050 クロウズ試験17――信用
「フールー、爆発する竹ってなんだ」
「あ? 竹は普通爆発するものなんだぜ」
俺たちは爆発から逃げながら会話を続けていた。
「首輪付き、どうするんだぜ」
「手に持ったナイフが飾りにならないようにするといいんじゃないか」
俺はこちらを試すような言葉を発するフールーに自分で動けと伝える。
「俺のこのナイフが苦手とする相手なんだぜ」
フールーではなく、『ナイフ』が、なのかよ。
「そいつは大変だな。で、フールー、どうす……」
俺は併走しているフールーに声をかけようとして、止まる。
「おい、何を立ち止まってるんだぜ」
フールーが振り返り、こちらを呼ぶ。
だが、俺は動けない。
俺の目の前の床がボコりと割れる。先回りされている。そして、立ち止まってしまったことでフールーとの距離が開いてしまった。
挟み撃ち……には出来ない、か。フールーは、モグラたちを叩く得物が無い。
俺はとっさに手に持ったサブマシンガンで床の穴を撃つ。暗闇に閃光が走り、現れようとしていたモグラを、銃弾が手に持ったタケノコごと貫く――そう貫いた。
至近距離でタケノコが爆発する。
とっさに身を守るように腕を交差する。衝撃が走り、破片が腕に刺さる。直撃だ。
「おい、首輪付き!」
「大丈夫だ!」
俺はフールーを安心させるように叫ぶ。交差していた腕をほどく。腕からは血が流れ落ち、小さな火傷が見える。小さく痙攣し、あまり力の入らない手で刺さっていた破片を引き抜いていく。結局は竹でしかないからか爆発の威力はそれほどでもない。だが、その爆発によって飛んでくる破片の方が厄介だ。近くで爆発させてはいけない。
また床が割れる。今度は待つ。
穴からはタケノコを手に持ったモグラが現れる。ゆっくりとモグラを狙う。片手で引き金を、もう片方の手で反動を押さえるように下から砲身を持つ。銃口から火花が飛び、収束した銃弾がモグラを撃ち抜く。
血を流しふらふらとしているがモグラはまだ生きている。小型で小さな銃弾を使っているサブマシンガンだからか威力が弱い。
引き金を引き続ける。その引き金が軽くなり、カチカチと音が響く。すぐに弾薬を取りだしマガジンを交換する。銃弾によって肉が抉れたモグラに追加をお見舞いする。
原形をとどめないほどの肉塊になったモグラは自分で掘った穴に落ち、その中で爆発が起こった。
……。
足を止め、次の獲物を待つ。
追加は来ないようだ。
獣らしく、こちらに恐れをなして逃げだしたのかもしれない。
俺は大きく息を吐き出す。
「首輪付き、助かったんだぜ」
フールーがその冴えない顔を歪ませ、笑いながら、こちらへと戻って来る。
助かった、か。
この爆発物を持ったモグラはナイフで戦うには向かない相手だ。だが、それでも、このフールーなら何とかしてしまうのではないか、そんな風に思ってしまう。
「それでどうするんだ? 水源を目指すのか?」
「いやいや、首輪付き、腕の傷は大丈夫かよ。それに、その前にもマシーンに撃たれていたと思うんだぜ。ここらで一度休むんだぜ」
俺は首を横に振る。腕の傷? 腕に刺さっていた破片は引き抜いた。その傷もすでに塞がり、凹みを埋めるように肉が盛り上がってきている。再生している。あのおっさんを庇って観音戦車に撃たれた傷もすでに無くなっているようだ。
普通では考えられない回復力だが、それがこの体の特性なのだろう。昔の自分とは違うような特性を持った体。何か改造されているのかもしれない。
『ふふふん、分からないのぉ? その素体が小さな機械の群体で作られているからって説明したのに、まだ分からないなんて馬鹿すぎ』
『お前の言うことは一つも分からない』
セラフの言っていることが分からない訳では無く、理解したくないだけなのかもしれない。認めたくない、か。
「大丈夫だ。進むなら今のうちに先に進もう」
「お、おう。分かったんだぜ」
少しだけ頬を引きつらせたフールーとともに先に進む。サブマシンガンの予備の銃弾も使ってしまった。このはまっているマガジンが最後だ。充分な数を用意していたはずなのに、予想外のことが起きすぎた。フールーのように弾切れの心配が無い得物も持っておくべきかもしれない。まぁ、でも、だ。フールーがやっているように、それだけしか持たないというのは普通あり得ない話だと思うんだけどな。
コンクリートの床を突き破って生えている竹を避けて進む。地下に竹、か。この工場跡の周りは砂漠だというのに、それでも生えてくるのだから竹の繁殖力は恐ろしい。
しばらく進むと行き止まりに突き当たった。壁からはにじみ出るように水滴がしたたり、チロチロと小さな流れを作っていた。結露か? これが竹の栄養になっているようだ。
「壁の水滴が水源、か」
俺は壁の水滴に手を伸ばす。だが、その手をフールーが掴む。
「首輪付き、触らないようにするんだぜ。何が含まれているか分からないんだぜ。知っていると思うが、水を飲んで体が変異するようなこともあるんだぜ」
汚染された水なのか?
『水に因子が含まれていることもあるけど、お前の体なら無効化するでしょ』
『それはどういうことだ?』
『はぁ? なんで教える必要があるの? 馬鹿なの?』
またか。
知識を披露したいのに勿体ぶるのはセラフの癖なのだろうか。本当に子どもみたいなヤツだ。
「しかし、行き止まりか。フールー、どうする?」
フールーは腕を組み考え込む。
何かアテがあったようだが、それが外れてしまったようだ。
さて、俺もどうするべきか。
上階に上がる階段は塞がれてしまっているだろう。飛び降りた穴には手が届きそうにない。戻ることも出来ない。
生えている竹が爆発しないものだったら良かったのだけれど……。
「分かったんだぜ。戻るんだぜ」
結局、戻るのか。
俺たちは暗闇の中、来た道を戻る。
そして飛び降りた穴の前まで戻る。
「首輪付き、お前はそれなりに力はあったと思うんだぜ」
「人並みにはな」
「俺を上に飛ばして欲しいんだぜ」
なるほど。
俺は手を組み合わせ足場を作る。そこにフールーが足をかける。そのままタイミングを合わせ、フールーを持ち上げる。フールーが飛び上がり、天井の穴の縁に掴まる。
「何とかするから、そこで待っていて欲しいんだぜ」
「分かった」
フールーが体を持ち上げ、上階に戻る。
さて、待ちか。
『ふふん、信じるの?』
『さあな。戻らなければ戻らないで何か方法がないか考えるだけだ』
俺一人で飛び降りた場合と同じだと思えば、今の状況は何も言うことは無い。フールーが助けてくれるかもしれない可能性がある分だけプラスだ。
俺は俺で考える。
それだけだ。




