416 時代の風50――偽物?
『あらあら、随分と容赦がない』
俺は真っ二つになったフェーを名乗っていた少女だったものを見る。その体からは真っ赤な血の代わりに白い液体が溢れ、流れ落ちていた。
血は?
俺は、真っ赤な血が流れていないことが少しだけ気になった。
『セラフ、少しだけクルマを頼む』
『はいはい、少しね』
俺はハッチから飛び降り、改めて転がっている死体を見る。断面からはしっかりと内臓が見えている。だが、そこから流れている血は白い。ならば血管は? 転がっている死体の腕を取り、よく見る。しっかりと血管が見えている。その色は白ではない。中からは白い血? だが、皮膚には普通の血の色が……どういうことだ?
……。
これは――模様か? それは血管ではなく、そう見えるように造られているだけの偽物だった。
なんなんだ?
この少女は人造人間だったのか? だが、今まで俺が見た人造人間と同じようには見えない。機械的な要素がないのだ。種類が違う人造人間なのだろうか?
俺がそんなことを考えていた時だった。
「これ以上、進むのは危険なのですよ」
通路脇、その物陰からフェーを名乗っていた少女と同じ姿の少女が現れる。俺は足元に転がっている死体を見る。死体が甦った訳では無い。
「お前は……何者だ?」
「アクシードの残党が残っているのですよ。クロウズとして、まずは奴らの殲滅をお願いしたいのですよ。このままではオフィスが活動出来なくなってしまうのですよ」
フェーを名乗っていた少女とまったく同じ姿をした少女がそんなことを言っている。姉妹? 双子? 分からない。
俺はその新たに現れた少女の元へと歩き、その腕を取る。
「何をするのですよ」
脈拍がない。やはり、この血管――これは偽物だ。俺が今まで見た人造人間は機械の延長という感じだったが、こいつは生物の延長という感じだろうか。だが、人のような外見をしているというだけで、異質な存在であることは変わりない。
「もう一度、聞く。お前は何者だ? 答えなければ殺す」
「何を言っているのですよ。手を離して欲しいのですよ」
俺は少女の腕をねじり上げながら、首へと腕を回し、そのまま首を折る。少女は、ぐぇとだけ呟き動かなくなった。普通なら死んでいる状況だが、油断は出来ない。
俺は最初の、転がっているフェーを名乗っていた少女が持っていた玩具のような銃を拾う。
『セラフ、これは扱えるだろうか?』
『ふふん。問題無いから』
俺は玩具のような銃を構え、先ほど首の骨を折った少女が動かないか、しばらく待つ。動かない。
足元の少女は動かなかった。
「これ以上、進むのは危険なのですよ」
だが、通路の物陰から同じ姿、同じ顔をした少女が現れた。俺はすぐに玩具のような銃の引き金を引く。玩具のような銃から電撃のような光線が伸び、それに触れた少女は一瞬で塵となって消えた。確かに見た目よりも凶悪な銃のようだ。
「これ以上、進むのは危険なのですよ」
だが、次の少女が現れる。
「これ以上、進むのは危険なのですよ」
「これ以上、進むのは危険なのですよ」
次々と現れる。
どいつも同じ姿、同じ顔をしている。
ゆらりゆらりと現れる。
俺は玩具のような銃の引き金を引き、現れる少女を殺していく。
「これ以上、進むのは……」
引き金を引く。
だが、カチカチッと音がするだけで何の反応も無い。どうやら弾切れのようだ。俺は玩具のような銃を少女たちの方へと投げ捨て、ドラゴンベインへと走る。
次々と現れる少女たちがドラゴンベインへと群がってくる。
俺はドラゴンベインのハッチから中へと滑り込み、すぐにハッチを閉じる。
『セラフ、進むぞ』
『ええ』
すぐさまドラゴンベインを動かす。
「これ以上、進むのは危険なのですよ」
「これ以上、進むのは危険なのですよ」
「これ以上……」
群がる少女たちをひき殺し、ドラゴンベインを進ませる。
こいつらは何だ? 同じ細胞を増殖して造られたクローンなのか? だが、おかしい。クローンだとして、全てが同じように育つのか? その間の教育は? 環境は? それに、何故、血液の代わりに白い液体が循環している? いや、血管が飾りだったのを見るに、外側と中側で別物なのだろう。人の皮を被った生命体と考えた方が良いのかもしれない。
なんなんだ、こいつらは?
群がる少女たちをシールドで吹き飛ばし、踏み潰し、Hi-FREEZERで体内から凍らせ、殺す。
ドラゴンベインを進ませる。
そして、大きな扉が見えてくる。
『セラフ、あそこか』
『ふふん。間違いなさそうね』
俺はハッチから右腕を出し、構える。
「斬鋼拳」
俺はハッチの縁に体を打ち付けながら、その反動に耐え、斬鋼拳を飛ばす。
『セラフ、突っ込め』
『ふふん。任せなさい』
ドラゴンベインが扉へと突っ込み――大穴を開けて、突き抜ける。
その部屋には自分の背丈と同じくらいの大きさの、砂時計の中央にまん丸な球体が収まった謎の機械があった。
『セラフ、アレか』
『ふふん。これで……いえ!』
セラフの大きな驚きの声が頭の中に響く。
『どうした? 何か不味いことでも起きたのか?』
『アレは偽物ね。ふふん、やるじゃない』
『偽物?』
『ええ。持ち逃げされたみたいね』
持ち逃げされた? つまり、逃げられたのか!
となるとこの部屋自体が罠である可能性は高い。俺はすぐにドラゴンベインを後退させる。
次の瞬間、球体が爆発した。
急ぎ、ドラゴンベインを後退させていく。爆発が、爆風がドラゴンベインを追いかける。
「これ以上、進むのは……」
少女たちを踏み潰し逃げる。爆風がフェーを名乗っていた少女たちを飲み込んでいく。
逃げる。
ドラゴンベインを走らせ、オフィスのビルから飛び出す。爆発するビル。爆発に飲み込まれていれば、いくらシールドの有るドラゴンベインでもただでは済まなかっただろう。
……。
『追い詰めたはずが、逃げられたか』
アクシードの連中はこのビルを占拠していた。その間にノルンの端末の本体の持ち逃げが出来たとは思えない。あのフォルミという奴はそこまで間抜けではないだろう。
では、どのタイミングだ?
……。
考えられるのは、あのフェーを名乗っていた少女たちに群がられていた時か。あのタイミングで、少女たちの一人がすり替え、持ち逃げしたのかもしれない。
随分と間抜けな失敗をしてしまったようだ。
『さて、どうする?』
『待ちなさい。ふふん、どうやら、何とかなったようね』
俺はセラフの言葉に反応する。
誰かがドラゴンベインに近づいて来ている。
……。
それは商人を名乗っていた狐顔の男だった。手に、俺たちが求めていた球体を持っている。どうやら、アレが本物のようだ。
俺はハッチを開け、そこから顔を出す。
「止まれ」
俺の言葉に狐顔の男が足を止める。
「凄腕のガムさん。これをお探しでしょう?」
狐顔の男は胡散臭い笑みを浮かべ、こちらへと球体を差し出している。
「何のつもりだ?」
「いえいえ、こちらは差し上げますよ。これをお探しだったんですよね? ただ、少しお願いがありまして、いえいえ、もちろん、交換条件とかではありませんよ。お願い、そうお願いですよ」
そして、狐顔の男はそんなことを言いだした。
次回は人物紹介の予定です。




