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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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492 ダブルクロス14

 トビオと少年がオフィスの窓口へと向かう。


「いら……お帰りなさいませ」

 窓口の女が、いらっしゃいませと言いかけ、一瞬、固まり、すぐにお帰りなさいませと言い直す。それをトビオは怪訝な顔で見る。

「お帰り? ここには初めて来たんだがなぁ」

 トビオの言葉を聞いた窓口の女がニコリと笑う。

「――いらっしゃいませ。ご依頼ですか? 依頼するにあたって特定のクロウズを指名する場合は指名料が発生します。指名料(・・・)によっては(・・・・・)クロウズたち本人の意志が尊重されるため、ご希望に添えない場合があります。ご了承くださいますようお願いいたします」

 窓口の女はニコニコと笑顔でそんなことを言っている。


「なんだかなぁ。まぁいいさ。今回は依頼に来たワケじゃあないのさ。賞金(コイル)を受け取りに来た。トビオとガムだ。アノンってクロウズが査定を行った件だが、把握しているか?」

「賞金の受け取りですか? 分かりました。少々お待ちください」

 窓口の女が備え付けられたコンピューターのキーボードを軽快にぽんぽんと叩き操作する。

「引換券みたいなものを貰ったりとか、引き換えコードみたいなものが発行されたりとかしているワケじゃあないが、大丈夫か?」

「……はい、確認が出来ました。トビオ様はクロウズではありませんが、問題ありません」

「確認出来たのかよ! いや、まぁ、オフィスを疑っていたワケじゃあないが、どんな技術だ」

 窓口の女が目を細めトビオを見る。だが、それは錯覚だったかのような一瞬で、女はすぐに笑顔へ戻る。


「賞金はコイルで受け取りますか? それともご口座にお入れしますか?」

「コイルで頼むぜ。ちょっと手間かもしれないが、一万コイルにわけて貰って良いか?」

「了解しました。少々お待ちくださいませ」

 窓口の女が再びコンピューターを操作する。


「なぁ、聞きたいんだが、何処かクルマを駐めることが出来て手頃な金額の宿はないか? それとクルマに搭載する銃火器を扱っている良い店を知らないか?」

「……それはご依頼でしょうか? 施設のご案内は十コイルから。クロウズの誰かを街のご案内、護衛のために雇うことも出来ますよ」

 窓口の女はコンピューターを操作しながらニコニコと微笑み、そんなことを言っている。トビオは肩を竦め、窓口に単三乾電池を置く。

「これで頼む。悪いが俺たちにはクロウズの護衛も案内も不要だ。情報だけで頼むぜ」


 トビオが賞金と情報を受け取り、少年と一緒にオフィスを出る。そしてしばらく歩き……、

「なるほど」

 少年が足を止め、呟く。

「ガム、どうした?」

 トビオが聞くと少年は黙って親指で後ろを指す。

「なるほどなぁ」

 トビオが小さく頷く。

「おいおい、何の用だぜ?」

 そして、トビオと少年がゆっくりと振り返る。


 そこには二人組の男が居た。一人はモヒカンに肩パッドをつけたのっぽの男、もう一人はムキムキと鍛え上げられた上半身、それに比べて随分と下半身が貧弱な男――そんな二人組の男たちが、トビオたちの後をつけてきていた。


「お前たちが窓口からコイルを受け取るのを見ていたざますよ」

「見ていたからなんだ? クロウズが俺たちに何の用だ?」

 男たち二人が顔を見合わせ、ニヤニヤと笑う。

「高額なコイルを受け取ってふらふらと街を歩いていたら危ないざますよ。それに話を聞いていたざますが、お前たちはこのハルカナは初めてのようで、私たちが護衛と案内をしてやるざますよ」

「筋肉、筋肉だ。躍動する上腕二頭筋がっ! 唸る大胸筋がお前たちを救えとっ!」

「こいつは……今は無視して欲しいざますよ。そういうワケで私たちを売り込んでいるざますよ」

 男たちの言葉にトビオがため息を吐き、少年が肩を竦める。

「売り込み? そういうワケがどういうワケか分からないが、随分と親切なクロウズのようだな。だが、俺たちの窓口のやり取りを見て、聞いていたなら分かるだろ? 俺たちに護衛も案内も不要だぜ」


 トビオの言葉を聞いたモヒカン男がくるりと回り、その尖ったモヒカンを手で撫でるように整える。上半身だけムキムキの男がアピールするように腕を組む。

「俺たちは!」

「私たちは! ヘル&マッスルブラザーズ。親切でお人好しなクロウズのお兄さんたちざますよ」

運命(エックス)筋肉(エックス)交差(クロス)する! 俺の内に隠された前鋸筋がお前たちを助けろと囁いている!」

 そして、二人組のクロウズはそんなことを言いだした。


 トビオと少年は顔を見合わせ、大きなため息を吐く。

「悪いが間に合ってるぜ」

 そして、そのままクロウズの二人組を無視してグラスホッパー号の方へと歩いて行く。


「ちょ、ちょっと待つざます」

「待つのだ、ヘル。これが運命(エックス)なら、それは必ず交差(クロス)する。今は時期ではないと俺の腹直筋も言っている」

「マッスル、私には聞こえないざますよ」

「ヘル、耳を澄ますのだ。いつかお前にも聞こえるはず」


 少年がグラスホッパー号を発進させる。

「それで?」

「まずは宿だぜ、場所なら高いコイルを払って聞いたからな。案内は任せろ」

「ああ、頼む」


 そしてオフィスの前にはモヒカン頭と上半身だけ筋肉(ムキムキ)男が残された。

タイトルってそういう……? ちがいます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クロスって、そういう……!? [一言] よかった違うのか。 マッスル言語はマッスルを持たぬ者には理解不能なのだった。 オフィスのこの反応からするとガム君は捕捉されてるのかなあ? アクシー…
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