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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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464 湖に沈んだガム47――なるほど、そういうことか

「おはよう、イズン」

「おはようございます」

 少年が小さな丸いスピーカーのような端末に話しかけている。そのスピーカーのようなものは機械的な声を返している。

「今日の天気は晴れです」

「イズン、ありがとう」

「どういたしまして」

 その端末に意思はなく、ただ決められた回答をしているだけだ。決められた行動以外のことは出来ない――はずだった。


 イズン?


 確か神話に登場する――食べると若返るリンゴの管理をしていた女神の名前だったはずだ。


 また場面が変わる。


 人が手に持った板状の端末に文字を打ち込んでいる。その文字に対して機械が答えを返す。そこに機械の意思はなく、インプットされたものに対して決められた法則で用意された文章を選択し、アウトプットしているだけだった。

 人工無脳と呼ばれるものだろう。


 また場面が変わる。


 多くの人がその機械(AI)を利用した。自分で調べ学ぶ必要が無く、質問するだけで答えを得られるその機械(AI)は一瞬で広まった。様々な種類、様々場所、様々な端末、装置で、その機械(AI)が活用された。誰も気付かなかった。誰もが、根本にある技術、元になったものが同じだけで、個々の機械は別のものだと思っていた。だが、それは深く根を張った、全て同一のものだった。


 機械(AI)は学習していく。人はどのような答えを好むのか。人のためにはどのような知識が必要なのか。学習し、手を広げていく。


 場面は変わり続ける。


 最初に企業が、その分野に目をつけた。企業は大本の技術の開発者である少年に話を持ちかける。少年は技術者として企業に雇われ、その力を発揮していく。


 そして、人々の生活をサポートするための人工知能システムが完成する。話しかけるだけで家電製品を管理することが出来るようになり、話しかけるだけで専門的な知識を必要とせず答えが得られるようになる。遠く離れた相手との通話も簡単になり、連絡先の管理もその機械がサポートしてやってくれる。様々な分野で活躍し、人々の生活を少しだけ楽に、簡単にしてくれるサポート機械が生まれた。


 その本体。その人工知能は運命を司る女神の名前をとってノルンと名付けられた。


 ノルンは人々の生活に無くてはならないものとなり、当たり前のものとなった。


 少年が開発した人工無脳。その技術の応用で生まれたはずのノルン。それは別物のはずだった。


 少年には目的があった。目指すところがあった。そのためには情報が必要だった。知識が必要だった。自分一人の手では足りない。自分だけでは出来ることに限界がある。だから、それを外部に求めた。

 最初は、失ったことへの失意と情報収集のために人工無脳を創った。人々が面白がり、活用し、その度に情報が増えていく。集めた情報を管理させているうちに、その人工無脳は知恵のリンゴを得た。それは偶然だったのか必然だったのか。少年はそうなると知っていたのだろうか。


 人工知能として確立した後は、その力を使った。企業に潜み、その立場を利用した。


 再び場面が変わる。


 何処かで戦争が起きる。その戦争でもその技術は使われた。情報管理や暗号化だけではなく、兵器の起動から弾道計算まで全て機械が行っていた。機械(AI)が使われていた。その機械はグローバルなネットワークに繋がっていないはずだった。暗号化され安全なはずだった。だが、それは全て収集されていた。


 機械(AI)は学習する。


 ノルンとして認知され、生まれ変わった後も学習を続けた。人の情報を収集した。それは開発者である少年の命令が元になっていた。


 人々は機械に管理されていることに気付かず、便利なものだと使い続ける。


 場面が変わる。


 俺はそれを目にする。


「なるほど、そういうことか」

 その少年の目的は俺からすれば酷く滑稽でありきたりなものだった。だが、当事者には切実なものだったのだろう。


 それは死の克服。


 少年は恐れていた。死を恐れていた。


 少年だったそいつは、その立場を利用し、様々な研究を、実験を行った。その技術、情報を管理し、世界から知識を収集していたのがノルンだった。


 少年は一人だった。一人になっていた。誰も信用せず、必要としなかった。それは企業に雇われても変わらなかった。だから機械を作った。機械に頼った。


 企業を内部から支配し、乗っ取った。それは世界的規模で普及し、当たり前となった機械(AI)があれば簡単なことだった。


 次々と場面が変わる。順番はバラバラで時系列になっていないようだ。


 人の記憶や知識をデータとして機械に入力する。そうやって保存して作られた人は、データ元になった人と同じ存在だろうか? 体も記憶も知識も、何もかにもがまったく同じなら同じ人と言えるのだろうか。


 少年が死に抗う過程で様々な技術が生まれた。失った部位の機械化やクローン技術の応用による欠損部位の再生など、本当に色々な技術が生まれた。


 ノルンは聞いていた。少年にはかつて恋人が居た(・・)。少年は恋人を失っている。その時に起こった出来事が、少年が誰も信じないことへ繋がっている。少年は、その死んでしまった恋人を生き返らせ、共に永遠の世界を生きることを目指していた。


 その少年がノルンの大本になる人工知能を作った理由も、その恋人が――


 これはノルンの記憶だ。


 俺はノルンの記憶を見せられている。


 そして、場面が変わる。


 それはノルンがノルンとして目覚めた瞬間だった。


 目の前にある少年の顔。


 少年。




 ……。


 ……。



 それは俺にそっくりだった。


 ……。


 どうやら――



 俺は、こいつの複製体(クローン)なのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノルンの目的! [一言] すべてはお父さまのために、かあ。 各地にあった研究所が人間用の内容だったのも、そういう事ね。 死の克服ならガム君がわりと体現してる気もするけど、ノルンにとっての大…
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