509 ダブルクロス31
トビオはあまりの眩しさに思わず目を閉じる。そして、トビオが目を開けた時には、こちらへと迫っていたアクシードの大部隊――二百人近くは居たであろう兵隊が、十数台はあった装甲車が、数機のヨロイが、その多くが消し飛んでいた。
生き残った部隊の連中が、驚き、戸惑い、その足を止めている。
袈裟の男が操るクルマ。そのクルマに載った棺から現れた巨大な砲――神の雷。その砲身の周囲から四つの四角い物体が迫り上がり、プシューっと何かを排出する大きな音を響かせる。四つの四角い物体はかなりの熱をもっているのか、雨を蒸発させ、白い煙を漂わせていた。
「おいおいおい、なんつー武器だよ。なんてぇ威力だよ! さすが七人の武器屋だ! すげぇ武器を持ってるじゃあないか! 連中が消し飛んだ。連中の殆どが消し飛んだぜ!」
興奮したトビオが一気に喋る。兵隊たちは半分も残っていない。だが、それでも百人近い部隊が生き残っているようだった。
[ふむ。雨で威力が落ちたか。拙者の想定、その半分ほどよ]
袈裟の男の独り言のような、その通信にトビオは思わず苦笑する。
「半分? これで? 充分だぜ。この威力ならオフィスの地下に攻め込んできた、あのアクシードも倒せるんじゃあないか?」
[うーむ。それは難しいかと]
だが、袈裟の男の反応は芳しくない。
「うん? どういうことだ? これだけの威力ならシールドでも防げないだろうし、人が回避するなんてまず無理だろうし、余裕じゃあないか?」
[いや、これで……うむ、この一発でクルマのパンドラがほぼ消し飛んだがゆえ、難しい。今はサブのパンドラに切り替えてクルマを動かしている]
トビオは袈裟の男からの通信に大きく目を見開き、半分ほどが消し飛んだアクシードの大部隊とトールハンマーを見比べる。
「おいおいおい、いやいやいや、それってどういうことだぜ。一発限りだったってことか? 次が無いのか? いやいやいや、それはどうなんだ。それをこんなにあっさり、いきなり使ったのか?」
[うむ。数日は撃てぬであろう]
「マジかよ。それなら、地下の厄介そうなアクシードに撃った方が良かったんじゃあないか? それか、もうちょっと連中を引きつけてから撃った方が……」
[ふむ。トールハンマーはその威力ゆえ、多くのものを巻き込む。混戦で使えば、その味方ごと吹き飛ばす。地下室などの閉じられた空間――限られた場所で使うにも向かん]
袈裟の男からの通信を聞いたトビオの口から、「あ……」と一言だけ言葉が漏れる。
(相手は持ち主だぞ。しかも改造屋だ。自分が使う武器の性能を知り尽くした相手だ。それが考えずに武器を使うワケが無いだろ。俺は馬鹿か。今、使ったのは俺を巻き込まないためか? いや、自分が巻き込まれないためか。自分の武器で自分がダメージを受けることほど間抜けなことは無いからな。そういうことかよ。一度限りか。だが、これで、アクシードの連中に、こっちには恐ろしい武器があると思わせることが出来たはずだ。次が無いとは思わないだろ。時間稼ぎとしては理想の一手じゃあないか)
トビオは頭を振り、気持ちを切り替える。
「すまねぇ。改造屋で持ち主であるあんたが、一番、武器の性能を知っているはずなのに、考えず口に出してしまった。数日は使えなくなるような奥の手を切ってくれてありがとうだぜ。助かった」
[いや、何、拙者もトールハンマーのことを説明しなかったのだ。知らぬものは仕方ない。後は……]
「ああ、残り半分? いや、半分以下だな。それに、連中、俺たちの反撃が予想外だったのか、動けなくなってやがる。これでいくらか時間が稼げるはずさ。後は、オフィスに攻めてきたアクシードを倒したクロウズと合流すれば終わりだろ。街の戦力が集まる場所に、その殆どが集まっていたイベント中に、オフィスに、一人で攻め込むなんて馬鹿なヤツらだぜ」
トビオがそう口にした時だった。トビオたちの背後で――オフィスの方から大きな爆発音が響く。
「なんだ? なんつー、大きな音だ。クロウズたちが何かやったのか?」
オフィスの地下へと続く通路から炎が、爆炎が吹き出す。それは、トビオたちがあのまま地下にいたら蒸し焼きになっていたかもしれないほどの勢いだった。
「おいおい、本当になんだ? 何があったんだ?」
トビオが炎の吹き出す地下への通路を見る。
その吹き出した爆炎を切り裂くように、中から一台の単車が飛び出す。単車に乗っているのは、義手の少年――ガムだった。
少年が単車を滑らせ、トビオたちの前で停車させる。
「ガムか。なんで、お前が。先に帰ったはずのお前がなんで地下に? つーか、何があった。地下は? あのアクシードは? クロウズたちは?」
「……とりあえず全滅だ」
少年はトビオの言葉にため息を吐き、首を横に振って肩を竦める。
「全滅ってどういう……」
「待て。ちっ、しぶとい奴だ」
少年がトビオの言葉を無視してアクシードの部隊へと向き直る。
そのアクシードの部隊の中から、真っ白な髪のタンクトップの筋肉質な男が現れる。
「まったく、やになっちゃう。これもフラグ? ……はぁ、嫌になるぜ」
現れたタンクトップの男の真っ白な角刈り頭が黒く変わっていく。オフィスの地下にいたはずの男が、いつの間にか部隊に混ざっている。その異常事態にトビオは頭が追いつかず混乱していた。
「おらおらおら! 足が止まってるぞ! 俺様に雑魚みたいに蹴散らされてぇのか! 進め! 潰せ! 人は攫え、奪え、邪魔する奴は殺せ!」
現れた角刈り男が叫び、進軍しろと命令する。
「あ、大将、でも、あの、連中、すげぇ武器を……」
だが、アクシードの兵隊たちは動けなかった。自分たちの大将である角刈り男も怖いが、トビオたちの武器も怖い。その恐怖がアクシードの兵隊たちを足止めしている。
「あ? ああ、アレか。ほう、なるほどトールハンマー、か。旧時代の兵器を使えるように出来る奴が居たのは驚きだな。だが、気にするな。次は撃てねぇ。アレは一発しか撃てねぇ代物だ。気にせず突っ込め。おい、それと俺様の武器を持ってこい! 決着をつけねぇと駄目な奴が居るんでな!」
角刈り男の言葉にアクシードの兵隊たちが動き出す。角刈りの男の言葉を盲信しているのか、恐怖によって逆らえないのか、とにかく兵隊たちが動き出す。




