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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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420/727

420 湖に沈んだガム03――俺はあんたに聞いている。どうするつもりだ?

「え? 護衛なの? 助かる。さすが、大老。話が分かる」

 助手席に座ったシーズカは、素直に喜んでいるようだ。その姿を見る限り、裏は無さそうだ。シーズカが呼んだ訳でも、裏切っている訳でも無いようだ。


「分からないな」

 俺は単車に跨がったエムを見ながら肩を竦める。

「俺たちが護衛につくことが、か?」

 エムの言葉に俺は首を横に振る。


 囲まれている。相手は三台の単車型のクルマだ。

『武装は……』

『サンダーソードと六四式連装ミサイルポッドね。武装は変えていないようだから、その性能は知ってるでしょ』

『ああ。隠れていたのは?』

蜃気楼(ミラージュ)外装(コート)でしょ。レーダーを誤認させ、光を屈折させて周囲に溶け込む性能。これの弱点は……』

 レーダーに写らない。目視も出来ない。なかなか、厄介な外装のようだ。だが、分かりやすい弱点も存在している。

『音だろう?』

『ふふん。その通り』

 音を消すことは出来ない。致命的な弱点だ。気付かれないようにするためには、なるべく大きな音が出ないように気を付け、距離を取ることが必要になる。便利なようで微妙な代物だ。

『この三台で全てか』

 俺は耳を澄ませ、周囲の音を拾う。伏兵は無い。


「え? 話が分からない? 分かるんだけど」

 俺の言葉に変な反応を示しているシーズカを無視してエムを見る。こいつがリーダーで間違いないだろう。だが、リーダーだからといって特殊な武装を積んでいる訳ではなさそうだ。そうなると三台の性能は――実力は同じくらいだろうか。


「いいや、分からないのは、ユメジロウのじいさんだ。俺は、それなりに仲良くやれていたつもりだったが……じいさんが俺と敵対した理由はなんだ?」

「やれやれだなぁ」

 俺の言葉を聞いたエムが苦笑している。


「それで?」

 俺はエムに問う。その俺の横では、状況についていけないのか、シーズカが間抜けな顔で俺とエムの顔を見比べていた。

「大老のお考えを俺が推し量ることは出来ない。言われたことを言われたように、だ」

 エムは俺を見ながら肩を竦める。

「それで? どうするつもりだ?」

 相手はクルマ。だが、手の内は分かっている。

「おいおい、その一発撃ったら逃げるしか無いような機銃でやるつもりか? 凄腕なのは認めるが、俺たちを舐めてないか」

 エムは言葉とは裏腹に顔の傷を歪ませ、場を和ませるような顔で笑っている。だが、その目は笑っていない。


 こいつらはグラスホッパー号に搭載しているグラムノートのことを知っている。だが、牽引しているドラゴンベインとパニッシャーが遠隔操作できることまでは知らないようだ。その隙を突けば、こいつら三人を倒せるだろうか。


 ……。


 このエムが間抜けには見えない。あえてどの程度のことを知っているか、こちらの戦力を知っているか、情報を明かしたのか。俺に無駄だと思わせるため? いや、違う。これは罠だ。罠の可能性が高いだろう。俺に勝てると思わせるため。


 それはなんのためだ?


 俺が手を出しやすくするために、か?


 こいつらは戦いたいのだろうか?


 俺は大きく息を吐く。


「それで? もう一度聞く。どうするつもりだ?」

「大老が……」

「俺はあんたに聞いている。どうするつもりだ?」

 俺はエムの言葉を遮り、どうするかを問う。


 エム。この取り立て屋は有能だ。俺たちに気付かれたと分かった瞬間、すぐに姿を見せた。状況判断が出来る奴なのだろう。


 俺は攻撃を仕掛けない。ただ、こいつらに問う。


 俺はエムを見る。


 エムも俺を見ている。


 ……。


 エムが肩を竦め、大きなため息を吐く。

「まいった。俺たちは撤収する」

「分かった」

 俺はエムの答えに満足する。


「え? はぁ? 意味がわかんないんだけど」

 シーズカは間抜けな顔でそんなことを言っている。


「エム、ユメジロウのじいさんに伝えてくれ。誰と手を組んだのかは知らないが、俺たち(・・・)と手を組んだ方が得だ、とな」

「分かった。しっかりと伝えておく」


 三台の単車が身を翻し、ハルカナの街の方へと帰っていく。


『あらあら。倒しても良かったでしょ』

 エムたちと戦って勝つことは出来ただろう。だが、奴にも何か隠し球があったはずだ。戦えば、こちらの被害もそれなりに出ていただろう。シーズカを守り切れたかも分からない。それに、今はまだ、あのじいさんと敵対するのは得策では無い。向こうもそう思っているから、いきなり襲いかかっては来なかったのだろう。


 後は――、

『敵対するにしても、セラフ、お前が買った武装を搭載してからだ。そうだろう?』

『それは確かに。ふふん、納得の理由ね』

 もし、潰すのなら、準備は万端にするべきだろう。


「ガム、私、意味がわかんないんだけど」

 助手席に座ったランドセルを背負ったお子様が騒いでいる。

「もうすぐレイクタウンだ。そこが目的地だ。ゴールが近いのに護衛は必要ないだろう?」

「そうな、の?」

「そうなんだよ」

「そうなのかー」

 シーズカは首の後ろで腕を組み、助手席にもたれかかる。背中のランドセルが大きく潰れている。シーズカはあまり納得が出来ていないようだが、それでも分かってくれたようだ。


 俺はグラスホッパー号を発進させる。


 レイクタウンはもうすぐだ。


 ゲンじいさんのところにシーズカとカスミを預け、セラフが頼んでいた武装をクルマに搭載したら動くべきだろう。


 最後の一つ。


 最前線。


 そして、絶対防衛都市ノア。


 セラフの目的。


 この地、この時代、この世界を支配しているマザーノルン。


 マザーノルンとの最終決戦は近い。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大詰めだ! [一言] 準備万端絶対防衛最遊決戦いよいよですねー。 敵に回すにも撤回させるにも一筋縄じゃいかないガム君さすがなのだった。 敵対したら大損になるぜ。 各地を回って古巣に戻っ…
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