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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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438 湖に沈んだガム21――セラフか

 獄炎のスルトが崩れた防壁に突っ込む。獄炎のスルトの船体が大きく揺れ、そして動かなくなった。獄炎のスルトも限界が来たのだろう。俺は艦橋からそれを見ていた。


『ふふん。さあ、乗り込むから!』

 セラフの楽しそうな笑い声が頭の中に響く。随分と上機嫌だ。終わりが見えているからだろうか。


 マザーノルンという親への反抗。親の束縛からの解放。自由。これからセラフが手にするものだ。


 俺としても世界を支配し、裏から人類を管理、調整しているような存在をそのままにしておくつもりはない。だが、俺は別にそれを人類のために、と崇高な使命感で行う訳ではない。人類はマザーノルンに管理されていた方が良かったとなる可能性だってある。マザーノルンのおかげで、こんなクソみたいな世界でも人類が生き残れていたのかもしれないだろう? だが、その世界を作ったのもマザーノルンだ。


 俺の行動が人類を破滅に導くかもしれない。


 だが、それがどうした。


 俺は、ただ俺が気にくわない。そう思ったから行動している。


 自己満足だ。


 ……。


『それで?』

 後は、絶対防衛都市ノアに乗り込むだけ、か。

『ふふん、待ちなさい』

 俺はセラフの待て(・・)に肩を竦める。


 しばらく艦橋で待っていると先ほどまで戦っていた姉妹の片割れがやって来た。姉の方だろうか。


 その人形が優雅にお辞儀をする。そして顔を上げ、ニヤッと笑う。

「ふふん、案内するわ」

「セラフか」

「ええ。ちょうど手頃な人形があったから。ふふん、便利でしょ」

 何が便利か分からないが、セラフは踊るように人形をくるりと回して楽しそうにしている。


 とりあえず、この人形の後をついていけば良いのだろう。


 セラフが操る人形と獄炎のスルトの船内を進む。どうやら船底を目指しているようだ。


「ふふん、ここね」

 セラフが案内したのは獄炎のスルトの格納庫だった。そこにあったのは……、

「ドラゴンベインか」

 俺のクルマ、ドラゴンベインだ。

「ええ。せっかくだから、ここの施設を使って強化しておいたから。なんと言っても、この……」

 セラフの人形が勢いよく語り出す。それは俺に説明しているというよりは、自慢したいから言いたいことを言っているだけとしか思えない。


 黒い装甲板(ヒュパティアパネル)が貼り付けられたドラゴンベイン。主砲である150ミリ連装カノン砲も二門ある130ミリカノン砲(デュエリスト)も変わっていない。だが、砲塔の後部に、Hi-FREEZERとHi-OKIGUN、二つの副砲が取り外され、砲塔の旋回を邪魔するかのような大きな外部装置(ユニット)が取り付けられていた。どうも、これがセラフの言う強化らしい。


「セラフ、これは?」

「はぁ? 聞いてなかったの? エレクトロンライフルね。電子を――」

 セラフのよく分からない説明が続く。ライフルと名前がついているが、どう見てもライフルには見えない、馬鹿げた大きさの代物だ。大きなシャコ貝を背負わせているようにしか見えない。俺には、何故、こんなクルマでなければ運べなさそうな動きを阻害する大きなものを取り付けたのかよく分からない。よく分からないが、これが発動すると光がぶわーっと広がって、対象が消滅するそうだ。よく分からないが、そういう代物らしい。俺からすると邪魔な大物にしか見えないが、それだけの価値があるのだろう。


 ……あるんだよな?


 砲塔の後部がゴテゴテと盛られたドラゴンベインのハッチを開け、中に入る。パンドラの補充は終わっているようだ。先ほどまで空っぽになっていたパンドラが満タンに戻っている。


「はぁ、説明の途中だったんですけど! ちゃんと聞いてたの?」

 セラフの人形も乗り込んでくる。

「はいはい。で、どうすればいい?」

「ふふん、待ちなさい」

 俺はセラフの人形の言葉に肩を竦め、ドラゴンベインの運転席に座る。セラフの人形が得意気な顔でその座席に肘をのせて寄りかかる。


 獄炎のスルト、その格納庫の壁が動く。開いていく。


「さあ、乗り込むから!」

「OK。行くか」


 ドラゴンベインを発進させる。


 開いた壁が周囲の瓦礫を押しのけタラップのようになっている。その上をドラゴンベインが進む。


 ここからは防壁の中――ここからが絶対防衛都市ノアだ。


 俺は防壁を見る。


 崩した防壁を埋めるように獄炎のスルトが挟まっている。これなら、俺を追いかけていた最前線のクロウズたちが入り込むことも出来ないだろう。獄炎のスルトを乗り越えるか、なんとか排除しなければ中には入れないだろう。


 そして、絶対防衛都市ノア。


 そこにはポツンと無機質な四角い建物があるだけだった。


「あれは?」

(ホーム)ね」


 ホーム。


 窓も入り口も無い、のっぺりとした無機質な四角い箱。防壁に囲まれた中にはそれしか無かった。それなりの大きさはある。窓や配管があれば工場施設だと思ったかもしれない


「防壁が守っていたのは、この建物なのか」

「ふふん。そうね」

 セラフは絶対防衛都市ノアの端末から情報を手に入れたはずだ。ここが何かを知っているだろう。

「得意気にネタばらしはしないのか?」

「見れば分かるでしょ」

 セラフの人形はニヤニヤと笑っている。俺の反応を楽しむつもりらしい。


「はぁ、そうか。で? 入り口が見えないようだが」

「外に出る必要が無いから、出入り口を造ってないんでしょ。ふふん、入り口が無いなら、穴を開けて入ればいいじゃない」

 俺はセラフの言葉に肩を竦め、ドラゴンベインを動かす。


 建物まで近づき、狙いを定める。


 150ミリ連装カノン砲が轟音を響かせ火を吹く。その三連撃によって建物の壁はあっさりと崩れた。特殊な金属で作られている訳でもシールドが張られている訳でも無かったようだ。防壁を抜かれることを考えていなかったとしか思えない耐久性能だ。


 開いた穴から建物の中に入る。


「ふふん、どう、少しは驚いたかしら?」

「まぁまぁ、だ」


 そこは巨大な水槽だった。


 水槽の中に浮かんでいるのは頭部が異様に巨大化した人だった。頭から小さな手足が生えているようにしか見えない人。それが水槽にいくつも浮かんでいる。その頭部にはいくつもの配線が繋がっている。


 水槽に浮かんだ人のようなものは目を閉じ、眠っているようだ。


「これがここの住人か」

「ええ、そうね」


 絶対防衛都市ノア――どうやらここも実験施設だったようだ。

次回、2022年12月27日火曜日の更新が本年最後の更新になります。その次の更新は2023年1月5日木曜日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これが住民! [一言] どこの都市でも実験してるのかなあ? マザーノルンの目的とは一体…… ドラゴンベインが甲虫みたくなってしまった。 今、信頼が試される(恒例) 久しぶりに実体を得て…
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