503 ダブルクロス25◆
「ふむ。拙者がウルフ殿よりご紹介に与った七人の武器屋のヒロシ。クルマの銃火器の改造を生業としている。さて、おぬしらは改造についてどれだけ知っておる?」
袈裟の男は運んできたチェーンガンを、ひょいっと持ち上げ、グラスホッパー号の荷台に乗せる。
「改造ってあれだろ?」
「ゴテゴテと色々なものを貼り付けて厳つい格好にすることだろ」
「バッカ、違うぜ。いや、俺はさぁ、やったことあるけど、高いコイルをとって、パンドラの効率が悪くなっただけだったぜ」
「いやいや、少しは強くなったんじゃあないか?」
「あー、でもよぉ、割に合わないんだろ? 先輩から余程、愛着のあるものでもなければ、やるヤツは馬鹿だって聞いたぜ」
「砲の改造なんてコイルが余ってる馬鹿のすることだろ」
「そうだぜ」
「だな」
ステージ下のクロウズたちは好き勝手なことを言っている。袈裟の男は、そんな会話を聞きながらグラスホッパー号にチェーンガンを接続する作業を続けている。武器屋と名乗るだけあって、その作業は洗練されており、テキパキと素早く迷いの無いものだった。
グラスホッパー号にチェーンガンを接続する作業が終わる。
「ふむ。うむうむ。おぬしたちの認識は理解した。ここにオフィスより借りた測定装置がある」
袈裟の男が数字を表示するための大きなパネルがついた謎の機械を取り出し、それもグラスホッパー号に取り付け始めた。
「おいおい、俺のクルマに怪しいものを取り付けないでくれよ?」
「うむ。これはただ測定するだけの機械ゆえ問題無い。取り外すのも一瞬ゆえ、少しだけ容赦願いたい」
袈裟の男はトビオの言葉にそう答え、機器を取り付ける。そして、ステージ下のクロウズたちの方へと向き直った。
「うむ。これが見えるかね。これはその武器の威力を確認するためにオフィスが用意した測定装置。一秒間にバンディットをどれだけ殺すことが出来るかを示す」
装置のパネルには数字の0が表示されていた。それがチェーンガンに接続した瞬間、19.5Bpsという表示に変わる。
「見ましたか。見ましたよね! この数字ですよぉ。この機銃は、一秒間にバンディットを十九人ぶち殺し、一人を半殺しに出来るってことですよぉ。スーパールーキーと呼ぶに相応しい、駆け出しのクロウズさんには充分な性能です。お客様もそう思いますよね? でも、これって、ちょっと上の、クルマでの殺戮になれてきたクロウズさんたちには物足りない。そう思いません? もう少し、後少しくらいはバンディット殺したいなぁ、そう思いませんか? 思いますよね。これは、そんな数字ですよぉ」
店員の女が妙にノリノリな様子で喋っていた。
「一秒間にバンディットを十九人? もっと殺せるだろ」
「いやいや、起動だけで一秒は終わるだろ」
「弾がバンディットに届くまでに終わるな」
「ああ、距離でも変わるな。アテにならないぜ」
クロウズたちは表示されている数字が信じられないのか好き勝手なことを言っている。
「はいはい、はーい。お客様未満の皆さん。言いたいことは分かりますよぉ。だから、こんなものを用意しました!」
店員の女がそう言うが早いか、ステージの上にいくつもの木製のパネルがぴょこんと起き上がる。そのパネルにはいかにもなバンディットの絵が描かれていた。
「はい、これです。これですよぉ。では、お客様、アレを、あのバンディットを攻撃してください。ささ、遠慮は要りませんよぉ。パッと撃って、ポッと止めて貰えば、はい、それだけで大丈夫です。ささ、ん? どうしました? さあさあ、チェーンガンはもう使えるようになってますよぉ。ご遠慮なさらず、はい、どうぞ!」
店員の女の言葉にトビオは肩を竦める。
「そうかい。だけどな、使い方が分からないんだが?」
「なんと! それは仕方ないですね。今回は私が使いますよぉ」
店員の女がグラスホッパー号の荷台によじ登り、そのままチェーンガンを握る。
「はい、では撃ちますよぉ」
そして、チェーンガンが唸りを上げる。グラスホッパー号と接続されたチェーンが振動するほどの轟音を上げ、砲身からいくつもの銃弾が連続で発射される。
店員の女がチェーンガンを握っていたのは一瞬だった。それこそ一秒程度だろうか。
放たれた銃弾によってバンディットの描かれたパネルたちが砕け散っている。
店員の女がうんしょという感じで荷台から降り、その砕けたパネルの方ヘと歩いていく。
「では、数えますよぉ。一、二、三、死、はい、ほら、死んでますよぉ。これなら、確実に死んでますよぉ。五、六、七、八、苦、苦しんでると良いですね。十、十一、十二、十三、十四、十五、後少し! 十六、十七、十八! 十九! 後一個は……まぁ、誤差ですね、誤差ですよぉ。さあ、見ていただけましたか。はい、今、バンディットが十九人死にました! 大砲やミサイルポッドなんかと比べれば物足りないですよね。チェーンガンだから、仕方ない? そうです。それがあなたたちの考え方でしょう! では、ヒロシさんお願いします!」
店員の女の言葉を受け、袈裟の男が頷く。
「うむ。それでは改造の説明をしよう。改造には大きく分けて四つの種類がある。パンドラによって生成される弾を強化し、威力を上げるもの。これは当然ながら、パンドラの消費量が増える。次に装甲板などを取り付け、壊れにくくする。これは改造の分、重くなるゆえ、これもパンドラの消費が増えるだろう。最後はパンドラの消費を抑える改造。これはその分、威力が落ちてしまう。最後の一つは……ふむ、これはまたで良い。さて、どれがよろしいか?」
「そりゃあ、威力が上がった方が嬉しいだろ」
袈裟の男に話をふられ、トビオはそう答える。
「うむ。了解した。拙者にお任せあれ」
そうして、チェーンガンの改造作業が始まった。袈裟の男がチェーンガンにノートパソコンのようなものを取り付け、キーを叩く。
「それが改造か? 思っていたのと違うな」
「うむ。おぬし、もっと造り替えるような作業だと思っていた口であろう? そのような改造を行なう場合もあるが、それは時間がかかり、お預かりになるゆえ、今回は分かりやすくすぐに数値として表れる改造を主としたのだ。お預かり改造には、射程を伸ばす、実弾を装填出来るようにする、口径を変えるなどが該当する。それが最後の一つよ」
作業自体はすぐに終わる。三十分もかかっていないだろう。
「それでは、改造が終わったようです。終わったんですよぉ。では、改めて数字を測ります。さあ、スイッチポン!」
測定装置に表示された数字は――24Bpsだった。
「あまり変わらないんだな」
トビオの呟きを聞き、店員の女がキッと睨むような顔を向ける。
「はい。見ましたか? 見ましたよね? たった、これだけの改造でバンディットが五人も多く殺せますよぉ! これだけでこの数値! この改造が出来るのは正規品だから! 正規のルートの! 正規品だから! ですよぉ」
「うむ。どのような手が加えられたか分からぬ裏のものでは、このように簡単に改造はできぬ」
「そう! そうなんです! そうなんですよぉ! だからこその正規品! 正規のルートの正規品です。しかも、今なら改造費はオフィス持ち! うちも誰も損しません! 今がお客様になるチャンスですよぉ! クルマの武器を買うならウシボーン! 正規品取扱店、オフィスが認めた、ウシボーン銃火器店! ウシボーン銃火器店ですよぉ!」
「う、うむ。拙者もしばらく厄介になるゆえ、改造なら任せてくれ。今回のような改造以外も、相談の上、承ろう」
「そうですよぉ! 正規の武器を、もっとやんちゃに! もっと一発でバンディットが消し飛ぶような改造を、なんてご要望も承るそうですよぉ!」
店員の女が騒がしくそんなことを言っている。
「う、うむ。限界はあるが、出来る限りのことをしよう」
その勢いに押され、袈裟の男の顔は若干引き攣っていた。
「さて、今回のイベントはどうだっただろうか? マップヘッドに攻め込むまでまだ日数がある。是非、今回の情報を活用して、少しでも戦力を上げて欲しい。その作戦の決行だが……」
真っ赤な義手の男が話をまとめようとしていた時だった。
突如、大きな爆発音と共に地下室の壁が吹き飛んだ。
真っ赤な義手の男が一番に反応し、そしてクロウズたちが身構える。
壊れた壁から現れたのは一人の男だった。真っ白になった角刈り頭にタンクトップの筋肉質な男。そんな男が手に巨大な分銅を持ち、ニタリと笑う。
「来ちゃった」
そして、そう呟いた。




