051 クロウズ試験18――異能解放
しばらく待ってみたがフールーは戻って来なかった。あの男が崩れてきた瓦礫に巻き込まれたという可能性は低そうだが、それでも戻ってこないということは何かあったのかもしれない。
仕方ない。この地下階層をもう少し探索してみるか。
『騙されたんじゃないの? この場所にお前を閉じ込めるために誘導したんじゃないの?』
セラフはそんなことを言っている。なるほど、そういう考え方も出来るか。確かに、この行き止まりの地下へと飛び降りたのは、フールーに先導されるまま、その後を追いかけて、だ。
フールーからすれば俺も被疑者の一人だ。俺を罠にはめてもおかしくない。だが、あの時は、爆発の余波でいつ天井が崩れてもおかしくない状況だった。のんきに考えている暇はなかったはずだ。そこまで考えて行動できたとは思えない。
……。
セラフが右目に周辺の地図と光点を表示してくれれば、フールーの現状はすぐに分かる。だが、コイツはそれをやらないだろう。先ほどもそれを分かった上で、俺を惑わすためにあえて言葉にしたのだろう。コイツはそういうヤツだ。
つまり、俺はもう少しフールーを信じても良いということだ。
『はぁ? どうしてそうなるの!』
『俺はお前の言葉を信用出来ないと思うくらいには信用しているってことだ』
『はぁ!』
俺はセラフの頭に響く声を無視して動く。
まずは……。
竹が生えていたところまで戻る。
爆発竹とかいう名称の竹だ。この時代ではこの爆発する竹が一般的なようだが、俺はそれがどういうものか正確には分かっていない。
どのように爆発するのか、竹として活用出来るのかどうか。知っておいた方が良いだろう。
ヨシ。少し、調べてみるか。
手に持ったサブマシンガンを構え、竹の下の方を、節部分を狙い撃つ。次の瞬間、竹が破裂した。銃弾を撃ち込んだ部分が破片となって飛び散る。そして、誘爆するように下から上へと次々に破裂していく。
慌てて距離を取り、腕をかざして竹の破片から身を守る。
……。
爆風が皮膚をチリチリと焦し、竹の破片が身を守っている腕に刺さった。だが、それだけだ。その程度の威力しかない。
思っていたほどの威力ではないようだ。
至近距離で飛び散った竹の破片を浴びれば小さくない傷を負ってしまうだろう。しかし、それでも生死に関わるほどの威力ではない。フールーはかなり警戒していたようだが、それほどの危険性はないのかもしれない。だが、それでも何かと戦っている最中に爆発されては厄介だ。油断はしない方が良いだろう。
改めて竹が生えていた場所を見る。下から上まで全て爆発してしまったので竹として活用することは出来ない。飛び散った破片も小さくバラバラになっているようだ。これでは何か素材として使うのは難しいだろう。
体に刺さった破片を引き抜き、確認してみる。裏側が黒く焦げている。節の中に火薬でも詰まっているのだろうか。
……今後、地上で竹林を見かけても要注意ということかな。
とりあえず竹を活用するのは無理だということが分かった。
となると、どうする?
探すか。
この階層も至る所が崩れ、砂に埋まり、以前は通れたであろう場所が通行止めになっている。
だが、壁の薄い場所、通路に繋がっている場所があるはずだ。
竹に触れないよう気を付けながら壁を叩き、確認する。
モグラは現れない。撃退したことで、こちらを恐れているのかもしれない。あのモグラたちがクロウズの試験官が言っていたビーストなのだろう。強さ、厄介さを考えてもそうとしか思えない。本来はこの程度のレベルの相手をする試験だったということか。あの観音戦車や猿、砂嵐などのイレギュラーがなければ、そこそこ楽に終えることが出来たかもしれない。
壁を叩く。
コンコン。
軽い音が響く。どうやら壁の向こうに空間が広がっているようだ。ここなら突き破れるかもしれない。
壁から距離を取り、サブマシンガンを構える。
そして引き金を引く。
銃弾が壁を抉り、穴を開けていく。通り抜け出来るほどの穴が空くように銃弾を撃ち込んでいく。ある程度壁を傷つけたところで思いっきり蹴り飛ばす。
壁の一部が崩れ、中の芯が剥き出しになった。その崩れた小さな隙間から向こう側に空間が見える。
わざわざ短機関銃を使ったのに崩れたのは壁の一部、か。
コンクリート壁の補強のために鉄の芯が入っていたようだ。さすがに、この鉄芯を蹴り破るのは難しい。
銃弾でボロボロになったコンクリートの壁を何度も叩き、崩し、落とす。コンクリートはあっさりパラパラと崩れ落ち、格子状になった鉄の棒が残った。
向こう側に空間が広がっている。そして、そこにお目当てのものがあるのが見えた。
だが、鉄の格子が邪魔してそちら側に行くことが出来ない。蹴り続ければ少しは歪み曲がるだろうが、通り抜け出来るようになるとは思えない。
となると……。
やるか?
出来るか?
いや、出来るはずだ。
出来ると信じることが大切だ。出来ないと思ってしまえば、そこで終わりだから。
右手に力を入れる。
この力を……使いこなす。
自分の意思で人狼化は出来るようになった。
ならば、体の一部だけを変異させることも出来るはず。
出来なければおかしい。
俺は右手に力を入れる。
大きく爪を伸ばすことを意識して、右手を鉄の格子に叩きつける。
……。
そして、格子が切断された。
するりと鉄の格子が滑り、向こう側へと落ちる。
右手を見る。元の――変わらない自分の右腕だ。
だが、格子は切断された。
出来たの……か?
いや、出来たんだな。
俺は開いた穴を抜け、隣の部屋に入る。
そこにあったのはエレベーターだ。
この階層に必ずあると思っていた。
この階層は資材置き場のようだから、必ず搬入用のエレベーターがあると思っていた。それがちょうど壁の薄い場所にあったのは幸運だったが、もしかすると、これも試験に考慮されていたのかもしれない。現地の下見をせずに試験で使ったとは思えないからな。
『ふふん。動かないエレベーターでどうするつもりなの?』
『エレベーターは動いていなくても、空間が上に繋がっているだろう?』
エレベーターの内部が砂で埋まっていないことを祈ろう。




