482 ダブルクロス04
少年がナイフを振るい襲いかかってくる巨大な蚊の一匹を斬り裂く。
「次」
少年を狙い、巨大な蚊の一匹が細く伸びたマズルから炎を吐き出す。少年が回転しながら飛び上がる。炎の中へと突っ込み、そのまま巨大な蚊を真っ二つにする。
「次」
少年が巨大な蚊の群れを相手に錆びたナイフで戦っている。
(なんだ、こいつは? ヤバすぎるぜ。あんな錆の浮いたおんぼろナイフでビーストを切り裂き、倒す? どうやったら、そんな芸当が出来るんだ? 銃で撃たれたら死ぬようなレベルの奴を殺すくらいなら俺でも出来る。だが、こんな神業、俺がどれだけ修行しても無理だ。無理だぜ)
トビオはただただ少年の戦闘能力の高さに驚く。
「もう周囲に敵は居ないようだな」
少年が錆びたナイフを振り払い、こびりついていたビーストの体液を落とす。
そんな少年にトビオが話しかける。
「なぁ、ガム。クルマの運転は得意か?」
「そこそこだな」
少年がやれやれという感じに肩を竦める。
(そこそこ?)
その返答にトビオは考える。
(見栄を張っている訳じゃあなさそうだ。そして、これが重要だが、この少年は、運転したことがないとは答えなかった。そこそこ……つまり、クルマの運転をしたことがあるということだ。こいつは……ガムと出会えたのは幸運だったかもしれない。一月近くバンディットどもに捕らえられ、かなりの時間を無駄にしてしまったが、それを補ってあまりあるかもしれないぞ。これでガムの運転の腕がそれなり以上なら、出来るかもしれない)
トビオは手の中にある演算制御装置を見る。ウォーミの街で買った一番安い方の演算制御装置だ。せっかく高い金を払って買ったのに、そのそこそこの演算制御装置は、結局、ガラクタの山から見つけることが出来なかった。トビオはそのことを思い出し、苛立ちに奥歯を強く噛みしめる。だが、それでも、一つだけでも手元に戻ってきたことを感謝しようとトビオは気持ちを切り替える。
「なぁ、ガム」
「なんだ?」
「歩きながら聞いてくれ。マップヘッドという街を知っているか?」
少年が小さくため息を吐き、肩を竦める。
「そこそこには。それで?」
「その様子だと知らないようだな。マップヘッドの街は、今、アクシードの連中に占拠されているんだぜ。この近辺では一番大きなアクシードの拠点だ。俺でも知っているくらいの、な。人狩りで各地から集められた人が、そこに連れて行かれている可能性は高い」
「それで?」
「俺とあんたが協力すれば連れ去られた人々を助けることが出来るんじゃあないか?」
「正義の味方になるつもりか?」
少年の言葉にトビオは首を大きく横に振る。
「俺は俺の身内を助けたいだけだ。だが、まぁ、俺も人の心が無い訳じゃあない。そのついでに人助けをしようって話さ。俺とあんたが協力すればマップヘッド……やれると思うぜ」
トビオの言葉に少年は口笛を吹く。
「大した自信だな」
トビオは首を横に振る。
「それだけ、ガム、あんたを買ってるんだ。俺一人ならクルマがあってもかなり遠回りすることになったはずさ。だが、あんたと俺なら、なんとかなるはずだ」
トビオは両手を広げ少年にアピールする。少年は歩きながら顎に手を置き、考え込む。
二人は森を抜ける。
レイクタウンまでは後少しだ。
途中、橋を占拠していたバンディットたちを少年が何事も無かったかのように蹴散らし、そしてレイクタウンの街が見えてくる。
「それで、ガムどうなんだ?」
「何がだ?」
「マップヘッドの攻略さ」
トビオの言葉に少年が肩を竦める。
「俺は言ったはずだ。手を貸すと。それで充分だろう?」
「ああ、ああ! そうだな! そうだったな! 分かった。そういうことなら協力してくれ! よし、まずはクルマだぜ。この先のレイクタウンで修理中だ。部品が足りなかったが、これで何とかなる」
トビオは少年に演算制御装置を見せる。
(とりあえずクルマが手に入れば! 動けば何とかなる! このトビオ様がなんとかしてやるぜ。クルマがあれば遠出も出来る。もっと良い演算制御装置も、そこそこ安全な旅で買うことが出来るだろうさ。腕試しとコイル稼ぎに遺跡の攻略をしてもいい)
トビオもクルマが手に入ってすぐにマップヘッドを攻めることが出来るとは考えていなかった。クルマが直ったとしても、そのクルマに載せる銃火器が必要になる。それが無ければクルマは、ただの足でしか無い。それでも歩くよりも、走るよりも――シールドを張ってそこそこ安全に、そして速く移動できる。それだけも徒歩とは大違いだ。ただの足だとしても、それは旅の安全を保証して素早く移動が可能な高性能な足だ。
そして――長い旅を終え、トビオたちがレイクタウンに入る。
蛇足が本編。




