484 ダブルクロス06
トビオは少年の作業を眺めている。
「随分と手慣れているんだな」
「そうだな」
「爺は上手く逃げられたと思うか?」
「さあな。生きてて欲しいが、分からないな」
少年の態度は随分と素っ気ない。だが、トビオを鬱陶しいと思っている訳では無く、それが少年の素のようだった。
「終わったぞ」
少年の作業はすぐに終わる。
「お? もう終わったのか。早いな」
「知っていたからな。それで、これからどうするつもりだ?」
作業を終えた少年がクルマの運転席に座る。それを見たトビオが、やれやれという感じでため息を吐き、仕方なく空いている助手席に座る。
「そうだな、予定変更だぜ」
トビオが運転席の少年を見てそう告げる。
「ほう。マップヘッドに直接向かうことにしたのか?」
少年の言葉にトビオは慌てて首を横に振る。
「違う、違う。このクルマ、クルマだ。武器らしい物が何も無いだろ? まずはそれを手に入れようぜ」
トビオの言葉を聞いた少年が腕を組む。
「あるぞ」
「うん? ガム、何があるってんだ?」
「武装だ」
少年はそう言って運転席から手を伸ばし、クルマの側面を叩く。それを見たトビオがすぐにクルマの側面を見て確認し、苦笑交じりの引きつった顔で少年を見る。
「マジか。まさか、この翼みたいなのが武装だって言うのか。そういうデザインってワケじゃあなく? マジか。ちょっと運転の邪魔になりそうだなって思ったのに、これが武装なのか。ってマジかよ。いやいや、マジかよ。本気で言っているのか? マジなのか?」
「邪魔か? 一応、この翼は折りたためるぞ」
少年が操作すると横に広がっていた翼が短く折りたたみ収納される。
「マジかよ。マジか。マジだ。折りたためるな。って、武器、あったのかよ。って、いやいや、体当たりだけなんて不味いだろ」
「そうか?」
トビオの言葉に少年が首を傾げる。この少年なら体当たりだけでもなんとかしてしまいそうな雰囲気があった。トビオはその雰囲気に流されそうになるが、慌てて首を横に振る。
「……いや、駄目だ。駄目だ、駄目だ。銃火器は必要だぜ。体当たりだけで乗り込むなんて無謀すぎる」
「そうか。それでアテはあるのか?」
「ハルカナの街を知っているか? ここから道なりにずーっと西、そして南に行った場所にある街だ。徒歩なら向かうのもキツい場所にある街だが、クルマがあれば問題無い」
「なるほど」
「んで、だ。ここからが予定変更部分なんだが、ガム、あんたはコイルを持っているか?」
少年は首を横に振る。
「無いな」
「コイルのアテは?」
トビオの言葉に少年は肩を竦める。
「まぁ、だろうな。俺も少し、いや、かなり厳しい。あのクソバンディット連中がコイルを持ってなかったのも最悪だったぜ。というワケで、だ。賞金首を狙う」
「なるほど。その賞金首のアテは?」
「もちろん、あるぜ。俺がクルマを手に入れたら狙うつもりだったヤツだ。そいつの賞金を手に入れて、それでハルカナの街で、こいつの武装を買う」
「賞金首か」
「ああ、そうだぜ。で、賞金だが、本当は俺とお前で山分けなんだろうが、今回は全部、このクルマの武器に充てさせて貰う。構わないよな?」
少年は仕方ないという感じで肩を竦める。
「それで? その賞金首はどんな奴だ?」
「ハルカナの街に向かう道から少し逸れた南西に廃墟があるのは知っているか? そこを根城にしている狂った機械だぜ。まぁ、マシーン連中はどれも狂ってるが、こいつは本当に狂ってる」
「ほう」
「賞金首デスマシーン。近寄ったヤツを無造作に、それこそ虫けらのように殺戮する機械だ。賞金額は十二万コイル。まぁ、普通に言って、クルマを手に入れただけの駆け出しが勝てるようなヤツじゃあないな」
「賞金額十二万か。随分と多いな。それだけ厄介なのか?」
「多い? こいつが特別多いワケでも無いぜ。賞金首になるようなのは、どいつもこんなもんだ。ガム、あんたは最近の事情を知らなかったのかもしれないが、アクシードがのさばるようになった最近はどいつも賞金額が増えて……こんなもんなんだぜ? それだけ人々は追い詰められているってことさ」
「なるほどな。それで、勝てるのか?」
「勝てない戦いをすると思うか?」
「そうだな」
トビオの言葉に少年が肩を竦める。
「それで?」
「一応、言って置くがガム、お前の力をアテにしての提案ってワケじゃあないからな。そりゃあ、まったくアテにしてないワケじゃあないが、全部じゃねえ。もともと一人でもやろうと思っていた賞金首だ。そこだけは言っておく」
「ああ、分かってるさ。それでどうすれば良い?」
「とりあえず俺の拠点に向かってくれ。デスマシーンを倒す準備が必要だ」
「分かった」
少年がトビオの案内でクルマを動かす。修理が終わり、演算制御装置が搭載されたクルマは問題無く動き出す。
「そうだ。ガム、このクルマの名前だが……」
「それならもう決まっている」
「ん? 登録名があるのか」
「そうだな」
「登録名があるならそれを変えちゃあ駄目だな。俺はこのクルマをおばさんから借りているようなもんだしな」
「おばさん?」
「ああ、そうさ。俺が随分と世話になった人だ。クルマの動かし方から戦い方まで叩き込んでくれた人さ」
「そうか」
「それで、ガム、このクルマの登録名はなんて言うんだ?」
少年がニヤリと笑う。
「グラスホッパー号さ」
砂漠を駆けるバッタが甦る!




