424 湖に沈んだガム07――そうだな。行ってみれば分かることだ
サンライスに近づくにつれ最前線から流れてくる砲撃が激しくなる。
『行ったらサンライスはすでに滅んでいた……なんてことは無いよな?』
『ふふん。私を誰だと思っているのかしら』
『はいはい』
俺は肩を竦め、ドラゴンベインを動かす。
『確か合流地点は……ここだったか?』
サンライスの近くの合流地点で、俺は飛んでくる砲撃の中、待つ。
しばらくすると一台のオープンカーがこちらへ向かって走ってきた。運転しているのは例の狐顔の男だ。
『ふふん。アレに持たせているから』
『そうか。それは不安だな』
『あらあら。アレは野心家なだけで無害だから』
『そうか。物語なんかだと糸目の男は九割の確率で敵に回るだろう? だから俺も用心しているのさ』
俺は肩を竦め、狐顔の男のオープンカーを見る。真っ赤なスポーツカータイプのクルマだ。大昔ならそれはそれはお高いお値段で売られていただろう。いや、今もクルマだからお高いことには変わりないのか。
「お待たせしました。ご注文の品を持ってきましたよ」
狐顔の男がオープンカーをドラゴンベインの前で停車させる。俺はドラゴンベインのハッチを開け、そこから飛び降りる。
「竜殺しのガムさん。ご注文のNM弾、十六発ですよ」
「竜殺し? 随分と情報が早いな」
俺の言葉に狐顔の男が何かを企んでいそうな顔で笑う。
「そりゃあもう。竜殺しのガムさんが賞金を受け取った段階で情報が公開されたんですよ。クロウズの方々は二つ名や称号にこだわるでしょう? ガムさんのご機嫌を取ろうと、その情報をいち早く取り入れてみたんですよ」
どうやら、セラフがさっそく広めてくれたようだ。このまま全裸という不名誉な呼ばれ方が忘れ去られて欲しいものだ。
俺は狐顔の男から特殊弾を受け取る。
『十六発、か』
『あらあら、どうしたのかしら?』
『いや、思ったよりも多いと思っただけだ』
『ふふん。そうかしら?』
『この特殊弾は一発一万コイルだったはずだろう? マキナドラグーンの賞金では十六発も買えないはずだ』
『あらあら。自重しないって言っていたのは誰かしら? 私も自重せず、サンライスのオフィスの金庫から一部借りただけだから』
なるほど。セラフはマザーノルンに見つかる危険を冒してでも戦力を増強するつもりだったようだ。それだけ最前線がヤバいということだろう。
……。
それならマキナドラグーンの賞金を使う必要は無かったのでは?
「確かに受け取った」
「ええ。確かにお渡ししました」
狐顔の男はニコニコと微笑んでいる。セラフがどれだけのコイルをこいつに流したのか気になるところだ。
「あー、興味本位の質問だが、サンライスの街は大丈夫なのか?」
今も最前線からの流れ弾が飛んできている。サンライスの街を守っていたシールドは消えてしまったようだが、大丈夫なのだろうか。
『ふふん、大丈夫に決まっているでしょ』
『ああ、そうだな』
セラフが言うなら大丈夫なのだろう。だが、ここは実際に住んでいる住人の意見も聞いておきたいところだ。
「ええ。大丈夫ですよ。ヨロイやクルマを持っている皆さんに交代でシールドを張っていただいてますから。ええ、今は大丈夫ですよ。それに夜は攻撃も止みますからね」
狐顔の男の言葉を待っていたかのようにこちらへと流れ弾が飛んでくる。だが、その一撃が狐顔の男のクルマのシールドによって消し飛ぶ。どうやら、この狐顔の男のクルマはシールドに特化した性能があるようだ。
「ただ、このように! 鬱陶しいことには変わりないんですよね。そこは竜殺しのガムさんに早く解決して貰いたいものですよ」
狐顔の男は困りましたという感じで小さくわざとらしいため息を吐いている。俺は肩を竦める。
「善処するよ」
「ええ。頼みますよ。そうそう、この先へと進まれるのでしたら、まずはヒューマンヴィレッジを目指すと良いですよ」
「ヒューマンヴィレッジ? ああ、分かった」
俺はドラゴンベインへと戻る。
『ヒューマンヴィレッジ? どんな場所のことだ?』
『あらあら。ネタバレを希望なのかしら』
『ネタバレ? 事前に情報を入れておこうと思っているだけだ』
『ふふん。行ってみれば分かるでしょ』
……。
セラフのこの言葉。これは間違いなく、単純に、セラフ自身があまり詳しく知らないだけだろう。サンライスにも情報が入ってきていないということか。
『そうだな。行ってみれば分かることだ』
流れ弾が飛び交う荒れ地をドラゴンベインで進む。いくつか避けきれず被弾するが強化されたドラゴンベインのパンドラ回復量を上回るほどのダメージは受けなかった。これなら問題無く最前線まで進めるだろう。
そして、黒い大地が見えてくる。コンクリートやアスファルトとも違う、黒い謎の金属で造られた大地だ。あれが最前線だろうか。
飛んでくる砲撃が止むことはない。この辺りに飛んできているのは最前線からの流れ弾では無く、弾幕代わりにばらまいている敵の攻撃なのかもしれない。
その黒い大地の手前にいくつものテントが並んでいた。テントの横にはクルマやヨロイが見える。
もしかすると、あれがヒューマンヴィレッジなのだろうか。
こんな無差別に攻撃が飛んでくる場所でテント暮らしをしているのだろうか。正気の人間のやることとは思えない。あそこで暮らしている連中は狂人だろう。
「ノアタンクが出たぞ!」
誰かの大きな声。
「う゛ぁあああ、今度はぶっ壊すんじゃねえぞ」
「そんなこと言ってられるか。死ね」
それに釣られるようにテントから男たちが出てくる。そのままテントの横に駐車されていた戦車タイプのクルマへと乗り込み、何処かへと走って行く。
あれは……最前線へと向かったのだろうか?
いや、それともここがすでに最前線なのだろうか。




