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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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425/727

425 湖に沈んだガム08――収穫?

 砲撃が飛び交う中、テントの集団たちの所へとドラゴンベインを進ませる。テントの集団の中には、ずんどう鍋に火をかけ、まな板の上で蠢く野菜のようなものを切り、料理? をしている奴も居た。その料理人の近くに最前線からの砲撃が落ちる。広がる爆風から、料理人はその身を挺して料理を守り、調理を続けている。そこまでして料理をする理由はなんだろうか。なんというか異様な光景だ。


 俺がテントへと近づくと、そこから一人の女が現れた。

「待ちな」

 短く切りそろえた赤髪にバンダナを巻き、肩にロケットランチャーを乗せた、いかにも戦士といった風貌の女だ。

「そこのクルマ、見ない顔だな。ここが何処だか分かっているのかい?」

 女戦士が話しかけてくる。


 ここが何処か?


 俺はハッチを開け、そこから顔を覗かせる。

「人と機械の戦い、その最前線だろう?」

 俺の顔を見た女戦士は一瞬だけ驚いた顔をし、すぐに楽しそうな顔でニヤニヤと笑い出した。

「よく分かってるじゃあないか。ここはクルマを手に入れただけでどうにかなるような場所じゃあない。お遊びで来たなら止めとくんだね。運良くここまで来られただけなら無理だよ。命があるうちに帰るんだね。ここはオフィスで星を手に入れて初めてスタートラインに立てるような場所さ」

「そうか。それは親切なご忠告をどうも。それで? ここはあんたの許可が無いと戦ったら駄目な場所なのか?」

 俺の言葉を聞いた女戦士は腹を抱えて笑い出した。

「いやいや、いい、いい。良いぞ。そうだ、クロウズは自由だ。お前の好きにすれば良い。戦うのも死ぬのも自由だ」

 俺は女の言葉に肩を竦める。

「それで?」

「くっくっくっく。面白い奴だ。後輩君、名前は?」

「俺か? 俺はガムだ」

 最前線で戦っている先輩に敬意を表して先に自己紹介をする。

「ガムか。私はシャミー。暗紅(あんこう)のシャミーだ」

 女戦士が名乗る。聞いたことの無い名前だが、ここで戦っているくらいだから実力者で間違いないだろう。


「うん? 私を知らないか。少しショックだ。ここで長く戦いすぎて若い世代には忘れられたか?」

 そう言っている暗紅のシャミーだが、そんな高齢には見えない。いや、むしろ若く見える。外見よりも年だとしても三十手前くらいでは無いのだろうか。もしかすると、長くの意味が他とは違うのかもしれない。


「飯が出来たよー。売るよー。限定だよー。今だけだよー」

 と、そこで料理人の呼び込みの声が聞こえてきた。

「おおっと。出来たか。ガム、ついてこい。後輩がやってきた記念に飯くらいは奢ってやる」

「そうか。お言葉に甘えよう。それで、クルマはここで良いのか?」

 俺の言葉を聞いた暗紅のシャミーが面白いものを見たという感じにニヤリと笑う。

「ここでクルマを降りられるか。面白い」

「食事に誘ったのはあんただろう? クルマから降りずにどうやって食べるんだ?」

「ああ、それもそうだ。ベースの近くで停めな。誰かが守ってくれるだろうさ」


 俺は適当なテントの近くにドラゴンベインを停車させ、そこから飛び降り、暗紅のシャミーの後をついていく。


「さっき、クルマが出ていくのを見たが、あんたは行かなくていいのか?」

 俺は歩きながら暗紅のシャミーに話しかける。

「私はノアマテリアル弾の収穫に興味が無いからね。狙いは別にあるのさ」

「収穫?」

「クロウズをやっているのに知らないのか? ここでも外とやってることは同じなのさ」

 俺はますます意味が分からなくなる。


『セラフ、どういう意味だ?』

『あらあら、困った時だけ私に頼るのかしら』

『それで?』

『はいはい。機械から武装を奪い取ることを収穫って呼んでるみたいね』

『機械から、だと?』

『あらあら、遺跡以外からどうやって武器を手に入れていたと思っていたの? この時代のゴミみたいな人間が工場で生産していたとでも? ふふん。そんな施設があるとでも思っていたのかしら』

 俺はセラフの言葉に肩を竦める。


 なるほど。


 絶対防衛都市ノア産の武装。武器、弾。確かにノア産で間違いない。最前線に出てくる機械だ。良い装備をしているだろう。それを手に入れて使えるようにすれば、かなりの戦力増強になる。


 そんな会話をし、考えている内に料理人のところに到着する。

「買いに来たよ」

「暗紅かー。後ろのは見ない顔だねー」

 暗紅のシャミーと料理人は仲が良さそうに会話をしている。長い付き合いなのだろう。

「久しぶりの後輩さ。どれくらい持つか分からないけどね」

「一月は持てば嬉しいよねー」

「ああ、それくらいは持って欲しいねぇ。とりあえず二つ頼むよ」

「はいよー。二万コイルだよー」

 暗紅のシャミーが料理人に単一乾電池を二本渡し、料理を受け取っている。どうやら、ここでは飯も良い値段がするようだ。ここで飯を頼むよりも、セラフが用意したキャンディーをかじった方が良いかもしれない。


「ガム、飯だ。まずは喰おう」

 暗紅のシャミーから俺の分の料理を受け取る。それは米のようなものに、野菜のようなものが混じったどろりとした黄色い液体をぶっかけた料理だった。


 暗紅のシャミーはその場にどかっと座り込み、自前のスプーンを取り出し、料理を食べ始める。


 暗紅のシャミーから料理は受け取った。


 料理だけ(・・)は受け取った。


「それで、俺は素手で食べれば良いのか?」

「自前のスプー……持ってないか。まぁ、飲み物みたいなものさ。頑張れば飲み込めるさ」

 俺は暗紅のシャミーの言葉に肩を竦める。


 俺は絶対に折れないナイフを引き抜き、それをスプーン代わりにして料理を食べる。


『ふふん。素手で食べれば良いじゃない』

『絶対に折れないナイフの初仕事が、スプーン代わりとは……そんなことになるとは思わなかった』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最前線の洗礼! [一言] まさかのマイ食器持参必須。厳しい世界だ。 カレーは飲み物なのだった。 しかし1万コイルの奢りとは、よっぽど後輩が来ないんだなあ。 全体に色々と隔絶してる感がすごい…
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