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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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477 トビオ09

「ひひひ、うちの商品を疑うので?」

 サングラスの男が口を歪め笑っている。だが、そのサングラスの奥にある目は笑っていなかった。


「お得な商品を買いたいのはやまやまだが、(コイル)に余裕がなくてね。五千と六万のを頼むぜ」

 トビオは先ほどの言葉に他意は無かったと肩を竦める。


(裏? この店主の商品には裏しかないだろ。どうせ、盗品とかなんだろ。こういう(やから)はレイクタウンにも、ゴロゴロと居やがったからな。買えば元々の持ち主に恨まれること間違い無しだ。俺が持っていることがバレて因縁をつけられるなんてことは殆ど無いだろうが、何が起こるかは分からないからな。可能性はゼロじゃあない。今は余計な面倒事を避けるべきだろ)


「そうかい、そうかい。本当にお得だったんだがね。まぁ、それもにいちゃんの選択だ。分かったよ。この二つだな。六万五千コイルだ」

「そうかい。キリ良く五万にならないか?」

「にいちゃん、馬鹿言っちゃあいけないよ。うちの商品は表の商品と違って最初からお買い得ですぜぇ?」

「あんたもこいつを早く処分したいんじゃないか? そうだろう? それなら買いたいって客に少しくらい安く売っても罰は当たらないと思うぜ?」

 トビオはサングラスの男を見る。サングラスの男もトビオを見ている。


 しばらく無言で見つめ合う。


「はぁ、こちらの負けですぜ。六万だね。二つで六万だ。にいちゃん、これが限界だよ。この安い方はサービスってことですぜ。それでどうだい?」

 サングラスの男の言葉にトビオは大きく息を吐き出す。

「分かった。それで頼む」

 トビオはその値段で買うことにした。男の様子から、粘ればもう少し安くは出来そうだが、トビオにはその時間が惜しい。


 トビオはサングラスの男に単一乾電池六本を渡し、演算制御装置を受け取る。一つは錆び付いてボロボロになった基板、もう一つは裏面に血の跡が残っている基板だ。どう見ても訳ありな商品にトビオは小さく顔を歪める。


「にいちゃん、クルマを手に入れたんだろう? これなんかもどうかね」

 サングラスの男が小さな――緑色をした手の平サイズの巾着袋のようなものを取り出す。

「それは? 表に何か描かれているな。旧時代の文字に見えるが……まさか遺物か?」

 トビオの言葉にサングラスの男が頷く。

「こいつぁ、旧時代の代物さ。旧時代の遺跡でたまに見つかるチャームの一つで、表に描かれている文字で性能が変わるらしい。旧時代の連中はクルマの運転席にこれをつけてたそうですぜ。この文字、形、分かるかい? こいつは特にクルマ向けの性能のチャームだぜ。ひひひ、今なら千コイルでいいよ。ほら、怪しい物じゃあない。にいちゃん、よく見てみな」


 サングラスの男が、手に取って確認してみろ、と緑色の小さな巾着袋をトビオに手渡す。


「これで千コイル? 高過ぎだぜ。千コイルあったら高級な宿にも泊まれるだろうし、豪華な食事が十回は食べれるな。ん? この膨らみ……中には何が入っているんだ?」

 巾着袋を開けようとしたトビオをサングラスの男が慌てて止める。

「おいおい、にいちゃん。そいつぁ、開けると効果がなくなるらしいんだぜ」

 サングラスの男の言葉を聞いたトビオが呆れ顔で肩を竦める。

「旧時代の連中は良く分からないことをするな」

「他にも、こんなのもあるぜ。こいつぁ、ビーストを(かたど)ったチャームで……」

 他にも色々と商品を売りつけようとするサングラスの男に、トビオは慌てて緑色の巾着袋を押し返す。

「演算制御装置だけで充分だぜ」

 トビオは逃げるように店を飛び出す。


(演算制御装置――物は間違い無さそうだな)

 トビオは受け取った演算制御装置を確認する。トビオはシーズカの作業を手伝った時に演算制御装置を見て知っていた。これは、その時に見かけた物と同じに見える。


 トビオは表通りに戻り、帰りの準備をする。


 大きく減った水に食料。そして、弾薬――と、そこでトビオは迷う。


 護衛のクロウズを雇うかどうか、だ。特にクルマを持っているクロウズなら帰りの時間をかなり短縮できるはずだ。行きは、レイクタウンにまともなクロウズが生き残っていなかったため、仕方なかった。だが、このウォーミの街ならクロウズを雇うことが出来るはずだ。


 ……。


 と、そこでトビオは思い出す。


 酒場で出会ったクロウズのことだ。この街ではあの間抜け面が凄腕として活躍している。あんなお人好しで独り善がりの男が幅を利かせている場所でまともなクロウズを雇えるだろうか。


 トビオは頭を振り、護衛を雇う選択肢を消す。


(行きもなんとかなった。帰りは道も分かっている。それだけ、行きよりも楽なはずだ。今はコイルだけじゃあなく、高価なクルマの部品も持っている。あの商人から俺が買ったという情報が漏れてないとも限らない。信用が出来ないものを雇うくらいなら……俺一人で動くべきだな)


 トビオは一人帰路につく。


 砂塵が舞う道を防塵マントに包まって耐え、歩き、砂に埋もれた工場群を駆け抜ける。


 帰り道は、トビオの予想していたとおり、行きよりも楽なものになった。行きよりも大きく時間を短縮し、砂漠を抜ける。


(なんとか、なったな。逃げることも出来ないような凶悪なマシーンやビースト、それこそ賞金がかかっているような奴らに出くわしたら、それだけで終わりだったからな。後、もう少しだ)


 トビオは少しでも近道をするため湖に面した森へと足を踏み入れる。これで帰路の半分が終わった計算だ。


 後少し……。


 トビオが、そう油断していた時だった。


「肉だ!」

「肉が歩いているぜ!」

「栄養補給、カロリーバランス!」

「ひゃー、おやつは三百円までだぜ」

「お前ら、殺すなよ。生きが良いのいいんだ。それだけ長持ちするからな!」


 森の奥から武装したバンディットたちが現れた。

トビオくん。全10話予定。もともとはガロウと同じように1話でやりきる予定なのだった。だから、短め。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お家に帰るまでが遠足です! [一言] おやつはコイルじゃ買えないらしい。 交通安全のお守りって、なんでかカラフルなの多いよね。 片腕を挙げてるチャームとかかな……そういやこの世界ビースト…
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