では無い。トビオはこの世の中が理不尽だと知っていた。


「それで、ガム、お前はどうするんだ?」

 トビオは聞く。

「奴を仕留める」

 少年は、こちらへと迫ってくる集団――その中心に居る角刈りの男を見ていた。

「おいおいおい、あいつの凶悪さはちらっとだが、地下で見たぜ。ガム、お前が持ってきたクルマがどれだけ高性能か知らねぇが、それだけで、あんなのを相手にするのは難しいだろ。地下では……クルマやヨロイを持ってたクロウズたちが虫けらのようにやられていたんだぜ」

「大丈夫だ。問題無い。奴なら地下で()潰してきた」

 少年がそう答え、単車型のクルマを発進させる。


「おいおい、待てよ! それって、どういう……って、死ぬつもりか!」

「あんたは周囲の雑魚を減らしてくれ。それで充分だ」

 少年が単車型のクルマを走らせ、アクシードの兵隊たちへと突っ込む。


「ちっ、分かったよ。店員、俺らもいくぜ。改造屋さんよ、他に武器があるなら、悪いがあんたらも手伝ってくれ」

 トビオが店員の女と袈裟の男に呼びかける。

「新規顧客の開拓と新しい仕入れルートの開拓。両方とも承りですよぉ」

「うむ。拙者も行こう」


 トビオたちが動き出す。その前方では、一台の単車がアクシードの集団の中を突き進んでいた。少年が単車に跨がったまま、アクシードの雑兵から銃を奪い、銃弾をばらまく。蹴り飛ばし、ひき殺し、突き進んでいく。


「名前の通り、一匹いたらなんとやらだな、コックローチ!」

「おうおう、俺様のことを良く分かってるじゃあねえか、アマルガム!」


 少年と角刈りの男が激突する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 因縁だ! [一言] コックローチも復活する系なのか……両者とも不死身の場合、どうやって決着をつけるんだろ。 で、アマルガム呼ばわりだからアクシード幹部的にはガム君は湖の研究所の素体って認識…
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