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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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430/727

430 湖に沈んだガム13――勝つつもりさ

「それで、どうだ?」

 俺は暗紅(あんこう)のシャミーに確認する。

[いや、後輩君さ、私には君が何を言っているか分からない]

 未だ暗紅のシャミーは俺が言っていることを理解出来ていないようだ。

「俺が言っているのはそんなに難しいことなのだろうか? それなら昼の間だけでも構わない。獄炎のスルトと一対一で戦わせてくれ」

 獄炎のスルトには艦載機があるだろうから、厳密に言えば一対一では無い。だが、それは無視しても良いだろう。

『あら? 無視は出来ないでしょ』

『どのレベルかにもよる。どのレベルだ? 俺が想定しているのは、暗紅のシャミーがロケットランチャーで撃ち落としたレベルだ』

『ふふん。中には強いのもいるでしょうね』

 多少は厄介か。だが、そこはセラフとドラゴンベインを信じるしかない。


 ……。


[……後輩君、勝率は?]

 暗紅のシャミーは俺を見極めようとしているようだ。

「俺は勝てると思っているから言っている。それで充分だろう?」

[しかしだな……。いや、分かったよ。私くらいは協力するさ。一緒に戦ってやるさ]


 一緒に戦う?


 俺は暗紅のシャミーの言葉に大きくため息を吐く。人の命が馬鹿みたいに軽い世界で、命の危険がある中、俺に協力すると言ってくれるのは、非常にありがたいことなのだろう。だが、分かっていない。暗紅のシャミーは分かっていない。


「気持ちはありがたい。だが、俺一人でいい。いや、俺は一人が良い。逆に一緒に来られると困る」

[それはどういうことさ]

 通信機からは暗紅のシャミーの何処かすねたような声が聞こえる。だが、俺の考えは変わらない。

「善意でも来られたら困る。もちろん、興味本位で見学に来るのも、だ。誰か来ると困るって言っているのさ。戦闘領域に俺が――俺のクルマだけが存在している状況にしたい。その協力をして貰えないか?」


 通信機から暗紅のシャミーの大きなため息が聞こえる。


[ここの奴らはさ、どいつもこいつも自分が一番だと思っていた奴らばかりさ。今も思っているだろうさ。自由に戦い、好き勝手やるような奴らだよ。そんな奴らが従うと思うかい?]

「従って貰うさ。それともここの奴らは、新人に場を譲るような度量も無いのか?」

[はぁ。後輩君はなかなか面白い。良い線行っているさ。だからこそ、見学させろって奴は多いだろうね]

 暗紅のシャミーの言葉に、俺は再び大きなため息を吐く。


「それが困ると言っている。ここの連中は、半日の我慢も出来ないのか?」

[我慢が出来ると思うかい?]

 俺は暗紅のシャミーがここでどの程度の立場なのかを知らない。俺が分かるのは、ここで長いのだろうな、という位だ。

「あんたらは獄炎のスルトに勝つ気が無いのか? なんのためにここで戦っている」

[後輩君は面白い奴だ。その自信、面白いと思うさ。だが、私らには後輩君を、その自信を信じられるものが何も無い。従えないさ]

 一緒に戦うような協力はしたくない。戦いの邪魔をするなという言葉にも従いたくない。俺にどうしろというのだろう。


 ……。


 俺には、こいつらに勝つ気があるとは思えない。停滞に慣れ、自分たちが最強だという自負に酔っているだけだ。今、膠着しているのなら、追加でやってきた新人なんてどう転んでも痛くも痒くもないだろう。その新人が作戦を考えたんだ。失敗しても何も変わらないのだから、損は無いのだから、試してみても良いだろうに、それすら出来ないと言うのか。


 ……。


 いや、暗紅のシャミーの意見だけで決めるのは早計か。


 だが……。


「分かった」

 そうだとしても、だ。


 よく分かった。


 ここに寄ったのが間違いだったとよく分かった。


 俺にはここに居る連中を一人一人説得する気力なんて無い。従わせるために、力を見せるのも馬鹿らしい。それで従うか? 裏切らないか? では、どうする? 信頼を得るために一緒に暮らすか? そんな遠回りをしている余裕はあるだろうか?


 無いな。


 無い。


[分かってくれたなら良かったよ。後輩君なら、ここでもやっていけるだろうさ]

 暗紅のシャミーの言葉に俺は小さくため息を吐く。暗紅のシャミーはこの世界では珍しく面倒見が良く、良い人(・・・)なのだろう。

「そうだな」


 だから、もう言うことは無い。


 その日は連中のキャンプで休む。と言っても俺はドラゴンベインから降りない。ドラゴンベインの中で座席に寄りかかり、腕を組み、目を閉じる。


 静かな夜だ。


最前線では夜の間は砲撃が止むようだ。


『ふふん。それでどうするつもり?』

『俺がやることは一つさ』

『あら、そう。それでお前は本当に勝てるのかしら?』

『勝つつもりさ』

『ふふん。期待しているわ』

『ああ、期待してくれ』


 朝になり、俺は出発する。


 ここの連中に何か言うことは無い。


 自由に戦い、好き勝手をやる?


 良いだろう。


 俺もここの流儀に則ろう。


 従うさ。


 郷に入っては郷に従うと言うだろう?


 だから、俺も好き勝手するのさ。それが筋ってものだろう?


 ドラゴンベインを走らせる。


 黒い大地をドラゴンベインで走る。


『獄炎のスルトの場所は?』

『ふふん。任せなさい』


 まだ距離があるからか、飛んでくる砲撃は無視して良いレベルだ。


 今のうちに距離を詰めよう。


『三時と八時、それに十時の方向に敵対反応。マシーンね。ふふん、どうする?』

『日が昇り始めて、機械も動き始めたか。戦闘は極力、避けて行きたい』

『ふふん、任せなさい』


 俺は運転をセラフに任せる。


 セラフなら上手いことやってくれるだろう。


 ……。


 後はどれだけ近寄れるか、だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 夜明けの出撃だ! [一言] 勝つっていうのは勝つっていう意味なのだった。 ここの連中はみんな母艦には敵わないから、そこそこ強いマシーンと戦って装備をはいでみたいなルーティーンに慣れちゃった…
[一言] 最前線でも結局クロウズ達はこんな調子なのか… それとも最前線の中でも、低レベル連中が集まって酔いしれてるだけの場なのかねぇ
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