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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
さまよえるガム

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470 トビオ02

「う、ここは……?」

 トビオは朦朧(もうろう)とする意識の中、少女の姿を見る。

「あなたは違うのね」

「違う? な、何が……?」

 それはいつか何処かで見かけた――見覚えのある少女だった。


 トビオは考える。何処で見たのだろうか。何処で見かけたのだろうか。


 トビオは朦朧(もうろう)とする意識の中から記憶を探ろうとする。


 ずっと昔――トビオがシーズカと会うよりももっと前。


「シーズカの……整備工場、そこに商品を納品しに行った時、確か、その時に……」

 トビオはブツブツと呟いている。まだ意識がはっきりとしていないようだ。


「彼はすぐに傷が再生した。でも、あなたは治らない。これが普通なの?」

 少女は、そう言いながらこてんと首を傾げている。


「……治る? 俺は、どうな……」

 再びトビオに眠気が襲いかかってくる。


「く、駄目だ、どうな……」

 そして、トビオはそのまま意識を失う。


 ……。


――体が熱い。


――痛い。


――自分の体が自分の体じゃないようだ。


 トビオは夢を見、うなされている。


 昔の夢。


 自分が餓鬼だった頃。同じような餓鬼を集めて、クロウズたちにブマットを売って、その儲けで暮らしていた。


 奴らの兄貴分として、まとめ役として――


 色々な声が聞こえる。


「薄汚い餓鬼が近寄るんじゃねえよ」

 俺たちを罵る声。


「新しく開発するにあたって、この辺りの孤児たちはどうしますか?」

 身なりの良い連中のこちらを蔑む目。


「処分した方が早いでしょう」

 虫でも見るかのような覚めた目。


「最近、儲けてるらしいじゃねえか。その売り上げを渡せばお前らを守ってやるぞ。なあに、全てよこせとは言わねえ。八割で、いいぜ」

 こちらをあざ笑う声。


「お、おい、俺を殺すのか。ほ、本気じゃねえよな? な、な、な? ちょっとした冗談じゃあないか」

 命乞いをしながらもこちらを下に見ている態度を隠さない声。


「だからよぉ、忠告したんだぜ。ザマァねえな。へへ、土下座して助けてくださいって言ってみろよ」

 下品に興奮した声。


「痛い、痛いよぉ。兄貴、助けてくれよ、助けてくれよぉ!」

 懇願する声。


 トビオは熱に浮かされ夢を見ていた。


 昔の夢。過ぎ去った夢。


 トビオの体が眠りを求めている。傷を癒すために眠りを求めている。


 ……。


 夢にうなされ、痛みにうなされ――そして、空腹に目が覚める。


 目覚めたトビオは体を起こそうとし、痛みにその動きが止まる。

「痛ぇ、どうなってやがる。ここは?」

 トビオはゆっくりと首を動かし、周囲を見回す。自分の体はベッドの上にあるようだ。薄暗い部屋だ。改めてベッドを見る。誰かがしっかりと清掃をしているのか、それなりに清潔に保たれているようだ。


 トビオはゆっくりと体を動かす。その度に体が軋むように痛む。全身に包帯が巻かれ、体は満足に動かすことも出来ないが、欠損している部位は無さそうだった。


「まだ無理したら危ないよ」

 トビオは声のした方へ振り返る。そこに少女が立っていた。


 十歳か、良くて十二歳程度に見える人形のような少女だ。

「お前が治療してくれたのか?」

 トビオの言葉に少女がゆっくりと頷く。

「ここは?」

「地下」

 少女の言葉を聞いてトビオは部屋が薄暗い理由を理解する。

「そうか。それで……」

 トビオが少女に話しかけようとした時だった。トビオのお腹が、大きく『ぐぅ』と鳴る。そこでトビオは自分が気絶しそうなほど空腹だということに気付く。


「まずは食事。話はそれから」

 そう言うが早いか少女が料理を持ってくる。


 お粥のようなもの。謎の液体がかかった刻んだ野菜。真っ白な飲み物。


 トビオは出された料理を飛びつくように喰らう。体が食事を求めている。


 喰らう。


 ガツガツと喰らう。すする。飲み込む。


 喰らう。


 一通り食べ終え、お腹をさする。

「ふぅ、食った食った。久しぶりにまともなものを食った気がする。美味しかったよ」

「良かった」

 少女がニコリと微笑む。その笑顔を見てトビオは頬を掻く。

「悪ぃ、お礼を言うのが先だったな。助けてくれてありがとうよ」

 少女が小さく頷く。


「それで聞いて良いか? ここは地下なんだろ? 地上はどうなった? 人狩りの連中はどうなった?」

 少女は首を横に振る。

「シーズカは? カスミおばさんは? 整備工場はどうなった? 俺はそこに居たんだろ? 二人を見ていないか?」

 少女は再び首を横に振る。

「そこに居たのはあなただけ」

 少女の言葉を聞いたトビオは強く拳を握りしめ、思いっきり地面を叩きつける。

「い、痛ぇ。って、悪ぃ、怖がらせたか」

 少女は首を横に振る。


 それを見てトビオはホッとしたように小さく息を吐き出す。そして考える。


――人狩りの連中だ。シーズカたちはさらわれただけで生きている可能性はある。なら、やることは一つだ。


 トビオは自分の体を見る。そして状態を確認する。包帯で見えないが、骨は砕け、内臓は動いているのか分からないくらいダメージを受けているようだった。

「我ながら生きているのが不思議なくらいだな」


 ……。


 そこでトビオは自分をじーっと見ている少女に気付く。


「あー、恩人に、自己紹介がまだだったな。知っているかもしれないが俺はトビオだ。トビオ・トビノだ」


 少女が頷き、ゆっくりと自己紹介をする。


「私はイリス。おじいちゃんと二人でここに居るの」

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― 新着の感想 ―
[良い点] いただきます! [一言] そういえば、この世界で血のつながりらしき話が出てきたのってゲン爺さんとイリスの他には鬼灯くらいだったような? しかもこのイリスも本物かどうかは謎っていうか、そもそ…
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