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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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446 湖に沈んだガム29――そろそろか

 エレベーターが上がっていく。


 上へ、上へとゆっくりと動いていく。


 随分と寒い。冷え込んでいるのは、先ほどの攻撃による影響だけではないはずだ。


 吐く息は白く冷たい。


 空は深く濃い蒼へと沈み、手を伸ばせば星すら掴めそうだ。このまま成層圏を抜け、宇宙まで行くのだろうか。


 エレベーターは動く。上へと登っていく。


 すでに雲は遙か下へと消えている。このエレベーターには充分な広さがあるのだが、その縁にガードレールのようなものは作られていない。ここまで登ってくると少しの風でも下に落ちてしまいそうな錯覚を憶えてしまう。ここから落ちれば確実な死が待っている。それはシールドの有るクルマであろうと間違いないだろう。


「まだ続くのか」

「あらあら、飽きたのかしら」

 俺はセラフの人形の言葉に肩を竦める。そして、エレベーターがガコンとゆっくり停止する。


 おかわりがやって来たようだ。


 空から銀色に輝く大型のロボットが降ってくる。オーラな力でも使っていそうな浪漫溢れる姿の人型ロボットだ。ロボット? いや、これはヨロイか。だが、中に人の気配はない。遠隔操作による無人機なのだろう。そして、ご丁寧にも足元のバーニアを噴かせ少しだけ宙に浮いている。こいつを体当たりで落とすのは難しいだろう。


 全長は八メートルほどだろうか。右手に砲身の長いバズーカ砲を、左手にそのサイズに相応しい大きさのマシンガンを持っている。さすがに剣や盾で戦う訳では無さそうだ。


 新手の敵なのは間違いない。


 俺はドラゴンベインを動かし、敵のヨロイを正面に捉える。問答無用で攻撃をするべきだろう。そして、手加減をする必要も無い。


 用意されていたNM弾を装填し、150ミリ連装カノン砲と130ミリカノン砲(デュエリスト)で攻撃をする。


「全門発射!」


 銀色のヨロイがシールドを纏う。だが、発射されたNM弾がそのシールドを貫き、穴を開ける。貫き抜ける。銀色のヨロイを撃ち砕く。銀色のヨロイの装甲はかなり強化された硬いものなのだろう。だが、贅沢にNM弾を使った150ミリ連装カノン砲と130ミリカノン砲(デュエリスト)の攻撃を防げるものではない。銀色のヨロイが砕け散りながら、後退していく。


 俺は、俺たちは攻撃を続ける。手を止めるつもりは無い。


 俺たちの正面に現れた。それがこの銀色のヨロイの敗因だ。


 次々と起こる轟音、爆発と爆煙。


 そして銀色のヨロイは残骸となった。


 出落ちのような瞬殺。だが、これが一番間違いない。何をやって来るか分からない、油断が出来るような相手ではない。そう、こちらの火力に任せて倒しきってしまうのが一番なのだ。


 ……。


 銀のヨロイは残骸となった。だが、エレベーターは動き出さない。


 !


 音。


 ドラゴンベインの後方から聞こえる噴射口から火を噴く音。ドラゴンベインを旋回させる。


 そこには宙に浮かぶ金色のヨロイがあった。上を取られている。


 金色のヨロイは、先ほどの銀色のヨロイと同じ姿、同じ武装をしている。色だけが違っている。


 相手はこちらの上空だ。


 上空にある金色のヨロイを狙おうとするが角度が悪い。攻撃が出来る武装が無い。今のドラゴンベインは水平方向への攻撃に優れているが、上空には何も出来ない。150ミリ連装カノン砲は真上に近い角度まで動かすことが出来ない。こういう時のために機銃やミサイルポッドなどを用意しておくべきなのだろうが、その位置にあるのは未だ充電中のエレクトロンライフルだけだ。


 金色のヨロイが右手に持っていた大きなバズーカ砲を体の中央、お腹の辺りに構える。バズーカ砲からペダルが伸び、金色のヨロイがそこに足を乗せる。バズーカ砲がこちらを狙っている。


 あのペダルのようなものは撃った反動を抑えるためのものなのだろうか。


 そして、金色のヨロイのバズーカ砲が火を噴く。ドラゴンベインは動けない。動いて回避が出来るような攻撃では無い。回避するために動くよりも防ぐべきだろう。


 ドラゴンベインのシールドを全開にして防ぐ。


 爆発が起こる。


 衝撃。


『不味いぞ』

『これは不味いわね』


 無限軌道を唸らせ、衝撃に耐える。だが、それすら虚しくドラゴンベインの車体は流される。


 ドラゴンベインのシールドが大きく削られ、吹き飛ばされている。


 このままだと落ちる。いくらエレベーターが広くても、ドラゴンベインがこの衝撃を耐えきるには足りない。


 俺は砲塔を旋回させる。あえてシールドを切り、滑る方向とは逆へと砲撃する。その反動によって、エレベーターのギリギリ、縁の部分でドラゴンベインが止まる。


「もう少しで落ちるところだったな」

「言ってる場合?」


 金色のヨロイがバズーカ砲から手を放し、左手に持っていたマシンガンを構えている。


「ふふん、突っ込みなさい!」

 俺はセラフの声を聞き、ドラゴンベインを走らせる。


 金色のヨロイのマシンガンから次々と放たれる銃弾がドラゴンベインの残り少ないシールドを削っていく。

「どうするつもりだ?」

 相手を攻撃するような武器は無い。出来ることと言えば体当たりくらいだろうか。

「シールドの反動で飛び上がれるでしょ」

 セラフの人形の言葉。確かにそれは可能だ。だが、相手の高さまで飛び上がれたとしてどうする? 直線的な動きになる体当たりは簡単に避けられてしまうだろう。砲撃をするにしても射線から逃げられてしまうだけで何も出来なくなってしまう。避けられてしまえば終わりだ。


 相手はバーニアによって空を自由に動いている。


「ふふん。私が何も考えていないと思っているの? 馬鹿なの?」

「そうだな。そうだったな」


 シールドに銃弾を受けながら、突っ込む。


 そして、ドラゴンベインの真下にシールドを発生させ、その反動で飛び上がる。体当たりでは無い、ただ、相手に近づくために飛び上がる。


 金色のヨロイはこちらの攻撃を読んでいたかのようにすぅーっとスライドして射線から逸れる。


 セラフの人形が動く。


 宙にあるドラゴンベインのハッチを開け、そこから飛び出る。


『この人形、結構気に入っていたのだけれど。ふふん、特別サービスね』

 セラフの人形が人を超えた運動能力で金色のヨロイへと飛びかかり、張り付く。


『まさか自爆でもするつもりか』

『馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの? そんな機能がこの人形にある訳が無いでしょ』


 ドラゴンベインがエレベーターに着地する。飛び上がっていた勢いのままドラゴンベインがエレベーターの上を滑る。俺は無限軌道を動かし、その反動を殺すようにくるくると回りながら制止させる。簡単に落ちそうなエレベーターの上では心臓に悪い動きだ。


 セラフの人形が張り付いた金色のヨロイが動きを止める。


 そう、動きを止めた。


 噴射していたバーニアが止まり、そのまま落ちていく。金色のヨロイは風に流され、遙か下へと落ちていく。


『何をしたんだ?』

無人(・・)のヨロイでしょ? ふふん、それなら私が操縦権を奪えばいいじゃない』

『なるほどな』


 再びエレベーターが動き出す。


 (そら)を目指し動く。ゆっくりとした動作でエレベーターは上っていく。


 どれだけ登っただろうか。


 もう地上は見えない。


『そろそろね』

『そろそろか』


 動き続けたエレベーターが止まる。


 そこが頂上だった。


 ついに壁の上まで到着し、そこでエレベーターは止まった。


 壁の……上。


 そこには神殿のような建物があった。


 そして、その建物の前では、顔にピエロのような化粧を施し、右足を立ち膝にして頬杖をつき輪王座の姿で座る少年が俺たちを待っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] にょいりん=ノルン…!? [一言] 捨て身(人形)の攻撃! セラフの機転とガム君の運転技術の勝利! 人形とはまた短い付き合いになっちゃいましたねえ。 しかし今更だけどエレクトロンライフル…
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