415 時代の風49――俺か? 俺はガムだ。知らないのか?
ぐちゃぐちゃになって吹き飛んでいくフォルミ。
『セラフ、見ただろう?』
『はいはい。何を言っても無駄だったのね、とため息を吐いた方が良かったかしら?』
『馬鹿になった訳じゃない。脳まで筋肉に汚染された訳でもない。これが最短で最善。格の違いって奴さ』
俺の体が元の人の姿へと戻っていく。それは戦闘が終わったからなのか、それとも体の再生が終わったからなのか。
人狼の姿でも存外、普通に喋ることが出来たことに驚いたが、ナノマシーンで変身していることを考えれば、それは当然だったのかもしれない。人狼を模したものに変身しているだけで、別に伝承にあるような人狼になっている訳ではない。あくまで自分に都合が良いものなのだろう。
……。
俺は息を吸い、大きく吐き出す。空気が美味い。新鮮な空気だ。改めて呼吸の大切さを実感する。それを思い出させてくれたことには感謝しても良いだろう。
これでアクシード四天王とやらも終わりだ。奴に懸かっていた賞金の使い道を考える必要があるだろう。だが、その前に俺にはやることがある。
『ふふん。当初の目的を思い出したのかしら』
当初の目的?
それよりも重要なことがある。
俺はドラゴンベインの砲撃で半壊し、ゴミクズと化した人型ロボットから飛び降りる。そのままドラゴンベインのハッチへと滑り降りる。
まずは着替えだ。
何度も死に、ボロボロになり、最後のとどめに人狼化だ。俺が着ていた服は限界を超え、天元を突破している。つまり無だ。
こんな姿を見られれば、また何を言われるか分かったものではない。
ドラゴンベインに用意されていた着替えに袖を通す。
『用意してて、よかっただろう?』
『ふふん。それはお前にとってでしょ』
セラフはため息でも吐きそうな声でそんなことを言っている。
『当初の目的、忘れていないさ』
俺は自分の左腕を軽くぽんぽんと叩く。酷使し、壊れた機械の腕九頭竜。この戦いでさらにボロボロになってしまった。当初の目的は、この機械の腕九頭竜の修理だ。
そして、この街を支配しているノルンの端末の攻略。
アクシード四天王のフォルミの討伐はオマケでしかない。賞金が貰えてラッキーくらいのイベントだ。
そろそろ本来の目的を達成するべきだろう。
『セラフ、行くぞ』
『ふふん。やっとかしら』
ドラゴンベインを動かし、オフィスのビルの中へと突っ込む。
「敵襲、敵襲ー!」
「んだよ、外はフォルミ様が行っただろー。俺たちゃ、こっちの攻略に急がし……」
「マジに敵襲! フォルミのやろう、おっちんだみてー」
「げんげん、ついに俺が四天王の枠に収まる時が来たか」
現れたアクシードの兵士たちをドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲で吹き飛ばす。
『あらあら、建物の中で砲撃するなんて。命が惜しくないのかしら』
『ここが、この程度で壊れるような建物だと?』
荒くればかりのクロウズたちが集う場所だ。そして、賞金首たちの恨みを買っている場所でもある。そんな場所が、ただの砲撃で何とかなるとは思えない。遠慮無くぶっ放しながら進んでも大丈夫だろう。
ドラゴンベインを走らせ進む。
そして、その目の前で防壁が落ちる。進路が閉じられる。
すぐにドラゴンベインの150ミリ連装カノン砲で砲撃する。大きな爆音が響き、爆煙が漂う。そして、現れたのは無傷の防壁――
『あらあら、確かにこの程度では壊れないみたいね』
俺は大きくため息を吐き、肩を竦める。そのままドラゴンベインのハッチを開け、そこから右腕を伸ばす。
「斬鋼拳」
俺の拳が消える。
そして防壁に穴が開く。これで充分だ。すぐにドラゴンベインの中へと戻り、砲撃する。砲撃を受けた防壁は、穴の開いた場所から大きくヒビが入り、そして砕ける。
『この程度では壊れないが、この程度で壊れるようだな』
『はいはい』
ドラゴンベインを進ませる。
オフィスのビルの中を進む。
防壁を突き破り進む。
防壁?
オフィスのシステムが生きている。それは、つまり、フォルミたちは未だ攻略途中だったということだ。好都合だ。ここまで追い詰められている状況では逃げることも出来ないだろう。
やり方は変わってしまったが、フォルミのおかげで逃がすことなく、ノルンの端末を追い詰めることが出来た。
目的を達成出来る。
ドラゴンベインを走らせる。
!
その俺たちの前に少女が飛び出してきた。
「お、お待ちくださいですよ」
それは、あのフェーを名乗っていた少女だった。随分と慌てている。
俺はドラゴンベインを止め、ハッチから顔を出す。
「どうした?」
「こ、これ以上、進むのは危険なのですよ」
フェーを名乗っていた少女は大変面白いことを言っている。
「これはお前の望み通りだろう?」
「アクシードの残党も残っているのですよ。まずは奴らの殲滅をお願いしたいのですよ。このままではサンライスの多くの民の命がアクシードによって奪われてしまうのですよ」
フェーを名乗っていた少女はうっすらと涙を浮かべ、訴えかけるように話しかけてくる。
「なるほど。それは大変だ」
「そうなのですよ。ですから……」
「ああ、そうだ。それなら、それは正義の味方に頼むといい。俺は、あんたからの依頼を終わらせるとしよう」
「な、何を言って……」
フェーを名乗っていた少女は困惑した顔で俺を見ている。
「ああ、そうだ。これも言っておかないと、だな。お前たちがやっていた賭けには期限がなかったよな? 賭けは最後まで到達で決着だ」
「な、何故、それを! お前は何者なのですよ!」
フェーを名乗っていた少女が驚き、慌てて服に隠していた近未来的な形をした玩具のような銃を取り出す。
「俺か? 俺はガムだ。知らないのか?」
俺はドラゴンベインの中へと手を伸ばす。そして、それを掴む。
「くっ、なのですよ。間違えたのですよ。配役を間違えたのですよ。お前のようなイレギュラーはここで始末しておくのですよ」
フェーを名乗っていた少女が玩具のような銃を構える。
『ふふん。アレ、見た目より凶悪よ』
セラフは楽しそうな声で、今にも武器の説明を始めようとしている。
『そうか、それは不味いな』
俺は肩を竦め、
「借りていたものを返すよ」
すぐに持っていた筒から光刃を生み出し、フェーを名乗っていた少女へと投げる。光刃が少女を真っ二つにする。




