422 湖に沈んだガム05――いざという時の為さ
フォルミの賞金。
その賞金を使って、セラフのセンスで装備を勝手に選ばれてしまった訳だが……。
『あらあら、何か不満でもあるのかしら』
俺は肩を竦める。
『クルマだけでは無く、俺用のものを用意してくれたことに感謝しているだけだ』
用意されていた装備に着替える。まずは体のラインに沿ってぴっちりとした黒のボディスーツ。これはかなりの伸縮性があり、俺が人狼化しても破れることが無い。これで俺が人狼化したとしても全裸呼ばわりされることは無いだろう。そして、その上から羽織るポケットの多くついた防刃ジャケット。ポケットの中には一粒で三千キロカロリーの馬鹿みたいなキャンディーが詰まっている。これは俺がもう二度と餓死しないようにセラフが配慮してくれたのだろう。だが、そういったいざという時の為だとしても三千キロカロリーはやり過ぎな気がする。
武器は絶対に折れないナイフが用意されていた。原理は良く分からないが、絶対に折れないらしい。切れ味であったり、殺傷性能なら以前に使っていたナイフや振動するナイフの方が上だろう。だが、こいつは、その絶対に折れないという耐久性が大きなメリットとなり、それらのナイフよりも使い勝手が良いものになっている。素手では受けきれない攻撃や銃弾を弾く時などにちょうど良い、素手で戦うことが中心の俺にはぴったりの代物だ。それに破壊力を求めるなら、俺には斬鋼拳がある。
そして、これが一番重要だが、俺の左腕――機械の腕九頭竜の修理が終わった。修理の際、少しお高い合金を使ったことで、以前よりも強度が増している。だが、その代償として、束ねた状態でも少しだけゴツくなってしまった。今の俺は左腕だけがマッシブな……とてもアンバランスで間抜けな姿だろう。
次はクルマだ。
グラスホッパー号には翼が生えた。そう、本当に翼だ。グラスホッパー号の車体の左右に収納式の翼がくっついている。といっても、これは空を飛ぶためのものではないらしい。当たり前だ。クルマは空を飛ばない。では、これは何かというと、武器だ。翼を広げた状態で敵に突っ込み、その翼で相手を切断する。そういう武器らしい。
グラムノートの次弾装填待ちをどうするか? グラスホッパー号の小回りが利く機動力を生かし、この翼の刃で相手を牽制する。あわよくば倒す。そうやって時間を稼ぐ。そういうコンセプトらしい。
ドラゴンベインには二門の副砲が追加されていた。メインとなる砲塔から伸びた主砲は150ミリ連装カノン砲で変わらない。だが、その下、シャシー部分から牙のように砲身が伸びている。
この二つの砲門、若干だが上下には動き、その射角を少しくらいは変えることが出来る。だが、左右には動かせない。つまり、この130ミリカノン砲はドラゴンベインの正面の敵にしか攻撃が出来ないという代物だ。左右の敵を狙う時は、砲塔を旋回させて150ミリ連装カノン砲で狙うか、Hi-FREEZERやHi-OKIGUNなどの小物で攻撃するしかないだろう。この二つの砲門は随分と融通の利かない武装だ。だが、正面の敵限定になってしまったとしても、三門による一斉砲撃は恐ろしくも頼もしい破壊力となってくれるはずだ。
『ふふん。この二つの130ミリカノン砲、名付けて決闘者! どう? 最高でしょ』
セラフはそんなことを言っていた。パンドラの容量の関係で150ミリ連装カノン砲の三連射しか出来ないと言っていたのに、二つも副砲を追加して大丈夫なのだろうか。いや、きっと何とかなるから追加したのだろう。さすがに、いくらセラフでも後先を考えず武装を追加なんてしていないはずだ。
この決闘者はゲンじいさんとシーズカの合作によるものだ。シーズカは武器の改造は専門ではないと言っていたはずだが、ゲンじいさんと協力することで上手くやってくれたようだ。
ドラゴンベインは装甲も強化されているようだ。良く分からないが黒く光る謎の金属板がペタペタといくつも貼り付けられている。
次にパニッシャーだが、こいつは残念ながらそのままだ。パニッシャーの武装を強化するほどのお金が無かった。足りなかったのだ。いくら高額の賞金首を倒したと言っても三台ものクルマの武装を強化するのは無理があったようだ。
と、ここまでが今回の強化だが……。
『セラフ、せっかく強化したが、グラスホッパー号とパニッシャーはここに置いていく』
『それはどういうことかしら?』
『最前線にはドラゴンベインだけで向かうということだ』
『あらあら。その理由は?』
『いざという時の為さ』
三台のクルマによる火力は魅力的だ。だが、それにはセラフによる遠隔操作が必須になる。
もし、最前線に遠隔操作が無効化されるような場所があったら?
それが一つ。
そして、もう一つ。もし、俺が最前線で敗れてしまったら?
俺は死なないだろう。だが、クルマが三台とも大破してしまった場合、俺はその死地から抜け出せない可能性が高くなってしまう。どんな状況でもいざという時に備えるのは必要だ。
それが、ここにグラスホッパー号とパニッシャーを残す理由だ。
『ふふん。分かったわ』
『ああ、頼む』




