502 ダブルクロス24
「英雄って言われているが、あの男は何をやったんだ?」
トビオがグラスホッパー号の運転席に座ったまま近くのクロウズに話しかける。
「あの人のことを知らねぇって、お前、余所者だな?」
「そうさ。だから教えてくれよ」
トビオの言葉にクロウズの男が頷きを返す。どうやら親切に教えてくれるようだ。
「あの人は英雄さ」
トビオは、『それはもう聞いた、俺も言っただろうが』と思わず言いたくなるが、それをぐっと我慢する。
「えーっと、それで、その英雄は、どんな偉業を成したんだ?」
トビオの言葉に反応して周囲のクロウズたちが真っ赤な義手の男について、わいわいと好き勝手なことを言い始める。
「あの人がやった中で一番大きかったのはアレだな。もう数年前……それこそ十年近いんじゃねえか?」
「おいおい、まだ十年は経ってねぇだろ」
「そうか、それくらい昔に感じたんだがな」
「知ってるか? あの人のトレードマークになってる真っ赤なクルマと篭手はなぁ、譲り受けたものなんだぜ」
「そんなの常識だろ。それより、偉業だぜ、偉業。すげぇことをやったんだよ、あの人は」
「この街とサンライスを結ぶ橋を占拠した悪党を退治したんだよな」
「そうそう、その時に大きな犠牲があったらしいな」
「アレは酷い戦いだった。つい最近のことのように思っていたが、もうそんなになるのか」
「その戦いでよぉ、あの人の師匠にあたる人を亡くしたって聞いたぜ。あの人のあの真っ赤な篭手と真っ赤なクルマは、その師匠から受け継がれたものらしいぜ」
「おいおい、この話は知らねぇみたいだな。あの人が受け継ぐ前にあった騒動をよぉ。当時、この街を支配していた悪徳権力者が、あの人が篭手とクルマを受け継ぐ前によぉ、そのクルマと篭手をかっ攫ったのよ」
「おー、その話、俺も知ってるぜ。あの人はその悪党を断罪したんだろ? そのついでにこの街がよぉ、自由になるように解放したって聞いたぜ」
「例のマシーンの襲撃から街を守り抜いたのもあの人のおかげだろ?」
「アクシードの連中がこの街に近寄らないのも、あの人を恐れてらしいからな」
「ここは今、一番、安全な街だぜ」
「知ってるか? あの人、街を守った時の報酬を断ったらしいぜ。なんでも街の復興にあててくれって言ったらしいじゃねえか。俺には真似が出来ねぇよ」
「だな。俺らなら貰えるものは貰うだろ。すげぇ人は器が違うな」
「英雄だからなぁ。この街であの人の世話になってないクロウズは居ねぇぜ」
クロウズたちの話を聞きながらトビオは考える。
(ずいぶんと胡散臭い話だ。街を守った? クロウズなんて自分のことしか考えて無いヤツらばかりだ。それで良いし、それが正しいだろ。報酬を断る? 自己満足の中でも最低な分類だぜ。無自覚な馬鹿なのか、それとも裏があるのか。どちらにしても最悪だな。にしても、悪徳権力者って何だよ。分かりやすく悪いヤツらだったって言いたいのか?)
そして、トビオは大きくため息を吐く。
「そろそろ行くか」
トビオはそう呟き、グラスホッパー号をステージへと走らせる。
「来ました。来ましたよぉ。やっとお客様が来ましたよぉ。さあ、ここからが本番です!」
ステージで何かぐちゃぐちゃと叫んでいた店員の女がグラスホッパー号に気付き、こちらへと駆け寄ってくる。
「お客様! 遅かったですよぉ。来ないかと思いました」
「そうか? 約束の時間通りだと思うんだがなぁ」
「とにかく! ステージへどうぞ。ヒロシさんもすでにスタンバってますよぉ!」
店員の女に誘導されるまま、トビオはグラスホッパー号をステージの上へと走らせる。
クロウズたちの視線が一斉にグラスホッパー号へと集まる
「おいおい、すげぇ目立つけど、どうするんだ?」
トビオが店員の女に話しかける。だが、店員の女は聞こえていないのか、無視しているのかニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべているだけだった。
「さて、このクルマには銃火器が搭載されてないようだけど、どういうことかな?」
真っ赤な義手の男がこちらに話しかけてくる。
「はいはいはーい。そうです。そうですよぉ。このクルマには何も武器が搭載されていません」
店員の女がそんなことを言っている。
「いや、搭載されてるだろ。横の翼が見えないのか?」
「そうなんですよぉ、武器が搭載されていません。というワケで、今回、特別に! うちの店で正規に取り扱っている、正規品の武器を用意したんですよぉ! さあ、どうぞ!」
店員の女がトビオの言葉を無視して喋る。
そして、ステージの奥から七人の武器屋のヒロシがチェーンガンと一緒に現れた。そのままヒロシがチェーンガンを押して運んでくる。
「おい! アレを見ろよ」
「あのハゲが運んでるのって、間違いないぜ」
「まさか、スーパールーキーか。おいおい、そんな駆け出しの武器を持ってきてどうするんだよ」
「あの男は誰だ? 見たことねぇな」
「ただの運び屋だろ」
クロウズたちは好き勝手なことを言っている。
「皆さん、聞いてくれ。彼はヒロシ。七人の武器屋の一人だ。君らも、クルマ持ちのクロウズなら七人の武器屋の噂は聞いたことがあるだろう? その七人の武器屋だ!」
真っ赤な義手の男がヒロシの紹介をしている。
それをトビオは冷めた目で見ていた。
(酷い茶番だぜ)




