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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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441/727

441 湖に沈んだガム24――セラフ

 扉の先で俺を待ち構えていたのは肉の塊だった。


 ぶよぶよとした肉の塊が部屋の奥にある機械に絡みついている。


「さあ、奥へどうぞ」

 金髪碧眼の少年が俺たちを奥へと――肉の塊へと誘う。もし、この金髪碧眼の少年が上手く表情を作れていれば、ニヤニヤと笑っていただろう。そう思わせる雰囲気を出していた。


『セラフ、アレがガラクタか』

『ええ、ガラクタでしょ』

 人工知能(エーアイ)のセラフからすれば生物(なまもの)もガラクタ扱いらしい。

『ふふん。言い方が気になるなら失敗作と呼ぶけど?』

 ここで行われていた実験。その失敗作なのだろう。それはマザーノルンにとっての失敗作なのだろうか。それともセラフにとって()失敗作なのだろうか?


『アレが失敗作なガラクタだということは分かった。で、だ。アレは何をするものだ?』

『ふふん。人を生む機械ね』

 俺はセラフの言葉に肩を竦め、部屋の中に入る。この肉の塊が、こいつらにとっての神なのだろう。とてもこいつらの神らしい姿をしている。


 目の前の肉の塊が震える。その振動だけで大気が揺れる。ビリビリと痛みを伴うほどの揺れだ。

 肉の塊が何度も震える。その振動は何か言葉を発しているようにも感じる。それは歓喜、だろうか。


 俺とセラフの人形は肉の塊へと歩く。


 !


 次の瞬間、周囲からいくつもの輪の付いた鎖が飛んで来た。俺はすぐさまその場を飛び退き、回避する。

 ――が、輪の付いた鎖は意思を持っているかのように動き、俺を捉える。鎖が俺の首、腕、足に絡みつく。身動きが出来ないように封じられる。セラフの人形は抵抗すること無く、俺と同じように拘束されていた。


「神は言っている」

 金髪碧眼の少年がコツコツとわざとらしく足音を響かせ、俺たちの前へとやって来る。

「そうか。どんな楽しいことを言っている?」

「この楽園は停滞しています」

 金髪碧眼の少年は俺の言葉を無視して喋る。どうやら、こいつは言いたいことだけを言う性格のようだ。

「あなたの遺伝情報を取り込み、僕たちはさらなる進化をするのです」

 俺は金髪碧眼の少年の言葉に大きなため息を返す。


 僕たち(・・・)、ね。


「それは進化ではなく、変異であり、変態だろう?」

「外の愚かな種の遺伝子を取り込むのは不愉快ですが、これも仕方が無いことでしょう。いくら愚かでも、その中には使える因子が眠っているかもしれません。まぁ、そちらの方は整った容姿をしているようですから、その部分だけでも活用が出来るかもしれません」

 金髪碧眼の少年は俺たちを無視して喋っている。随分と楽しげだ。


 ……。


 セラフの人形は獄炎のスルトにあった人形を使っている。だが、その姿を見ても、こいつはなんの反応も無かった。絶対防衛都市ノアの住人ならその姿を見ていてもおかしくないと思ったのだが、こいつは知らないようだ。神という肉の塊は知っていてもノルンの端末(むすめ)は知らないのかもしれない。


『で、こいつは何を言っているんだ?』

『さあ?』

『そうか。で、あの肉の塊にそんな機能があるのか?』

 セラフが言った生む機械。ただのグロテスクな肉の塊にしか見えない。

『無いと思うけど? ただ素体を取り込んで、それを材料にするだけでしょ』

 取り込んだ肉を培養して人間もどきを造る機械――それがこいつらの神だった(・・・)


 まぁ、良く分からないが、こうやってここの奴らは人口を増やしていたのだろう。良く分からないが。


 俺はもう一度、大きなため息を吐く。


 久しぶりの首輪だ。以前の首輪は――どうしたかな。俺が死んだ時の、何処かで無くしてしまったのかもしれない。もう覚えていない。


『さて、と』

『ふふん。どうするつもり?』

『もう決めている。この茶番にも飽きたからな。とりあえずここを破壊する』

『はいはい、了解』

『その後の道案内は任せた。あるんだろう? マザーノルンへの道が』

『ふふん、任せなさい』


 俺は鎖の巻き付いた腕と足に力を入れる。

「無駄ですよ。それは支配の鎖(ドミナスチェイン)。人の力では抗うことの出来ない神の鎖です」

 確かに動かない。この鎖自体も非常に硬そうだ。

「そうか」


 だから、俺は、まず最初に機械の腕(マシンアーム)九頭竜(ハイドラ)を動かす。俺の左腕が分かれ、鎖の拘束から抜け出す。そして、元の腕の形に戻す。

 俺は自由になった左腕でナイフを握り、拘束された右腕を切り落とす。この鎖は、簡単には切れないのかもしれないが、俺の腕は簡単に切れる。

「な、何をしているのですか」

 腕の次は足だ。足を斬り落とし、自由にする。斬り落とし、鎖を外して自由にした腕と足は体を構成しているナノマシーンを活性化させてくっつける。これで元通りだ。


 問題は――首か。右手と両足は手っ取り早いから斬り落としたが首は命に関わる。


 ……。


 命、か。


 首を切り落としても良いが、あまり死にすぎるのも――死に慣れるのも良くないだろう。

『ふふん。どうするつもり?』

『人の力では抗えないのだろう? それに挑戦してみるのも面白い。で、セラフ。お前はどうするつもりだ?』

 俺はセラフの人形を見る。セラフの人形も飛んできた鎖によって拘束されている。

『ふふん。ここのシステムは何故か独立しているようだけど、少し時間をかければなんとかなるでしょ。最悪、これ、破棄してもいいし』

 セラフが操っているのはただの人形だ。ここで破棄することになったとしても、セラフにとっては痛くも痒くもないのだろう。


 俺は大きく息を吸う。


 さて、やるか。


 首を拘束している鎖にナイフを当てる。どんなに硬い代物だろうと、切断する力が上回れば切れるはずだ。俺は息を吐き出し、一気に引く。右腕を構成しているナノマシーンを活性化させる。人の限界を超え、残像が見えるほどの速度で引く。武器が壊れない限りはこの方法で切れないものは無い――はずだ。


『はいはい』

 セラフは呆れたような声で笑っている。


「無駄です。神の力の前には……なんですとぉ!」


 俺は鎖を斬り落とす。少し時間はかかってしまったが問題無く切断することが出来た。

『ふふん。そんな面倒なことをしなくても、お前の、斬鋼? 拳? ふふ、ふぅん。それで消せば良かったじゃない』

『斬鋼拳だと反動が凄いから、首を拘束されている状況では反動でむち打ちになりかねないだろう?』

『はいはい』


 さて。


 拘束は解除した。俺は自由だ。


『セラフ』

『ふふん』


 俺は腕を組み、肉の塊を見る。


 そして、壁が弾け飛んだ。そこからキュルキュルと無限軌道を唸らせ、ドラゴンベインが現れる。


 さあ、破壊しようか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここからはこっちのターン! [一言] あ、サブタイがまたセラフシリーズに戻った。 やっと全裸回避できるようになったと思ったら今度は首輪付きとは懐かしいw タネも仕掛けもある脱出マジック、…
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