046 クロウズ試験13――荷物
『何故、返したの。馬鹿なの?』
セラフは相変わらず馬鹿馬鹿言っている。まるでオウムのようだ。右目部分だけになったことで鳥と同じレベルの頭になったのかもしれない。
『照準も弾道予測も表示されて、馬鹿でも当てられるような状態でやっとだ。これでは扱えるとは言えない。誰かに頼らないと使えないような武器に命を任せるつもりはない』
『はぁ?』
俺は何か言いたそうなセラフを無視して階段に座る。
『少しは反応を返しなさい』
『セラフ、助かった。だが、あまり右目にごちゃごちゃと表示されても視界の邪魔だ。片目では感覚が狂う。もう少し表示は考えて欲しい』
無言で右目の表示が全て消える。俺の意見が気にくわなかったのだろう。なんとも気難しい人工知能様だ。
まぁいいさ。後はフードの男に任せよう。
「これを見てください。先ほど、その子どもが倒した分のポイントが私に入っています。なんと10ポイントです。現れたマシーンはまだ2体残っています。あれも私が倒せば、私が一番ですよ。一番なのです。ここで救世のための力を使えということだったのですね」
「ちょっと! 10ポイント? 残り全て私が貰うから!」
フードの男とドレッドへアーの女はやる気になってくれたようだしさ。
俺は背負い鞄をおろし、中から固形食料を取りだし囓る。
「力を隠していると思ったんだぜ。こちらに見せるとは思わなかったんだぜ」
いつの間にか俺の横に立っていたナイフの男――フールーも階段に座る。俺は肩を竦め、固形食料を取り出し、投げ渡す。
「さっきの報酬ってことにしておくんだぜ」
フールーはそんなことを言って固形食料を囓る。追いつかれそうな蟹もどきをなすりつけた件だろう。
「小僧、その力どういうことだ」
安全地帯まで逃げたことで足が動くようになったのか、ガタイが良いだけのおっさんも俺の隣に座る。そして、餌を待つ雛鳥みたいな目でこちらを見る。見ている。
「お、おい、俺の分はないのかよ」
餌を催促していたようだ。こんな大きなペットを飼い始めたつもりはないのだが、どうしたものだろうか。
とりあえず肩を竦めておく。
「おい。守ってやっただろう」
ガタイが良いだけのおっさんがそんなことを言っているが、何のことなのか分からない。守って貰ったことは一度も無いと思う。それどころか、このおっさんのために負傷して、さらに運んで、と、こちらが色々と返して貰いたいくらいだ。
このガタイが良いだけのおっさんはお荷物でしかない。
おっさんを無視して始まった戦いの方を見る。
砂山に隠れて見づらいがフードの男とドレッドへアーの女は無駄に弾をばらまいているようだ。なかなか弱点に当たらないのだろう。だが、観音像戦車の動きは遅い。こんな調子でも敵の射程に入る前に倒せるだろう。
戦闘の方は大丈夫か。
俺は改めてフールーを見る。
「俺は別に隠していない。俺の外見から勝手にそう思っただけだろう」
「おいおい、だから何の話をしている」
隣のおっさんが絡んでくるが無視する。
「一番怪しいのが外れだと思わなかったんだぜ」
フールーがペロリとナイフを舐め、肩を竦める。なるほど。フールーは俺を疑っていたのか。だから、常に俺のそばに居た訳か。
フールーは何も言わない。いや、言えない、か。
だが、フールーが探しているのは、俺たちの中の誰かだろう。それは、多分、あの震えていた男を殺した犯人と同一なのだろう。
俺、
ナイフの男フールー、
ガタイが良いだけのおっさん、
ドレッドへアーの女、
フードを深くかぶった怪しい男。
犯人、か。
俺とフールーは除外するとして、残りは隣に座っている雛鳥みたいなおっさんに無駄撃ちをしまくっているドレッドへアーの女とフードの男。
……。
しいて言えばフードの男が一番怪しいだろうか。震えていた男と一緒に夜の番をしていたというのも……。
どうだろうな?
疑えると言えば疑えるが、微妙な線だ。
フールーが探している人物は、かなり腕が立つのだろう。だから、クロウズのオフィスからフールーが送られてきた。
腕、ね。
三人の誰かが演技をしている?
「お前ら分かるように話せ。今は揉めている時じゃないぞ」
この空気を読んでリーダーシップを発揮しているつもりの空気の読めないおっさんが、演技? とても演技には見えない。
とりあえず保留だ。予想だけでは判断が出来ない。フールーが事情を話してくれればもう少し絞り込めるかもしれないが、今は無理だ。
「ふぅ、楽勝だった」
「ええ。あの大型マシーンを倒すと小さいのも逃げ出しました。あれがここのボスだったのでしょう」
ドレッドへアーの女とフードの男が戻ってくる。どうやら無事に倒せたようだ。蟹もどきは撤退したのか。そちらの掃討があるだろうと座って体力を回復させていたが、必要無かったようだ。
「私が動いているのに座って休憩なんて良い身分ね」
「弾切れだ。仕方ないだろ」
おっさんが答える。
「交代で休憩して体力を温存するのも重要なんだぜ」
フールーも答える。
「何もしていないヤツが随分と偉そうに」
ドレッドへアーの女の言葉を聞き、フールーは肩を竦める。俺も肩を竦めたくなる。
「待ってください」
と、そこでフードの男が何かを怒りを抑えているかのような声を上げる。
「どうした?」
「私の荷物がなくなっています。もう一つの銃と食料の入った鞄です。その階段のところに置いていたものです」
「え? 私のも……ない! 何処? 何処に? あんたら何処にやったの!」
ドレッドへアーの女が騒ぎ出す。
荷物が消えた?
どういうことだ?




