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かみ続けて味のしないガム  作者: 無為無策の雪ノ葉
湖に沈んだガム

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418/727

418 湖に沈んだガム01――それは俺の相棒に言ってくれ

 今、この狐顔の男はなんと言った?


 ノルンの端末(むすめ)の本体である球体をこちらに差し出すと言ったのか?


「それが何か知っているのか?」

 俺の言葉に狐顔の男は胡散臭い笑みを浮かべたまま首を横に振る。

「まさか! フェー様が大切に抱えて逃げておられたので価値があるものだとは思いますが、それだけですよ。そのフェー様はアクシードの連中に殺されてしまったようなので、私が回収したと、そういう訳なんですよ」

 俺は狐顔の男の言葉に、なるほどと頷く。


『なるほど。胡散臭いな』

『ふふん。こんな時代、こんな場所で商人として大成しているんですもの。胡散臭くて当然でしょ』

『セラフ、お前の口から、こんな時代なんて言葉が出るとは思わなかったよ』

 俺は肩を竦める。


「商人がよくアクシードの連中から奪い返せたものだな」

「ええ。こう見えても命を狙われることが多いので、身を守る手段はいくつか用意させて貰っているんですよ。それが良かったんでしょうね」

「身を守る手段、か」

 自分の身を守っていたら、偶々、その球が手に入ったとでも言うつもりなのだろうか。


「それで? 何故、それを俺のところに?」

「そこは商人の勘でしょうか。で、どうされますか?」

 その球体がノルンの端末(むすめ)だとは知らない? 知らないが、それを俺たちが欲していると知っている? で、その理由が勘? 胡散臭いし、怪しすぎる。怪しすぎるが、俺たちが端末を手に入れ、この地域を攻略するチャンスでもある。


「分かった。好意は受け取っておく」

 俺は狐顔の男からノルンの端末(むすめ)の本体である球体を受け取る。

『セラフ』

『ふふん。すでに攻略は完了したから。ここの支配も、情報も任せなさい』

 どうやら端末を受け取った時点で、すでに攻略は終わっていたようだ。なんとも素早い。だが、これで、ここの裏情報や、この胡散臭い商人のこともある程度は分かるだろう。


「……ちなみに、フェーの死体は見たのか?」

 正確にはフェーを名乗っていた少女? 少女のようなもの? か。こいつは、あのフェーを名乗っていたアレが何かを知っているのだろうか?

「残念ながら。フェー様がそれを抱えて逃げていたところと、その後、アクシードの連中がそれを持っていたところしか見ていません。無事に逃げてくれていると良いのですが」

 さっきは殺されてしまったようだと言った男が、今度は無事に逃げてくれていると、なんて言っている。いや――この胡散臭い狐顔の男は、無事に逃げてと言っているのが、何がとは言っていない。フェーを名乗っていた少女だとは言っていない。


 ……。


 わざわざ、それを指摘するつもりは無い。必要も無い。俺たちの手元にこの球体が来たということだけで充分だ。


「そうか。それでお願いというのは?」

 狐顔の男が揉み手でもしそうな様子でこちらにすり寄ってくる。

「聞いていただけますか。ええ、ええ、ずうずうしくも、ガムさんにお二つお願いがありまして」

「それで?」

「一つ目は護衛です。ガムさんもご存じの、大老からお預かりしていた技師がいるんですがね、その子を安全な場所まで送り届けて欲しいんですよ」

「それはハルカナのユメジロウじいさんのところに連れて行ってくれということか?」

 俺の言葉に狐顔の男は首を横に振る。

安全な(・・・)ところ(・・・)までお願いします」

 どうやらユメジロウじいさんのところは安全ではないようだ。となると……。


「分かった。それくらいなら……引き受けた。それで、もう一つは?」

 狐顔の男が目尻を下げ、怪しく笑う。

「私、この街を陰から支配したいと思っていまして、このチャンスにガムさんにご協力していただけたらと思ったんですよ」

 そして、狐顔の男はそう言った。


「何故、それを俺に言う?」

「そんなご謙遜なさらずとも。凄腕のガムさんのお仲間、凄かったですよ。まさか、私が出し抜かれて経営権まで取られかけるとは思いませんでした。一介の商人――商会の商会主として格の違いというものを思い知りました。あの時は新しい時代の……時代の風を感じました。そのお力を貸して欲しいと思っただけなんですよ」

 狐顔の男は胡散臭い顔のまま微笑んでいる。


 ……。


『セラフ』

『ふふん』

 セラフは得意気に笑っている。

『セラフ、やらかしたな』

『あらあら。何がやらかしかしら?』

 俺は大きくため息を吐く。

『セラフ、お前がやったことだ。後始末は任せた』

『ふふん。元からそのつもりだから』


 俺は肩を竦める。

「それは俺の相棒に言ってくれ」

「おや? ガムさんから言っていただけると助かるんですが」

 俺はもう一度、ため息を吐く。

「そこは大丈夫だ。あいつも乗り気みたいだから、あんたの良いようにしてくれるだろうさ」

「なんと。それは助かります。さすがは凄腕のガムさんですねぇ」

 俺は胡散臭い狐顔の男の言葉に肩を竦める。


『最前線からの流れ弾で街が滅びる前に、復興なり、支配なり、適当に上手くやってくれ』

『はいはい』

 セラフはそこそこやる気のようだ。


 不安しかないが、セラフに任せておけば、とりあえずは大丈夫だろう。多分、いや、きっと。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大商人セラフさん! [一言] すっかり経営にハマってしまわれてw これで名実ともに乗っ取れそうですね。 ともあれセラフの目的は果たせたし、ガム君の目的も寄ってきた感じ? あとは賞金が入る…
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