433 湖に沈んだガム16――勝つと決めたからな。勝つために出来ることを全てやるだけさ
目の前の空間が裂け、そこから真っ白な戦車が現れる。
『敵、だと』
『ふふん。やることは一つでしょ』
ドラゴンベインの正面に現れた真っ白な戦車。セラフが言うようにやることは一つだ。150ミリ連装カノン砲と二門のデュエリストが火を吹く。ドラゴンベインの五撃が真っ白な戦車を撃ち砕く。
『これは獄炎のスルトが転送装置か何かで送り込んでいるのか?』
『ふふん、もっと単純なものみたいね』
『単純?』
『その場で造ってるってこと』
造っている? だが、材料は?
……。
いや、材料ならあるだろう。足元の黒い大地を使っても良いだろうし、空気中を漂っているナノマシーンを使っても良いだろう。
『ふふん、その通りね』
『ああ。だが、いきなり完成品が現れるのはやり過ぎだろう。知らない奴が見たら、転送して送り込まれてきたとしか思えない』
ドラゴンベインの周囲にいくつもの空間の裂け目が生まれる。そして、そこから現れるマシーンたち。戦車タイプ、人型タイプ、様々なマシーンが現れる。
『不味いな』
俺はドラゴンベインの中に戻り、操縦席に座る。
『あらあら、弱音かしら』
獄炎のスルトに一番近い俺が狙われている。キャンプの連中を囮に使いたかったのだが、俺が連中の囮になってしまっている。
Hi-FREEZERを使い、周囲に氷をばらまく。こちらに近寄らせないための牽制くらいにはなるだろう。
氷結した路面を踏み潰し、ドラゴンベインの側面から、巨大な人型のマシーンが迫る。俺は砲塔を旋回させ、攻撃する。150ミリ連装カノン砲による三連撃。迫る人型のマシーンは150ミリ連装カノン砲による一発目をシールドで耐え、二発目を受けきり、三発目で滑るように後退した。
『硬いな』
『最前線でも使える程度の武装だから仕方ないでしょ。攻撃が一応通る、程度に思って戦ったら?』
俺は肩を竦め、ドラゴンベインを動かす。シールドを使って無理矢理、車体を旋回させ、人型のマシーンを正面に捉える。
150ミリ連装カノン砲のマズルブレーキが激しく前後し火を吹く。呼応するようにデュエリストが火を吹く。激しい轟音を伴い、人型のマシーンが大きく転がりながら吹き飛ぶ。
『硬いな』
吹き飛んだ人型のマシーンが立ち上がり、再び、こちらへと迫る。確実にダメージを与えたはずだが、倒すほどでは無かったようだ。
『衝撃、備えなさい』
ドラゴンベインが衝撃に揺れる。ドラゴンベインの側面に現れた戦車タイプのマシーンから砲撃を受けたようだ。
再び衝撃。ドラゴンベインが大きく揺れる。獄炎のスルトが放った無数のミサイルがドラゴンベインのシールドに炸裂しているようだ。
『不味いな』
『言ってる場合?』
さらに衝撃。戦車タイプのマシーンが放った一撃がドラゴンベインのシールドを貫通し、装甲を抉る。
『貫通した、だと』
『マテリアル弾のようね』
獄炎のスルトから飛び立った艦載機が次々とミサイルを落とす。周囲にいくつもの爆発が起こり、爆風がドラゴンベインのシールドを削る。
『不味い!』
『常に不味いでしょ!』
俺は慌ててハンドルを切る。獄炎のスルトの側面にある無数の砲塔がこちらを狙いレーザーを放つ。放たれたレーザーがドラゴンベインを追いかける。ドラゴンベインが逃げる。
進めない。
空からも地上からも、周囲全てから攻撃が飛んでくる。
……後退するしか無い。
このままではドラゴンベインが大破してしまう。
[おいおい、大丈夫かよ。俺たちが助けに行くまで耐えろよ]
[ふん、新入りめ。無謀に突撃するかそうなるのだ]
ドラゴンベインに通信が入ってくる。
見れば二台の戦車がこちらへと向かってきていた。俺が必死に耐えて稼いだ距離を、俺を囮にして、走り抜けている。
こちらへと俺を救助? するために迫る二台の戦車。
不味い。
「近づくな!」
俺は叫ぶ。
[ふん、強がるでないわ。すぐに助けてやるでな]
二台の戦車は止まらない。
獄炎のスルトの射程距離内。そして、こちらに近づくということは、獄炎のスルトのターゲットが俺から外れる可能性を生む。
そして、獄炎のスルトのレーヴァティンが放たれた。
『セラフ、シールドォッ!』
『言われなくても!』
セラフの焦った声。俺も焦っている。周囲の雑魚から攻撃を受け続けている状況だ。前回のように攻撃を受ける方向にだけシールドを厚くしてダメージを軽減するようなことは出来ない。そんなことをすればレーヴァティンの一撃には耐えられても周囲の連中からの攻撃でドラゴンベインがやられてしまうだろう。
不味い、不味すぎる。
獄炎のスルトから放たれたレーヴァティンの一撃はドラゴンベインを飛び越え、二台の戦車へと降り注ぐ。そこを爆心地として光が広がる。周囲の雑魚どもを消し飛ばしながら光が迫る。雑魚どもからの攻撃が止む気配は無い。光に飲まれながらもこちらを攻撃している。
俺はドラゴンベインを走らせる。光から逃げるように走る。だが、それを雑魚どもが邪魔をする。戦車タイプのマシーンがこちらの進路を塞ぐように立ち塞がり、艦載機がミサイルを落として邪魔をする。
……光の方が早い。
もう間に合わない。逃げることは出来ない。
ドラゴンベインが光に包まれる。シールドがガリガリと削られ、車体が浮く。パンドラの残量が恐ろしい勢いで減っていく。
ドラゴンベインが吹き飛ぶ。シールドを張る余裕も無く、黒い大地の上を転がっていく。
パンドラを全て消費したのだろう、ドラゴンベインの中から光が消え、暗闇に包まれる。
……。
パンドラを全て使い切り、ドラゴンベインはなんとか耐えたようだ。
『たった一撃耐えただけだ。攻撃は続くだろうし、雑魚も次々と現れる』
『そうね』
ドラゴンベインは動かない。動けない。
『こちらの邪魔をした二台の戦車は?』
『生存。と言ってもパンドラ残量は危険域みたいだけど』
レーヴァティンを耐えた、か。最前線で戦っているだけはある、ということか。それだけ良い装備をしているのだろう。
『で、どうするのかしら?』
『勝つと決めたからな。勝つために出来ることを全てやるだけさ』
俺はドラゴンベインのハッチを開ける。




