表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

429/727

429 湖に沈んだガム12――それが倒すための手段さ

 暗紅(あんこう)のシャミーのバイクを先頭にして、キャンプへと帰還する。


[それで、どうするんだい?]

 暗紅のシャミーから通信が入る。

「どうすると思う?」

 俺の質問に質問で返す百点満点の回答だ。

[まさか、私らに協力しろとか言うんじゃあないだろうね]

 暗紅のシャミーはため息交じりにそんなことを言っている。どうやら彼女は随分と俺を見くびってくれているようだ。だが、それも仕方のないことだろう。俺には、ここでの実績が無い。信用も信頼も無い状態なのだ。

「協力してくれと言ったら協力してくれるのか?」

[まさか!]

 彼女たちは最前線で戦っている、言わばクロウズのエースたちだ。お金(コイル)にも困っていないだろう。戦うことが好きで戦っている奴、さらなる力を求めている奴、正義感と使命感で戦っている奴――理由は様々だろうが、(コイル)や名誉、生きるためという理由ではないはずだ。ここまで行き着いてしまった、そんな奴らばかりだろう。そいつらが来たばかりの俺の言葉で動いてくれるとは思えない。


[それじゃあ、教えておくれよ。キャンプに戻ったよ。さあ、詳しいことを教えてくれるんだろう?]

 詳しいこと、か。


 獄炎のスルトを操っている奴が居ると伝えるのは簡単だ。それはマザーノルンとノルンの端末(むすめ)のことを教えることになるが、今更な話だ。こいつらが知っても何かが変わる訳じゃない。伝えても問題は無いだろう。


 だが、それを、()、教えてしまうのは不味い。


 八つの端末を支配したセラフなら、ここの端末も問題なく支配することが出来るだろう。


 支配――それはセラフにしか出来ない事だ。


 獄炎のスルトを操っている奴が居るから、そいつを倒すために協力してくれ。俺たちが乗り込むために囮になってくれ、と言ったとしよう。こいつらがそれに乗ると思うか? 乗る訳がない。乗り込む役を自分たちにやらせろ、と言われて終わりだろう。俺はここではなんの実績も無い新人だ。ぽっと出の新人が美味しい役にありつける訳がない。


「獄炎のスルトを倒す手段がある、と言ったらどうする?」

 俺の言葉を聞いた暗紅のシャミーが大きなため息を吐く。

[面白い、乗った! とでも言うと思うのか? 獄炎のスルトを見た奴はだいたい二通りに別れるのさ。その力を見て絶望する奴。こいつはまだマシだ。次がお前(・・)のように倒す秘策を見つけたと得意気に騒ぐ奴なのさ]

 通信機からは、暗紅のシャミーの露骨なまでにがっかりした声が聞こえてくる。俺への評価をかなり下げたのだろう。こいつは、今回の見学会で、俺を見定めようとしていたはずだからな。


[言っておくが、囮を使って懐に入ったら勝てるなんて作戦じゃあないだろうね? アレを見て倒す手段があるって言う奴の殆どがそう言うのさ]

 なるほど。確かに近寄り、主砲の射程範囲から外れれば一方的に攻撃が出来そうな気がする。気は(・・)、するな。

「なるほど。それが駄目な理由はどれだけ攻撃しても削りきれないシールドがあるからか?」

[へぇ。すまない、後輩君(・・・)、君を見くびっていた。それに気付くとはやるねぇ。だが、理由はそれだけじゃあないのさ。艦載機だよ。近寄ったところで獄炎のスルトから湧き出るマシーンにやられてしまう。獄炎のスルトから飛び出す艦載機は、そこらの賞金首よりも厄介だよ。しかも、あの中にマシーンの工場でもあるのか、いくら倒しても湧き出てきやがる。そういうことなのさ]

 戦艦なのだから、艦載機くらいあって当然だろう。その可能性は俺も考えていた。だが、いくらでもマシーンが湧き出る? そんなことがあり得るのだろうか? 暗紅のシャミーは、そういうものだ、と何も考えていないようだが、そんなことはあり得ない。物を作るには材料が必要だ。何も無いところから作ることは出来ない。

 いくらでも湧き出るマシーン。その材料はどこから出てきているのだろうか。獄炎のスルトの中に貯蔵されている? いくら戦艦だと言っても、そんな、いくらでも、と言えるほどの材料が貯蔵されているとは思えない。


 何かあるのか?


 それとも何処かで補給しているのか?


 補給されないように足止めして艦載機を倒し続ければ、何時かは尽きるかもしれない。そうすれば――いや、それは現実的ではないだろう。もし、それが出来たとしても、それだけで勝てる相手だとは思えない。


「なるほど。それは厄介だな」

[分かってくれて嬉しいねぇ。私たちが攻撃(アタック)をかけている時に参加するのは自由さ。邪魔してくれなければ……と言いたいが、後輩君も向こうでは名を知られた凄腕のクロウズなんだろ? そこは期待しているさ]

 俺はドラゴンベインの座席の上で首を横に振り、肩を竦める。暗紅のシャミーは分かっていない。


「倒す手段があると言っただろう? 聞いていなかったのか?」

[後輩君。何を思いついたか知らないが、私たちがここでどれだけ長く戦っているか知ってるかい? 悪いが思いつきには付き合えないな]

 俺は暗紅のシャミーに告げる。

「だが、それでも協力して貰う」

[無理さ。私だけじゃあない。後輩君に協力して一緒に戦ってくれる奴は居ないよ]

 暗紅のシャミーは勘違いしている。獄炎のスルトを倒すのに数が必要だと思い込んでいる。


「逆だ。俺が望むのは、あんたたちに動いてくれるなってことだ。俺に一対一で獄炎のスルトと戦わせてくれ」

[な、何を言っている。見なかったのか、分かんなかったのか!]

 暗紅のシャミーは動揺し、震えた声で叫んでいる。俺の言っていることがいまいち理解出来ていないようだ。


 俺とセラフ。ドラゴンベイン。他に何も要らない。ここで燻っている連中が協力してくれることが重要だ。こいつらが、何もしないことが、俺が邪魔をされないことが――それが重要だ。


「それが倒すための手段さ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 助太刀御無用タイマン作戦だ! [一言] これなら信用のない後輩でも協力してもらえる!? なるほどー。 ガム君への評価が上下するのと連動して呼び方が変わるの細かw マシーンがどうやって増え…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ