479 ダブルクロス01
「扉が曇ってて中が見えねぇぜ」
「中が見えない? きっと凄いお宝だぜ。それだけ長い間、沈んでたってことだ」
「新パーツがあるといいなぁ。中は機械で一杯じゃないか?」
サルベージャーと名乗ったバンディットたちが目をキラキラと輝かせて球体に群がっている。
ガリガリに痩せ細り骨と皮だけになったトビオは瞳をギラギラと輝かせ、静かにそれを見ていた。
トビオは機を見ている。トビオが痩せたことで、鎖の輪から手を抜くことが出来、解放されている。トビオは自由になっていた。だが、その代償として体力を失ってしまった。空腹と疲労困憊でまともに動くことが出来ない。
隙を見て逃げ出すべきか。それとも、せめてもの一撃を叩き込むのか。
(逃げ出すだけの体力が残っていない。それならやることは一つか……)
トビオは球体に夢中になっているバンディットたちを観察しながら考えていた。
「あった、あったよ! ようなものがあったよ!」
「こじ開け、こじ開け、こじ開けるぜ」
バンディットの一人が先端が折れ曲がり鋭く尖った金属の棒を持ってくる。バンディットがその金属の棒を開かない扉に突き刺し無理矢理こじ開けようとする。
だが、開かない。
「かてぇ、かてぇ、かてぇんだよ!」
「厳重、それだけお宝すげぇってことだよな」
「水圧から守るために頑丈なんだろうさ。それで、お前ら、お宝手に入れたら、どうする?」
「そりゃあ、薬をまわして貰おうぜ! もっと上物を頼もうぜ!」
四人のバンディットたちが一つの金属の棒を持ち、無理矢理、扉を開けようとしている。
だが、開かない。
「どけぇい」
一際大柄なバンディットが球体に取り付いていた四人を、その豪腕で薙ぎ払い、球体の前に立つ。
一際大柄なバンディットが両手を広げ、球体を抱え込むように取り付く。そして、そのまま球体を持ち上げた。
三、四メートルはあろうかという球体が持ち上がっている! 恐ろしい怪力だ。
一際大柄なバンディットは持ち上げたことに満足したのか球体を下ろす。
……。
……。
扉は開かない。開く訳が無い。この大柄なバンディットがやったことは、ただ球体を持ち上げただけ。怪力自慢にはなるのかもしれないが、ここでは無意味だ。
「ひゃっはっはっは、開かねぇぜ」
「外から開かない? 中から開けるとでも言うのかよぉ」
「肉が足りないからだろ。肉を食って英気を養う。元気百倍、扉は開く」
「肉はお宝を手に入れてからの……お祝い用だ!」
バンディットたちは球体を前に騒いでいる。それを聞いたトビオは覚悟を決める。
(あの扉が開いたら、中に何が入っていようが、俺は間違いなく殺される。もう時間は残されてない)
先ほど球体を持ち上げた大柄なバンディットが先端が折れ曲がり鋭く尖った金属の棒を握る。それを扉の隙間へと叩き付け、斜めに力を入れる。
「うごごごごっごぉ、雨後のたけのこぉぉぉぉ!」
大柄なバンディットの力によって、扉が折れ曲がっていく。
扉が開いていく!
「ふんごぉぉぉぉ!」
ラストスパートとばかりに一際大柄なバンディットが力を入れる。
そして、ついに扉が開いた。
「お宝、お宝!」
「へ? なんじゃ、これや?」
バンディットたちが球体を取り囲み、騒いでいた。その声が一瞬で消える。トビオからは何が起きているのか見えない。
(何だ? 何があったんだ? あの球体の中にあったのはなんなんだ? サイズ的にクルマじゃあないだろ? なんだ、何が入っていたんだ?)
トビオの疑問。その答えはすぐに出ることになる。
「おぱ、おぱ、おぱ」
一際大柄なバンディットが魚にでもなったかのように口をパクパクとさせている。そして、その背中からは手が生えていた。
一際大柄なバンディットの背中から血が噴き出す。そして、どうっと大きな音を立ててバンディットは崩れ落ちた。
崩れ落ちたバンディットの向こう――そこに少年が立っていた。
隻腕の少年。何故か、少年は何も身につけていない。趣味なのか性癖なのか、少年は全裸だ。
(カプセルの中に居たのは子ども? 何故、子どもがカプセルの中に?)
トビオがそんなことを考えていた時だった。
少年の姿が消える。
次の瞬間にはバンディットの一人が血を噴いて倒れていた。
次々とバンディットたちが倒れていく。
(何が起きている? 早すぎて見えねぇ。気付いたらバンディットが倒れ……)
と、トビオは、そこまで考えたところで思考を放棄する。
トビオの目の前に広がる風景。
それは横たわるバンディットたちの死骸だった。
(バンディットたちが死んだ? はっ、差し違えてでもトビオ様という存在を思い知らせてやろうと思ったのに、どういうことだぜ)
トビオはそれ以上考えることが出来なかった。
「ここは何処だ?」
先ほどの少年がトビオの前に立っていた。少年がトビオを見ている。
(ここが何処だ、だと? こっちが知りたいくらいだぜ)
トビオは少年を見つめ返し、そんなことを考えていた。
運命が交差する!




