442 湖に沈んだガム25――どんな相手も一撃必殺か
壁を壊して現れたドラゴンベインが肉の塊を正面に捉える。150ミリ連装カノン砲が轟音を響かせ、火を吹く。続けて牙のように揃ったデュエリストも砲撃を行う。
機械に絡みつく肉の塊へと砲撃が着弾し爆発とともに粉塵が舞う。
「な、何をするーー!」
金髪碧眼の少年が叫んでいる。どうやら砲撃には巻き込まれなかったようだ。
そして、舞っていた粉塵が落ち着き――無傷の肉の塊が現れた。
『シールドか』
『ふふん。そのようね』
こんな奥まった場所にある肉の塊にシールド発生装置が備え付けられていたことに違和感を覚える。まるで攻め込まれることを想定していたかのようだ。
『せっかくの新兵器は使わないのか?』
ドラゴンベインに新しく搭載されたシャコ貝のような兵器――確か、エレクトロンライフルという名前だっただろうか。
「あらあら! 使って良いの? 本当に良いの? ふふん、お馬鹿さん。使ったら私たちまで消滅するでしょ」
セラフの人形の言葉と同時に、その人形を拘束していた鎖が外れる。どうやらここの独立したシステムとやらの攻略が終わったようだ。
『もう良いのか?』
『ふふん。この拘束具を解除する程度なら、ね。本丸は破壊した方が速そう』
俺はセラフの言葉に肩を竦める。じゃらじゃらと邪魔になっていた鎖をマフラーのように首の後ろへと回す。
「よくも神を! その愚かさを悔いなさい! 僕が操れるのがこの体だけだと思ったら大間違いですよ!」
金髪碧眼の少年が叫ぶ。そして、糸が切れたように倒れ込み、そのまま動かなくなる。
『神、ね』
『ふふん』
セラフは笑っている。
神を名乗る存在はろくでもない奴らばかりらしい。神のごとき力でこの世界を支配しているマザーノルンも、ビッグマウンテンで生け贄を求めていた機械も、ここの肉の塊も――全てろくでもない。根っこが同じなのだから、どいつもこいつもろくでもないのも当然か。
セラフの人形が動く。俺も同じように動き、二人でドラゴンベインへと乗り込む。
「ふふん。準備に取りかかるから、座って待ってなさい」
「はいはい」
俺はドラゴンベインの操縦席に座る。
そして、そんな俺たちを待っていたかのように肉の塊の前にある床が開いた。そこから全身黒塗りの人型ロボットが迫り上がってくる。全長六メートルほどの剣と盾を持った中世の騎士のようなロボットだ。
「ふふふ、ふぁふぁふぁふぁ、このブラックナイトの力の前にひれ伏すが良い! これが神の力だッ!」
現れた人型ロボットは金髪碧眼の少年と同じ声で叫んでいる。どうやら新しいお人形らしい。
『なんで剣と盾なんだ? 銃火器を忘れてきたのか?』
『ふふん。弾薬をケチるためなんでしょ』
俺はセラフの言葉に肩を竦める。肩を竦めすぎて肩が外れそうだ。
「愚かな外の者たちよ! 神の力を思い知るが良い!」
騎士風の人型ロボットが剣を振り上げる。こいつが俺たちをここまで案内した理由はなんだったのだろうか。遺伝情報を手に入れるためだと言っていたような気がするが、神が攻撃されたことで頭に血が上って、それを忘れてしまっているのかもしれない。
「ふふん。準備が出来たわ」
「そうか」
操縦席にあるメインディスプレイの手前にアイコンが浮かび上がる。
エレクトロンライフルを使用しますか?
Y/N
……。
「これ、Nを選んだらどうなる?」
「はいはい。目がやられないように、左目は閉じなさい」
俺はセラフの言葉に従い左目を閉じる。そして右目で見る。
浮かび上がったYに触れる。
次の瞬間、光の波が広がった。そう、光が広がったとした言いようが無い。これは右目だから見えたのだろう。もし、左目で見ていたら失明していたかもしれない。そんな光の波だ。
そして、光が消える。
その後には――何も無くなっていた。
そう、何も無くなっていた。
ドラゴンベインを中心として半径10メートルほどがえぐり取られ、何もかも綺麗に消えていた。
こちらを斬り伏せようとしていた騎士鎧風の人型ロボットも消えている。壁も、天井も、まるで最初から何も無かったかのように綺麗に消えている。半径10メートル圏内の全てが消えている。
これがエレクトロンライフル、か。
発動を終えたエレクトロンライフルからは、そのシャコ貝のような口からいくつもの棒が飛び出し、煙を噴いている。砲塔では無いようだがなんなのだろうか。
床は……そのまま、か。エレクトロンライフルは横と上方向に攻撃が広がる兵器のようだ。地に伏せるか地中に潜るかすれば、運が良ければ助かるかもしれない。
メインディスプレイには、
次の発動まで999min
と表示されている。どうやら連続での使用は出来ないようだ。次は約17時間後、か。どういう仕組みになっているのか、このエレクトロンライフルはパンドラの消費も多く無いようだ。一日一発しか撃てないような代物だが、威力を考えれば充分だろう。
「どんな相手も一撃必殺か」
「ふふん。凄いでしょ。でも、駄目ね。急ごしらえだったからか、後何回か使ったら壊れそう。これは改良の余地、有りね」
セラフは随分と楽しそうだ。新兵器を使用出来て嬉しいのだろう。
俺はドラゴンベインを動かす。
「後は、アレを破壊するだけか」
俺は肉の塊を正面に捉える。先ほどのエレクトロンライフルの発動に巻き込めたら良かったのだが、どうやら射程範囲外だったようだ。だが、問題無い。
シールド発生装置は生きているようだが、それだけだ。
ドラゴンベインが砲撃を開始する。次々と放たれる砲弾。肉の塊のシールドが砲撃を防ぐ。防いでいる。だが、それだけだ。この肉の塊に攻撃手段は無いようだ。
このまま攻撃を続ければ、やがてシールドはエネルギー切れを起こして消えるだろう。
これで終わりだ。




